6:隠された真実
鎌を振りかぶる。銃口を向ける。二つの影は交差しようとしていた。
「……!?」
両者が熾烈を極めんとする中、何かが割り込んできた。一瞬の閃光にも似た様子で、二人の中心に何かが空から降ってきたことだけが分かる。
強風が生まれ、衝撃に近しいものが周りを飲み込む。私は目を瞑り、さらには腕で身体を守ろうとするしかなく、いったい何なのか把握することが出来なかった。
「……こいつは」
突然のことに驚いているのは私だけじゃないようだ。
「貴様……か」
「空気くらい、読んでほしいもんだけどね……」
降ってきたものは、槍だった。長く、螺旋を描く槍。黒色と金色に彩られ、装飾に長けた形をしている。それが、威風堂々と地に突き刺さっていた。
クランツとアッシュ。二人が同時に向いた方向。その方向で着地したのは何と女性だ。二人とも知り合いのようだった。
「執行者同士の戦闘は禁じられてるはずだけど?」
ようやく完全に姿が照らされる範囲まで近付いた女性は、なかなかに高圧的だ。揺れる赤みがかった髪。顔が隠れるようなことはないが、後ろ髪は背中に届きそうなくらい長い。鋭い目つきでクランツとアッシュを見据えていた。
年齢は若く、私より少し上くらいに思える。服装はクランツのものと酷似してはいるが同じじゃない。
「それがどうした。上に報告でもするか?」
負けず劣らずクランツは、鋭い眼光で女性を睨み返す。あまり良い間柄ではなさそうだ。
「そうね。とりあえず報告はさせてもらうわ。今止めるというなら、出来るだけ穏便に」
「……消えろ。死にたくなければな」
銃口を女性に向ける。その凄みは躊躇いなく撃つだろうと感じさせられる。
「クランツ。……どうしても止めないって言うなら、無理矢理にでも止める。負傷したあんたらと私、どっちに軍配が上がるか、分かるでしょ」
「怖い怖い。けどいいのかな? イグニスちゃん。結局執行者同士で戦うことになるけど?」
「あくまで最終手段よ。その前に、あんたらに上からの通達を伝えるわ」
「……」
沈黙が場を支配した。通達の内容は何なのか、二人も一応は気になるようだ。
「アッシュは本部に戻ること。クランツはそのまま執行者の任に就けとのことよ」
「おいおいっ。結局……、クランツが統括するのかよ」
「一応こっちも正式に執行者の任を任されたわけだからね。はい、そうですかって、クランツに譲るわけにはいかないよ。この街には、面白そうなのがたくさんいるんだから」
テスティモとアッシュは当然とばかりに納得しない。アッシュが言う面白いものとは、ギルたちに他ならない。何よりその笑う視線が訴えていた。
「アッシュ。あんたにはもう一つ。例の捜しモノが見つかったから、その任に就いて良いということらしいわ」
「……へぇ。随分用意がいい。それに、ジジイたちにしては、珍しくこっちの意思を汲んでくれるもんだね」
「それでも戦いを止めないってなら実力行使に打って出るわよ」
「……ははっ、迷うね。クランツとも決着つけたいし、イグニスちゃんとやるのも面白そうだ」
滅多にない機会だからねと、アッシュは退くことを知らない。あくまで一時中断しただけであって、再び火花が散ろうとしていた。イグニスと呼ばれた女性も、緊張を漂わせた。
「だがまぁ……良いさ。今回は大人しく下がるとするよ。念願だった捜しモノなら話は別だから。何より優先させたい事項だ。いいだろ、テスティモ」
「……あぁ、まぁ正直その方が、有り難いな……」
「クランツは? まだ異議がある?」
女性はクランツの方を向いて確認を取る。銃口を向け続けるクランツは、少し何かを考えてから口を開いた。
「あるな。魔界の住人は殺すのがルールだ。俺と同じ側にいるだけで不愉快だ」
「抑えて。上の考えには従いなさい。それに、アッシュとテスティモは執行者としての責務を全うしてるわ。直接的にも間接的にも、おかげで助かった人間は大勢いる。もはや必要な存在よ」
「……なら二度とそいつらが現れないようにしてもらうぞ」
「ええ。努力するわ」
そこでようやく、緊張が少しだけ和らいだ気がする。イグニスと呼ばれた女性は、銃口を下げてもらう。さらにゆっくりと歩いて、自身の槍を掴み取る。
「さて、そういうことだから。今日はもうおしまいってことで。いいわよねギル」
そこで、イグニスという女性の口からギルの名前が出てきた。
「ふざけんな。まだ俺は……」
ギルは注射の効力が切れ始めたらしく、立ち上がるところまで回復していた。
「相変わらずね。そうやっていつも自信に満ちたとこも。無茶をするとこも」
「ギル。知ってるの?」
「流れで分かるだろ。こいつも執行者だ」
「この人も……」
大体の察しくらいはついていた。けど、女性もいたんだと思わずにはいられない。やはりその事実に多少驚いていると、イグニスさんも何かに驚愕した様子だった。
「……あなた、まさか……」
「え……?」
私のことだろうか。きょろきょろと見回し、リアちゃんとスカルさんではないらしく、自分自身に指を指してみる。
「……もしかして、あなたが神崎、紗希ちゃん?」
「……あ、はい」
私のことまで知っているのだろうか。イグニスさんはたたっと駆けて来る。クランツやアッシュと同じ執行者とは思えない、普通の動きだ。
「そう。あなたが……」
いったい何だろう。アッシュも私のことを知っていたみたいだったから、同じように知っていたのかと思った。