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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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エピローグ

「わりぃ……」


 クランツの最後の銃弾を避わしてみせた二人は、深い夜を移動していた。


 負傷と疲労。人間離れした動きは控え、歩きながらの移動だ。その間会話のなかった二人だが、突如肩に担がれたテスティモが言葉を発する。


「何が?」


 何を意味した謝罪だろうか。長い付き合いのアッシュにも見当はつかず、即座に返した。


「俺がもっとまともに戦れたなら退く必要はなかっただろ?」

「そういうことか。いちいち謝るなって。僕だって疲労困憊なんだからさ。それに……」


 一呼吸を置いた。アッシュにしては珍しく、何なんだろうとテスティモはじっと待ってみせた。


「それに、僕も邪光鎌の時間を忘れてたからね」

「そりゃお前……楽しかったからだろ」


 ニヤリと、アッシュが心踊っていたことを感じるテスティモ。自分もそうだったと同調した。


「あぁ、楽しかったね」


 問われたアッシュは素直に肯定した。余韻に浸るように、恍惚とした表情を浮かべる。ほとんど闇の街を歩んではいるが、テスティモはそれを見逃さなかった。


「探しモノにもようやく会えそうだしね。楽しみだよ」

「……そうだな」


 意見が分かれたのはどれだけ久々のことだろうか。同意してみせたものの、テスティモは本意ではない。アッシュの探しモノ。確かに戦りがいがあるだろうが、テスティモは今回ばかりは素直に喜べないでいた。


「アッシュ……。お前……」

「何だい?」


 アッシュはいつもと変わらない返事をした。


「いや……何でもねぇよ」

「そっか」


 言いかけて、止めた。今はやめよう。考えても仕方ない。テスティモは、本当は仕方ないことはないと分かっていながら、考えることを今は止めた。後回しにしたのだ。


「で? 何なんだろうねアレは」

「蜘蛛じゃねぇか?」


 運が良いのか、悪いのか。ただ本部に戻るために歩いていただけだが、引き寄せられたように、目の前には魔界の住人がいた。


 正確には目の前というわけじゃない。妙な気配がするため見上げれば、巣を張り巡らそうとしている大きな脚長蜘蛛がいたのだ。


 交差点の信号機から信号機に掛けて糸を繋げている。人一人を喰らいそうな大きな蜘蛛は、信号機の面積から、その長い脚だけでなく体すらもはみ出していた。


「魔界の住人は裏に潜むもんだろうに」

「今は夜だが、全く隠れる気がねぇな」

「キシシシ、キシシシシシ」


 自身はどうか知らないが、巣は見つかってしまうだろう。蜘蛛もアッシュを見定めている。その光る八つのまなこで見逃すまいと視線を外さない。


「獲物として見てやがるな」

「まぁ疲労困憊とはいえ、舐められたもんだね」


 飛び上がる蜘蛛。長い八つの脚での跳躍は凄まじいものだ。



「蜘蛛って嫌いなんだよね。気持ち悪くてさ」

「あぁ、そうかい。直接斬りつける俺の身になったらどうだ?」

「……ぞわっとしたよ」

「ギャハハハ! 良い答えだな」



 二人が歩いた後には、どさっと物体が落下した。綺麗に真っ二つにされた蜘蛛の物体。八本もある脚は、どれもぴくりとも動かない。やがて風化し、張り巡らそうとした糸も消えていった。

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