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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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5:鎌ⅩⅡ

「くそ……」


 態勢が悪い。うまく着地出来るか。アッシュは次にどう動くべきか、数秒あるかないかという短い時間の中で頭を巡らせた。

 際どい。テスティモを手放した今、銀の閃光を防ぐ手段はなく、着地した瞬間に離れるしかない。それでも、おそらくは間に合わない。脚は殺られるだろうと悟る。

反転し態勢を整えると、アッシュは地を蹴る。


 やはり、全てを避けきることは出来ないか。だが……。


 諦めたというより、覚悟したというべきだ。脚を損傷しようと、戦えなくなるわけじゃない。その時だ。


「なっ……!?」


 光に呑み込まれるだろうその一瞬、光は消えた。クランツが放った銀の閃光は消滅したのだ。


「ハァ……ハァ……ったく……。世話、焼かせやがる……」

「テスティモ……」


 邪気を纏わず、頭蓋骨から出でる光も今にも消えそうだった。テスティモ自ら飛昴閃を撃ったのだろう。


「ははっ、待ちくたびれたよ」

「……仕方ねぇだろ……。あんな気持ちわりぃ光、浴びてたんだからよ……」


 あんなと指すのは銀の閃光には違いないが、その表現が意味するのは先程ではない。今まさに、クランツが追い討ちとして撃ってきていた。


「そりゃそうだ。さぁて、まだいけるか?」

「……当然」


 テスティモを手にするアッシュ。同時に、再び放たれた銀の閃光を邪光鎌で刈り取った。


「思った以上にしぶといな」

「それこそお互い様じゃないか。まぁそれでこそ、殺しがいがあるんだけどね。君にも分かるだろ?」


 着地を終えたところをアッシュは狙いすます。鎌の間合いに入るまいと、距離を取るクランツに、同意を求める。


「殺しがい? そんなもの知るか。早々に死んでくれたほうが、こっちは都合が良い」

「やれやれ……何処までも君とは合わないよ。だがらこそ、有り難い」


 アッシュも自ら嫌っているのだ。合致しない部分が垣間見えるほど安堵出来る。少しでも共通しようもなら、吐き気がすると悪態を付いていたところだろう。


「ち……」


 まさに同感のクランツであるが、アッシュとの戦闘には舌を打つ。今銃は一丁。補充の弾もない。銃にある残り四発だけで仕留める必要があった。


「今撃ったところで無駄なのは分かっているばずだろ? また無駄撃ちするってのか?」

「……っ」


 まだ距離はある。左の銃で照準を合わせたところに指摘が入る。反応し、そして撃つのを躊躇ってしまう。その隙に、アッシュが間合いに入った。


「そらぁっ!」


 振り抜かれる鎌。邪気を纏い、避けるクランツの肉体を蝕む。

 振り抜いた瞬間、零に近い距離で銀の銃弾を撃つ。確かにテスティモを振り抜いた。だというのに、邪光鎌は広がり、これまでにないくらい膨れ上がってアッシュを護る。

 そして一閃。邪光鎌は堅固な楯となり、そしてまた強大な刃を顕現させた。その大きな刃でクランツを二つに裂いた。そう、映った。

 クランツの影は消え行く。残るは銀色のコートのみだ。


(残影……か)


「見えてるよ」


 背後に回るクランツを見逃してはいない。十分に対処出来ると睨み口角を上げる。


「あぁ、そうだろうな」

「……アッシュ!」


 テスティモが力なく吠えた。


「……!?」


 当然、それは危険を意味するところだった。邪光鎌があれば問題ない。それは揺るがない事実だ。だが、強すぎる能力には何かしらの副産物が存在する。


 アッシュはテスティモを放り投げるように手放した。そしてナイフで迎撃するつもりだ。


「なるほど。せいぜい三分ってところか」

「何の話かな?」

「その邪気の塊は短時間ずつしか使えないんだろう。数分しか保たないってことだ」

「残念。ハズレだよ」


 正確には半分以上は正解している。短時間しか保たず、すぐに解除されるのは確かだ。だが三分というわけではない。連続して使うと徐々にその効力の時間は減っていく。


 ギルとの戦いがあったからこそ、今三分ほどという短い時間しか保たなくなっている。疲弊しているテスティモがそれを表していた。


「つっ……!?」


 だからといって、クランツが優勢というわけではない。残影により避わした時、完全には避わし切れていなかった。ちょうど左の肩口をやられてしまったらしく、要となる左腕にも影響が現れ始める。


 テスティモを手放したとしても、近距離戦ではやはりアッシュに分がある。たまらずクランツが距離を置くが、銃を撃つ暇を与えない。そんな思惑でさらに距離を詰めるが、既に撃ったあとだった。一瞬でも背後を取った差が生じたのだ。


「……がっ!?」


 とっさのため銀の銃弾ではあるが、生身の体で受けたならば十分のはずだ。


「……!?」


 十分であるのは間違いない。だが。


(残影……だと)


「言ったろ。見えてるって……」


 クランツと同じ所業。しかも、アッシュは再びテスティモを有し、振り抜く寸前であった。


「ちぃ……!」


 無理矢理にでも足を動かす。地を蹴り距離を置きたい。ナイフならいざ知れず、デスサイズを避わすには全く足りない。


「ぐ……っ……!?」

「が……!?」


 反転していたクランツは裂かれる。距離を置こうと動いたため、真っ二つになるようなことはなかったが、それでも深い傷を負う。と同時に、アッシュに向けて銀の銃弾を撃ち込んでいた。邪光鎌を使っていない今が好機と考えたものではなく、とっさの判断だったのだろう。

 アッシュの腹部が血で滲む。どくどくと痛々しい鮮血が流れ出ていた。


「ぐっ……ぅ……」

「……っ。……限界のようだな」

「限界? 何処が……」


 クランツの方も限界が近いと分かる。まだやれると。アッシュは損傷など厭わない。


「貴様じゃない。そこの、鎌のほうが……だ」

「……!」

「ハァ……ハァ……」


 テスティモが誰よりも如実に消耗していた。邪光鎌の弱点と言ってもいい。邪気を纏うそれは、強く猛々しい。しかし強力が故にその反作用は酷く大きかった。


「だからと言って、見逃すつもりはないんだろ?」


 テスティモが問うた。それは、勝てないだろうと悟った投げかけのようだった。非情に徹するクランツは躊躇いなく答える。


「当たり前だ。魔界の住人は殺す。……例外なくな」


 アッシュはテスティモの限界に気付かなかったわけじゃない。


「馬鹿なこと考えんなよアッシュ」

「……」

「ずっと前から、一蓮托生だったはずだろ。今更俺を、仲間外れにすんなよな」

「……相変わらずだよな。全く。人の気も知らないでさ……」


 困ったような、それでいてはにかむ表情のアッシュ。言葉にトゲを加える彼の、人間臭い表情だった。


「行くか」

「……あいよ」


 アッシュはテスティモを携え、またクランツも装飾銃一丁を手にしている。見るからに限界の姿だが、互いに退くことはない。


 そして、両者とも距離を詰めた。邪光鎌が保たない今、攻めるに限る。銃は一丁。仕留めるには絶好の機会だ。


 それぞれの思惑は交差し、結果利害は一致した。

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