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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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1:波乱Ⅱ

 夏に雪が降る。それは報道され、また話題として瞬く間に広がった。その現象はやはり原因不明で、魔界の住人が起因することとは明かされない。


「いやぁびっくりしたよね。まさか雪が降るなんて」

「そうね。ついに気候がおかしくなったかと思ったけど」


 翌日学校に来てみれば、早くも話題は、昨夜雪が降ったことが大半である。衣替えをしたばかりで、夏服に身を包んでいるというのに、妙な光景だった。


「あ、おはよう紗希」

「おはよう」

「ねぇ紗希知ってる? 昨日の夜雪が降ったって」


 さっそく、私の席に座っていた友達の猪上優子が尋ねてくる。伸びてきた茶髪を揺らし、大きくはしゃぐ。私より小さな背丈だが、その活発さは少しもそう感じさせなかった。子供の様に無邪気に話す様子は、まさかの雪が降って嬉しそうだ。


「もちろん知ってる。ただ今の時期に降るのはちょっと変だけど」

「そうよね。気象庁も原因不明で現在解明を急いでるって」


 一方もう一人の友達、結城加奈が前の席を借りて、優子と話し込んでいたようだ。

 普段は長い黒髪をそのままにしているのに、今日は何か心境の変化か、はたまた暑いからなのか、前髪を分けて、サイドで括っていた。いつもと違う雰囲気が少し新鮮だった。少し大人っぽい。


 ただ、加奈の様子を察するに、何故今の時期に雪が降ったのか、何故この辺にだけ降ったのか納得がいかないようだ。 


 私だけ原因が分かっているのに、分からない振りをする。隠し事があるのはあまり良い気がしないけど、魔界の住人に関わることとなると、やはりそうも言っていられなかった。


「……き、紗希ってば」

「え? 何?」

「もう、さっきから呼んでるのに」


 どうやら呼ばれていたことに気付かなったようだ。


「ごめん。何?」

「今回積もらなかったから、また雪降ったら雪合戦しよって」

「えぇ?」


 元気いっぱいの優子らしい一言だった。


「う~ん、でもまた降るかな」

「きっと降るって」

「逆に降ったら問題なんだけどね」


 肘を突いている加奈は、夏に降るなんて非常識で問題だと言う。それもそうだが、また降るとなると、魔界の住人がこの街で何かやろうとしているということだ。それこそ何をするつもりなのか突き止めないといけない。

 そのためにはどうすればいいか頭を悩ませていると、軽快な挨拶で狭山が登場した。


「サキリン、おはよー」

「ぐっ……また出た」


 背後からいきなり出てきたような突然さを感じる。金髪に近いくらい脱色している茶髪が特徴の、私の天敵の一人だ。


「その呼び方、いい加減止めてほしいんだけど……」

「可愛いじゃん」

「だから、恥ずかしいんだって」


 いくら言っても改めてくれない。あまりに調子が軽い感じのせいか、とにかく自分には合わない響きがしてしまう。そもそも呼ばれる度に、周りの皆が反応している。ような気がしてしまうのだ。


「紗希もいい加減慣れたほうが早いんだけどね」


 そう言って、同じく変な呼び方をされる加奈が助言してきた。そう簡単に順応出来たら苦労はない。


「そうやって反応するから、からかわれるんだって」

「むぅ……」

「まぁまぁ。サキリンは照れ屋だからこそサキリンだし」

「うるさい。って、ちょ……今何しようとしたの?」

「何って……これ?」


 あっけらかんに示すのは、カチューシャだ。メイドさんじゃないと着けないようなフリフリが無駄に付いている。


「だってサキリン。負けたのにメイド服着てくれないし。だからせめてこれだけでも……」


 問答無用で狭山が被せようとしてくるので、サッと後退して避ける。


「狭山と勝負したわけじゃないでしょ」

「でも俊樹に負けたじゃん。サキリンのメイドが見たいかー!」

「おー!」


 賛同を募るために、狭山は突然クラスの皆に話を振る。皆それぞれの話題に没頭していたはずだ。そのはずが、何故かこれまでにないクラスのまとまりを見せた。まさに一心同体と言える。


「うぅ……。絶対、私着ないから。いやそれも駄目」


「これは?」とカチューシャを示してきたので、断固として断る。


「どうしても?」

「どうしても!」


 あんまりしつこいので、そろそろ蹴っ飛ばしてやろうかと思う。


「分かった」

「え?」


 急にどうしたというのか。いきなり承諾し出す。その方が良いのだけど、脈絡が無さ過ぎて、こっちとしては戸惑うしかない。


「サキリンはもっと可愛いのがいいんだね。分かった。もっと萌え萌えなのを持ってくるよ」


 狭山はぐっと拳を握って、力説していた。


「……この、ぜんっぜん、分かってなーい!」

「ぐふぁ……!」


 反応した狭山が避けようとしたのか、うまくいかず余計に当たりどころが悪かったらしい。見事に溝落ちしてしまった。


「あ……」

「ふ、ナイスパンチ……」


 つい心配になってしまうが、今度はぐっと親指を立てて見せてきた。何故か泣きそうな笑顔で。


「心配するだけ無駄ね」

「まぁいつものことだし」


 加奈と優子が杞憂だと笑って見せる。確かにその通りである。


「いや痛いんだよ本当は。日に日にパンチに重みがあるし」

「毎日のようにやり合ってたらそりゃね」


 冷静に分析する優子。奇しくも楽しんでいる節がある。


「私は別に……。狭山があまりにもしつこいから」

「ごめんごめん。今度はもうちょっとうまく誘惑するから」

「だからっ!」


 全く懲りてないのか。全く分かっていないのか。どちらにせよ、面倒なことに変わりはない。


「狭山悪い、ちょっと来てくれ」

「え? あぁ、今行く。それじゃまたあとでね」


 突如クラスの男子に呼び出されたようで、颯爽と去って行った。まるで台風のようだ。


「はぁ……、何か朝から疲れた」


 机に前から寄りかかるくらい、疲れを感じてしまう。だけどまだ安息には程遠いらしい。


「紗希」

「ん?」


 加奈に短く呼ばれて顔を向ける。すると、教室の入り口の方を親指で指していた。

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