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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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1:波乱Ⅳ

 本来、屋上への立入は禁止されている。閉鎖という程ではないが、登る階段から、余った机や椅子で、多少のバリケードは作られている。


 だけど、今は嘘のように通路の形になっていた。以前訪れた時、まるで「座敷童」のような魔界の住人に呼ばれた時にも、ここまで行き来しやすくはなっていなかったはずだ。

 誰かが移動させたのか。そして、リアちゃんかなと思い付く。


 階段を駆け上がり、扉を開けてみれば、雄大な空が 広がっていた。白い雲は少ない。晴々とした青い空だ。頬を擽るような風が吹くと、照りつける熱をを和らげてくれている気がした。ただ周りには誰もおらず、きょろきょろと辺りを見回す。まさか私の方が早く来たなんてことはないだろうと思うけど。


「紗希」


 短く呼ぶ声は頭上から聞こえた。見上げると黒い猫が耳をピクピク動かしている。そして、前足でこっちと手招きした。扉を閉めて私は梯子を登る。


「もう、リアちゃん。何で学校……」


 で皆に捕まっていたのか。

 発するはずの言葉を噤む。首を出してみれば、人間の姿へと変えたリアちゃんがいた。いや、それだけじゃない。さらには何とスカルさんもいたのだ。


「あ、コンニチハ」


 ぺこりとお辞儀される。


「こ、こんにちは……、じゃなくて、何でスカルさんがいるんですか?」


 ついつられてしまいそうになるところを(とど)まる。さらには、何故スカルさんが縛られているのか不可解だ。


「何というかその……縛られるというのも興奮してしまいまして……」


「…………」


 この人は何を言っているんだ。


「あ、いや冗談デスヨ冗談。本気で引かないでくだサイ」


 いえ呆れてるんです。


「え~と……リアちゃんがやったの?」

「うん、そう」


 即答だった。悪びれる様子もないリアちゃんは、むしろ得意気にも見える。むぅ、これは何か訳がありそうだ。


「さっき捕まってたことと一緒に教えてくれる?」

「うん」







 紗希が学校に来たように、ギル、リリア共々同じように学校に来ていた。と言っても、人気のない屋上をねぐらにして、紗希の警護を務めるのが常だった。


 くぁ……と欠伸をするギル。猫背になり胡坐あぐらをかくその姿は、退屈すぎて死にそうな様子だった。今のギルは戦闘などするべきではないのだが、処刑人である彼にとって、平和な学校、それも人気のない屋上というのはやはり刺激が無さ過ぎるのだろう。またもや欠伸をしたところで、タッと降り立つ気配があった。


「……お前か」


 胡座をかいたまま、両手を後ろに伸ばして地につく。その手を支えに後ろに体を傾き、ギルは首の向きを変えた。別に向けなくとも誰だかはギルならば、分かっていたはずだ。視野に入れた姿は正解であったようで、特に驚いた様子も見せない。その正解とは、人間と変わらぬ少女の姿をしたリリアだった。


「頼みが、あるの」


 リリアはそう言って、ギルの元へと歩を進める。


(……頼み?)


 以前と同じ物言いにギルは身構えた。また紗希を護れとかそういう話か。ギルはうんざりした。元々誰かの言い分を聞き入れる性分ではない。いや、もちろんそれだけはないが。

 兎に角、そんなつまらない話は聞きたくない。リリアが目の前にまで迫り、そして口からその内容を話すより先に先制した。


「お前いい加減に……」

「私を強くして」

「はぁ?」


 だがリリアの口から出てきた言葉は、ギルの予想を遥かに超えていた。一体何だというのか。よく分からず、聞き間違いなのかと疑ってしまっていた。


「……だから、どうしたら強くなるか、教えて……」


 強い意志を宿した瞳を見せていたが、徐々に俯かせ、最後はしぼんでしまったかのようだ。強くなれるのかと不安に駆られたわけはない。


 紗希を護る。そのために強くなるという意志は、確かに秘めていた。ただ、そのための手段が、よろしく思っていない処刑人であることに気が引けていたのだ。現に、ギルの問い返したその表情は、酷く馬鹿にしたようだった。


「俺に、教えろってか?」


 リリアはコクっと頷くのが精一杯となる。


「んな面倒臭ぇことするわけないだろ。他をあたれ」

「他って……」


 他に誰がいるのか。戦える者の多数は敵だ。教えを請うような者などいない。紗希を護るという利害が一致しているとはいえ、敵対する執行者であるクランツは有り得ない。スカルヘッドなど論外である。消去法で処刑人のギルというわけだ。


「いいじゃないデスか。減るものじゃナシ」

「……!?」


 そこに突然の来訪者が現れる。その気配の無さに、リリアだけではなく、気を抜いたギルも驚いたようだ。


「てめっ。どっから湧いて出やがった」

「何処ってギルさん。いやデスね。もちろん病院からデスヨ。決まってるじゃないデスか」

「……相変わらずムカつく野郎だな」

「すごく分かる」


リリアは珍しくギルに同調する。


「お、おやぁ? 二人してこれは手厳しいデスね」


 思ったより嫌われてるようだと、スカルヘッドは些かショックを受けたようだ。しかし、そんなこと知ったことではないギルはさらに続ける。


「それで、お前は何しに来たんだ」

「通院してくれない誰かさんのために出張……と、好奇心に駆られたってところでしょうかネ」


 ギルを指しているのは明らかだ。皮肉じみた言い方をしたわけだが、それについてギルから咎められることは特になかったが、スカルヘッドは視線を感じて自粛した。だがそれよりも、スカルヘッドの言う後半の部分が気になったリリアが尋ねる。


「好奇心って?」

「紗希さんの学校がどんな感じか、興味があったんデスヨ」


スカルヘッドは得意気に答えた。

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