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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
208/271

5:鎌Ⅹ

「……スカルさん?」

「とりゃ」

「あだだだだっ……!?」


 スカルヘッドが取り出したのは注射器。内ポケットから小さな鞄を出して拡大させる。その中には医療道具が揃っていた。かなり便利だが、気になるのは突拍子もなくギルの腕に突き刺した注射器の中身だ。


「……て、てめぇ……」

「な、何それ」


 リリアも少々青い顔する。射されたギルはビリビリと痺れて、起き上がろうとしていた体から力を抜かれてしまう。


「大丈夫デスよ。ちょっと強めの麻酔……みたいなもんデスから。こうでもしないと言うこと聞かないデスからネ。まぁギルさんなら十数分で解けますヨ」

「スカルさん、ナイスです」

「くそ、後で殺してやるからな……」

「うぅ、それはちょっと……紗希さん、その時は助けてくだサイ」

「はい、任せてください」


 紗希に助けられるとは思えないが、紗希にとって、それくらいスカルヘッドの行動はファインプレイと映ったのだろう。しっかりと返事した後、ギルを気に掛けながらもクランツのことも忘れてはおらず、執行者同士の戦いに目を向ける。


「どうした。クランツともあろう方が随分と辛そうだ」

「……調子に乗るなよ」


 クランツは防戦一方だった。テスティモは魔界の住人である。ならば、銀の銃弾、もしくは銀の閃光でも撃ち込めば軍配は下る。


 だがそうも簡単にいかない。テスティモの能力、邪光鎌はブースターと言えた。テスティモ自身、また触れる者の攻撃、スピード等を向上させる。だが何よりその本質は、執行者が扱う武装に対抗するための能力であった。


「効かねぇぞ」

「んなもん何発撃っても無駄だって」

「少し黙っていろ」


 文字通り、攻撃の数が半減したクランツには厳しいものがある。それでも距離を取り、銃弾を打ち込む。間合いを取ることで牽制してはいるが、いつ崩されてもおかしくない。


「残り、一発ってとこか」

「………」


 アッシュはわざと隙を作る。クランツが弾を無駄撃ちするように。アッシュに焦りはなく、いずれ弾が突きた時、装填の瞬間を狙うつもりだ。


 クランツは答えない。流石にまずい状況ではある。本来両腕が顕在し、二丁の銃があってこそ、アッシュと互角だと称されていた。やはり片腕、一丁だけでは……。


「待って!」


 その時割り込んだのは紗希だ。ギルたちが見守る中、いち早く紗希に答えたのはクランツだった。


「邪魔するな」


 だが届いたとは言えない。なおも戦闘を止めはしないし、それも、思わぬ返答であった。


「何で、同じ執行者なのに」

「同じだからだ。同じ執行者だからこそ、魔界の住人と組むこいつとは相容れない」

「相変わらずくそ真面目だね。僕は単純明快、君が嫌いだからだよ」


 アッシュが仕掛ける。残り一発と睨み、先に撃たせるつもりだった。スピード自体は互角だが、テスティモという特殊な鎌があってはクランツに荷が重い。間合いが近ければ、クランツが不利という状況は変わらない。駆けるアッシュ。窮地を脱するため、クランツは撃つしかなかった。


 だったら外すわけにいかない。鎌が届くその間合い、ギリギリのところを見極める。鎌を振るうその腕の筋肉の動き。それらを予測した。


「撃ったな」

「こいつで最後だ」


 だが、外した。いや避けられた。ほとんど間近だと言える距離。クランツは敵の動きを把握していたはずだった。足りないのはテスティモの存在。邪光鎌というブースターだ。テスティモと共に、アッシュは幕切れだと認識する。処刑人と同様、呆気ないと思わせるほどに。


「切り札は最後まで見せるな。俺はそう、教えられた」

「……!?」

「誰が一丁だけだと言った」

「腕が……」


 ここで切り札を切る。いや、クランツが万全じゃない状態は事実だったからこそ、切り札を仕込んだ。

 ひらひらと舞う右腕の袖。確かに腕の存在はない。コートの裏で布で吊し、たった今懐から出現させた。当然、もう一つの装飾銃を手に取った状態だ。


「終わりだ」


 振りかざす鎌目掛けて、必殺の閃光を撃ち抜いた。


「無駄だって言ってるのにな」


 予想を超えた射撃だ。さっきまでと違い、鎌で軌道を砕くわけではない。振りかぶる鎌に撃ち込まれたようなものだ。だがそれでも、一瞬の間際で、アッシュは銃弾を見極めて刃ををぶつける。決死の射撃は相殺されてしまった。衝撃までは殺せず、一旦弾かれる。


「だが、貴様には無駄じゃないだろう」

「しまっ…!」


 咄嗟の判断で銃弾を防ぐ。それすらもクランツは読んでいた。衝撃で弾いた鎌。その時生じる隙を最初から狙っていたのだ。

 すかさず右の装飾銃で、アッシュを撃ち抜いた。


「ははっ、な~んちゃって」

「なっ……!?」


 やったか。そんな疑念はあっさりと霧散した。目の前に映るのは、撃ち抜かれたアッシュではない。テスティモが翠色の邪気を溢れ出していた。まるで銀の閃光を防ぐ楯のように。


「ギャハハハハ! やったと思ったか? そう簡単にはやらせねぇよ」

「ち……」


 切り札まで切ったというのに、何たる醜態だ。


「まさかもう腕を繋げていたとは意外だったけど、ここまでだね」


 邪光鎌の状態で、アッシュは鎌を振るう。いや、振ろうとした。その時、クランツが動いた。


「……!?」


 本来そんな隙など与えてくれなかっただろうが、一瞬邪光鎌が解けた。その隙に、より早くクランツが懐に侵入したのだ。


 クランツは銃身を振るった。鎌と打ち合うとするなら問題だが、テスティモに比べれば、リーチも短く小回りが利く。銃身で殴るというのも、意外に破壊力がある。


「っ……!」

「アッシュ!」


 なぎ払うように打ち付けた。これで倒せるとはもちろん思えないが、危機は脱した。


「くぁ……!」


 今しかない。クランツは痛む腕を抑え込み、銃弾を装填していく。やはり待ってはくれないらしく、まだ大して装填が済んでいないが、アッシュは頭から血を流しながら立ち上がる。

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