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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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プロローグ

 暑い夏が到来していた。じわじわと、焼けるような日の光は強烈である。だが、それは昼間の話であった。今は暗く、日の光がない。 


 吹き抜ける風も何処か冷たく、涼しさを肌で感じることが出来る。夜とはいえ、ここ最近では珍しい快適な空気だった。


「ようやく涼しいわね」

「昼間は本当に暑かったですよね」


 そんな会話が交わされる。残業から帰宅するOLだった。随分遅くなった夕食を済ませようと、近くにあるコンビニへ向かうところだ。


 ネオンサインに彩られた街並み。人通りもそれなりにある時間帯で、二人が並んで歩いていると、内巻きにしたショートヘアの後輩がふと疑問に思った。


「あれ?」


 立ち止まっていた後輩に気付き、茶髪のセミロングの先輩は、少し歩いたところで振り返った。いったいどうしたのだろうと尋ねてみたのだ。


「どしたの?」

「いやあの……」


 後輩は掬うように片手を広げた。視線はその手の中心に注がれ、信じられないとすぐに言葉は紡がれなかった。


「先輩……今は、夏ですよね?」

「うん? 夏でしょ? 今日は涼しいけど、これでも暑いじゃない?」


 いったい何を言い出すのか。さっきまで暑い日が続くと言っていたとこだし、日本に寒い夏があるわけがない。


「それじゃあ、これって?」

「これ?」


 後輩が見せてきたのは自身の手のひらだった。その中には、白い、溶けかけの結晶があった。


「これって……」


 答えは分かる。考えるまでもない。だが妙だった。普通、これは有り得ない。


「そんなまさか……」


 だが、否定しようとした言葉をさらに否定するように、二人の視界に白い結晶が舞い落ちる。

 二人だけではなかった。黒く、吸い込まれそうな空から、白い雪が降ってきたと、誰もが気付き始めた。


「え? 雪?」

「何で今の時期に?」

「ママ、雪だよ」

「うそ……」


 ちらちらと舞い落ちる白い雪は、街の人間を困惑させた。冬になれば確かに積もるこの街に、季節外れの雪が振り落ちた。


「……この街に」


 そんな中、一人の女が呟いていた。女は妖艶という言葉がよく似合っている。ペロリと舌なめずりをした女。まさに彼女は、獲物を探す捕食者であった。人間ではない。まだ人気ひとけもあるというのに、堂々と街を闊歩する。


 近く、またもやこの街で何かが起ころうとしていた。


 一方、既に街に滞在する者たちは気付き始めていた。暑い夏に降る雪という怪奇。さらには、災いをもたらすであろう足音に。


 その足音は、暗く、溶け込むようにひっそりと存在していた。上手く隠れてはいたが分かる者には分かる。その特有の忍び寄る黒い影は、同種には酷く臭う。




 白く美しい雪が揺れた。


 ちらちらと。


 ちらちらと。



 街を覆い尽くすように。


 いつまでも降り続けた。

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