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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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1:波乱

 日が沈んだ頃、自分の部屋にてぐったりしてしまうのは、試験の疲れが残っているのかもしれない。


「ふぅ……」


 自分のベッドに腰を落として、一息つく。学校では大変であるが、それ以外は至って平和なのが救いと言えた。

 執行者、アッシュとの騒動の一件から、戦いは起こっていない。私自身は普通の人間であるけど、ひょんなことから魔界という異世界の存在を知り、ついでにそこの住人に狙われるようになってしまった。

 何とか皆に助けられて今は無事ではある。この前は、魔界の住人を倒す執行者とのいざこざがあったくらいだ。

 それからあとには、魔界の住人とは出くわしていない。もう私を狙っていないのか、執行者であるクランツが殲滅を行っているのか。前者がいいなと思うけど、どうなんだろう。


 連絡を取ろうと思えば取れる。携帯を開き、登録された執行者の連絡先を眺める。何だか連絡を取りづらい気がして、いつものようにためらってしまった。いや、本当はもっと気になることがあるはずなのに。



「大きく、なったのね……」



 魔界の住人。執行者。私自身、関わりを持ったのはごく最近のことだと思っていた。でも、本当はそうじゃないのか。執行者の一人である、イグニスさんからの言葉が頭の中を駆け巡る。懐疑的になるだけで、何の確証もいまだ得られていなかった。


 アッシュの言葉を鵜呑みにするなら、ギルに聞けばいいらしいが、何も答えてはくれない。思えば、処刑人をやっている理由。誰かを探ししていると言っていた。それが誰なのか。また、クランツが口にする、ギルが誰かを殺したというのは本当なのか。ギルは何も答えない。ただはぐらかすだけだ。何でもないと貫くだけなので、何度も尋ねれたものでもなかった。


「紗希」

 

 考え込む私を短く呼んだのはリアちゃんだった。ベッドにて丸くなっていたものの、突如ぴくりと反応した黒猫は言葉を発した。


「来てる。気をつけて」

「何が?」

「…………」

 

 あまりにも言葉足らずで、何のことだろうと思って返したのだけど、リアちゃんは呆れた表情を作る。猫の姿をしているのに呆れていると感じてしまうのは何故だろう。呆られてしまったと思うと同時に疑問に思った。


「魔界の住人だ。決まってんだろ」


 悪態をつく調子で話すギル。床に腰を下ろしてベッドを背もたれにしている。新作の漫画を雑に読んでいた。短く揃えた黒髪。軽快な無地の白Tシャツと紺のズボンを身につけて漫画を読む姿は、ギルも人間と変わらなかった。


 二人とも実のところ魔界の住人であり、私には到底感知出来ないものにも察知出来ているらしい。黒猫は光を帯びて姿を変える。ふわっと金色の髪が浮き上がり、白い肌をした少女となった。膝を前にして足を開いている。膝より前の位置で、手で支える仕草はどう見ても女の子だった。黒いシンプルな服と黒のスカートが、黒猫の姿の面影を残している。


「本当に自覚してる?」


 人間に見えるその姿に、ますます表情の変化が顕著に映る。ジトっと半目で見られ、間違いなく呆れられていた。


「してるよっ。ただちょっと、ここのところは何もなかったし」

「外見てみろよ」


 ギルが指し示す。


「外?」


 暗くなった街並みが見えるだけではないかと思いつつ、言われるままカーテンを開く。すると、窓の向こうは中々ない光景が広がっていた。ネオンサインに彩られる街と、さらに照らすように舞い散る雪がそこにあった。


「わぁ、綺麗。……いたっ!」


 感動していると、いきなり頭に後ろから衝撃が襲う。驚きと同時に振り向けば、部屋に転がるのはベッドに安直してある枕だ。


「もう! いきなり何すんの!」

「紗希に何するの!」


 私以上に怒ってくれているリアちゃんだが、拳を繰り出すも、あっさりと受け止められてしまう。そしてそのまま捕まっていた。


「この馬鹿。ここらの土地にこの時期に雪が降るか」

「あ……」


 そういえばそうだ。今は夏。言われてみれば雪が振るのは確かに変だ。


「でも、何で? ……てか離してあげてなよ」

「このっ」


 リアちゃんが拳を放つ。それをギルがいなした隙に、リアちゃんは抜け出したようだ。



「当然魔界の住人が来たからだ。それも、どうやら空に影響を与えるほどの奴がな」

「それって……」


 具体的にどれくらい凄いのだろう。私には到底理解出来ない。想像するのも難しい。今までにも凄く強い住人達はいたけど、空に影響を与えるほどの者はいただろうか。ただ漠然と、今まで以上に強く恐ろしいと思い描くだけだ。


「……けっこうやばいんじゃ」

「別にやばくはねぇよ。俺がいるんだからな。ただ紗希も用心はしとけってだけの話だ」

「……そう、だね」


 相変わらず自信に満ちた答えだ。私は、いつもと変わらないように努めて返した。


「ね、ギル。それとって」

「あ? これか?」


 別に何でも良かった。本当に必要なわけじゃない。ただ私の手の届く範囲にはなく、ギルの届く範囲にあるものであれば。


 ギルは右隣に重ねてあったファッション雑誌のことだと認識したようだ。右手で取るほうが取りやすい。ギルも右手で取ろうと伸ばした後、一旦引っ込めて左手で渡してくる。


「……ほら」

「うん……ありがと」


 ギルはアッシュとの戦いから、右手をほとんど使っていない。漫画も、左手だけで器用に読み進めていた。

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