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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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6:隠された真実Ⅱ

 魔界の住人に狙われる人間。処刑人と一緒にいる人間。それらの要素が、執行者の耳にも入っている。


 自ら納得出来る理由を頭に浮かべた。だけど、私の耳に入ってきた言葉は全てを否定してしまった。



「そう、あなたが。大きく、なったのね」


「え……?」


 耳を疑うとは、まさにこのことだった。私が導き出した理由では辻褄が合わない言葉だ。

 ギルと出会って魔界を知って、執行者という存在も知ってから、私がそんな大きくなったわけもない。


「あの……それってどういう……」

「イグニスっ!!?」


 牽制する声が上がる。それは怒声じみた叫びだった。びくっと私の方が遮られてしまったわけだが、名指しされたイグニスさんも気付いたように謝罪した。


「……ご、ごめん。クランツ。紗希ちゃんもごめんね。私が勘違いしただけだから」

「で、でも……」


 勘違い。本当にそうなのか。名前を確認したことでどう勘違いしたのだろうか。


 それに、勘違いだったならクランツが叫んでまで止める必要があったのか。勘違いというだけでは疑念を払拭することが出来ず、私は追求しようとした。


「あんたには関係がないことだ。だから気にするな」


 だけど、クランツに押し止められてしまう。さっきまでの、険悪にも思わせる雰囲気とは一転、優しめの口調で遮られる。

 だが、その表情は焦りと苦みが滲み出ていたように感じてしまった。


「関係ない……ねぇ。嘘ついてやるなよ。可愛そうに。紗希ちゃんが一番、関係あるだろ?」

「え?」

「貴様……」

「だってそうだろ。聞いたことがあるよ。紗希ちゃんは……」


 そこから先は語られなかった。私が何なんだろうと、一番気になるところは一切ないうちに。


「アッシュ……いくら何でも、その先を言ったらあんたを殺すわ。上に咎められようと何だろうと」


 アッシュが言葉を切ったのは、命の危険があったからだった。いつの間にと思わせる速さで、イグニスさんは自身の螺旋槍を片手で、アッシュの首もとに向けていた。

 だがアッシュは、すぐに調子を取り戻して口角をつり上げる。


「怖い怖い。まぁそもそも、イグニスちゃんが口を滑らしたからからだろ。人のせいにしないでもらいたいな」

「……っ。早く、捜しモノに会いに言ったらどうなの?」

「それもそうだね。邪魔そうな僕は早々と立ち去るから、いい加減下ろしてもらえるかな。それにクランツも」


 イグニスさんだけではない。クランツもアッシュのこめかみに銃口を向けていた。


「消えろ。今すぐに。それから、二度と顔を見せるな」

「こっちだって君と顔を合わせたいわけじゃない。行くからそろそろ下ろしてくれないか」


 自由となったアッシュはきびすを返し、テスティモと共に歩み始める。


「あぁそうそう。処刑人……ギル、だったかな? 途中まではけっこう良かった。クランツが死んだりしたらまた来るから、その時にはちゃんと黒炎を見せてほしいね」

「そん時は後悔させてやるよ」

「いいね。あと紗希ちゃん」

「あ、はい」

「さっきのが気になるんなら、ギルにもでも聞けばいい。きっと誰よりも、詳しく教えてくれるはずだから」

「え……」


 銃声が響く。アッシュは闇に溶け込んで行った。


 あとに残るのは疑惑。ギルも何か知っているのか。一体どういうことかなのか。考えても分からない。


「ねぇギル、どういうこと?」

「知らねぇよ。イグニスの勘違いだろ」

「嘘。絶対嘘。何か隠してるの?」

「……隠してねぇよ。何も」


 あからさまに目を反らすギル。


「そん……」

「紗希ちゃん、落ち着いて。私がよく似た知り合いと間違えただけ。クランツは間違いを指摘したの。アッシュはああいう性格だから、面白おかしく混乱させただけ。本当に、それだけよ」


 肩に手を置かれイグニスさんに説明される。真剣な眼差しで、そう説得された。


「でもそれは……」

「信じられない?」

「っ……」


 信じることが出来るか。アッシュに言われたのと同じ問い掛け。

 ギルを信じると、もう決めたはずだった。だが、確かに今、私はギルに疑念を抱いた。その事実は、その指摘は、言葉に詰まるほどの衝撃を受けてしまう。


「信じられないならそれでもいい。でも今だけは、勘違いだったということにしておいて」

「イグニス……」

「仕方ないでしょ。紗希ちゃんだって、もう大人なんだから、簡単には騙されてくれないもの」

「……」

「……でも、今は話せない」


 あくまでも今は騙されていてくれ。そう念押しされ

る。


「私は……」

「今の紗希ちゃんは魔界の住人から狙われている立場にある。だけど、ギルもクランツも、貴方を必ず護るから。だから……」


 むしろ切に願うような印象だ。私はそれに、どうすればいいか分からない。ここから、なおも追求する術を私は知らない。


「……」

「……神崎紗希。もう一度言う。機関に来ないか?」

「え?」


 返答出来ずにいると、クランツが先に口を開いた。


「前にも言ったように、そうすればより安全に保護出来る」


 以前のように、クランツから再び提案された。


「ギルはあんたを囮だと言った。今まではたまたまだ。こいつには、あんたを助ける気なんかない。だが……」

「でも、それは正当防衛を成立させるためだったんじゃ……」


 出会った頃を思い出す。確かにそう言われた。だけどそれは、ギルと戦う許可がないのを打破しようとした布石だった。そのことも結局、有耶無耶になっていたはずだ。


「いや、結果的にはそうなったが、申し出に偽りはない。機関で保護が出来ればより安全なのは確実だ。いや、それが一番良いんだ」

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