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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
209/271

5:鎌ⅩⅠ

「いったいな。ったく。殺す気か」

「お互い様だろう」


 まだ距離はある。テスティモもまだ手にしていない。クランツは痛む腕で装填を続けた。


「怖い怖い。そう殺気立つなよ」

「無事かアッシュ」

「あぁ、まぁ無事とは言えないけどね。面白くなってきた」

「だな」


 口角をつり上げる。アッシュにはまだ余裕がある。当然だった。既にクランツに右腕があったのは誤算だった。


 だがそれでも万全には程遠い。装飾銃を撃てば、反動で衝撃に襲われる。繋がったとはいえ完治に至らない右腕ではそうは撃てない。普段冷めた表情をしていると認識していれば、今のクランツを見れば容易にに想像が付く。

 今の銃身による殴打も、アッシュの油断に他ならない。邪光鎌を防ぐ手立てをクランツは有していないだろう。

 今度はちゃんと数えればいいだけだ。


「わざわざ装填するのを待つのも悪手だし、ねぇ?」

「ち……」


 宣言した通り、待つはずがない。アッシュはテスティモを手に取ると、瞬時に駆ける。左の装飾銃だけでも装填し終えたクランツは、すぐに旋回するように距離を取る。


「テスティモ、あれ、頼んだ」

「あれか? あれって疲れるんだよな」

「嫌なのか?」

「いいや、任せろ」


 距離は詰めていない。まだ優にテスティモは届かない。そんな間合いで、アッシュは鎌を振り上げた。


飛昂閃ひこうせん


 空を斬るモーション。それに合わせて邪光鎌を起動し、テスティモの刃が邪気に包まれる。そして、刃の型をした邪気が飛翔した。


 私のカマイタチと似てる。それがリリアの感想だった。だが安々と口にする気にはなれなかった。その威力、技としての完成度は遥かに負けていた。自ずとそう感じさせられたのだ。


「飛び道具か」


 邪気の刃。銀の閃光で相殺する。それだけがクランツの対抗手段だ。破邪の閃光をぶつけ、飛翔する刃を殺す。


「いや、ただの囮だよ」


 何のフェイントもなく放った一撃。いくら強い威力とはいえ、執行者であるクランツが安々と喰らうはずがない。アッシュの目論見は正しい。ただ放つ気などさらさらなく、邪気の塊に紛れて接近を図った。


「あぁ。そうだろうな」


 正確に、邪気が晴れたところに現れるアッシュに銃口を向けていた。


「無駄だと言ってるんだけどね」


 互いに出方を予測している。銃口を向けられようが、邪光鎌の前では突破口にはなり得ない。


「それも承知済みだ」


 今までは片方の銃だけだった。それが今、二つの銃口が向けられていた。


「二重の閃光デュアル・レイ

「くっ……」


 単純に二倍の威力だ。いくら特化した邪光鎌とはいえ、耐えられない。そう思わされた。だがそれでも、纏う邪気を大きく展開するしかなかった。


「耐えろよ。テスティモ」

「……あっぐっ……! 毎度……無茶させてくれるぜ……」


 頼みの綱はテスティモが握る。バチバチと破邪の光と邪気がぶつかり合う。


「テスティモ、ちょっと任せた」

「……ぐくっ、あぁ……?」


 下手すれば自身が消滅させられてしまう。テスティモが歯を食いしばる中、アッシュは告げた。


 このタイミングで?


 テスティモは疑問に感じたが、すぐに納得した。


 テスティモを手放し、跳ね上がるアッシュを目で追う。その先には、既に飛び上がっていたクランツがいたからだ。銀の閃光は銃弾を媒介にしている。撃てばそれきり。クランツは放ったあと自由の身である。銀の閃光に耐えている間に、上空から撃ち抜くつもりかとテスティモは舌を打つ。


 銃口を向けていたクランツの元へとアッシュが接近している。アッシュが気付いたのが些か早かった。早々に撃つに限るが、その前に両手にナイフを携え、斬り込む寸前であった。


「惜しかったよ」

「いいや好都合だ」


 ガキィン―


 斬り込むナイフに対してクランツは装飾銃で弾く。そのまま流れるようにナイフと銃の打ち合いが始まる。


「それはどういう意味かな?」

「簡単なことだ。アレが邪魔だった。今は分断した。それだけだ」

「……!?」


 同時に目の前に銃口が向けられる。しかも銃口が僅かに光を帯びる。人間だろうが関係ない。クランツは容赦なく引き金を引いた。


「ちぃ……!?」


 喰らうわけにはいかない。装飾銃を弾いて軌道を反らし、致命傷は免れる。


(……かすっただけか)


 銃弾だって無限ではない。正直なところ、対魔界の住人の銃弾ともなれば、非常に貴重である。補充の分はもう持ち合わせていない。今銃に残っている弾だけで仕留めなければならなかったが、数少ないチャンスを潰された


「繋がったばかりの右は荷が思いだろうね」

「……っ」


 銃の反動。打ち合う衝撃。不安定な右腕は戦うには脆さが際立つ。アッシュは当然ながら着眼した。辛うじて銃身で受け止め刃は通さない。がしかし、衝撃を殺しきることは出来ない。


「くっ……」


 握力の衰えもあっただろう。右手の銃を弾かれてしまった。クランツは攻撃の手数を無くしたと言っていい。同時に護りさえも。


 アッシュのナイフさばきを銃一丁で防ぐことは困難だ。だからこそ窮地を脱しなければならない。クランツは空いた右手でアッシュの左手首を掴む。まさに振り抜こうとナイフを手にした左だ。


「……っ」


 そのまますぐさま蹴り落とした。まだ手にしている銃を使っても良かっただろうが、アッシュも右手が使える。再び弾かれるか、またそれ以外のやり方で防がれる。


 もしくはナイフで即反撃されるかもしれない。あるいは逆にアッシュが蹴り入れるか。アッシュが腕を掴まれ虚をつかれたため、クランツの方が早かったと言える。


 そして、地に向かうアッシュへと、後を追うように銀の閃光が迫っていた。

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