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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
207/271

5:鎌Ⅸ

「なるほど。全部お見通しか。君が目の敵にする処刑人に興味があったからだよ。まぁその他にも面白そうなのはいたんだけど。実際処刑人は期待外れだった。君がこだわる理由がいまいち分からないね」


 クランツは周りを見渡した。アッシュ(テスティモ)、紗希、リリア、スカルヘッド、そしてギル。


「てめぇ……何しに来やがった」


 クランツと視線がぶつかったギルは悪態をつく。その強い言葉とは裏腹に、あまりにも弱々しいその姿、もとい炎をクランツは鼻で笑う。


「何だその無様な姿は。確かに今の貴様なら、期待外れと言われても仕方ないな」

「……んだとっ」

「邪魔だ」

「……っ!」


 瞬時に移動したクランツは、ギルを蹴り飛ばして退場させる。随分と容赦のない蹴りで、ギルは数メートルは飛んだ。


「ギル」

「ギルさん」


 紗希とスカルヘッドが駆け寄る。考えあってのものか、紗希らの近くにギルは飛ばされていた。


「……てめぇ!」


 すぐさま上半身を起き上がらせギルは吠えた。だが暖簾に腕押しと言った具合にクランツの反応は酷く薄い。そればかりか視線すら合わせていなかった。


「黙ってろ。本来なら今すぐにでも貴様を殺してやりたいところだ。だが生憎、今回は優先度が違う」


 クランツが見据えた先はアッシュだ。今はギルよりもアッシュに用があると言う。


「ははっ、まぁ予想はしていた展開だね。クランツなら、真っ先に僕を殺したくなるだろうとは思ってたよ」

「理解が早くて助かるな。貴様は調子に乗りすぎだ。こいつは俺が殺す。誰であろうと邪魔はするなと常々言ったはずだからな」

「なら今殺せばいいだろうが。クランツさんよ」


 軽い調子に喋るのはテスティモだ。


「俺に、貴様等の恩恵を受けろとでも言いたいのか。身の程を知れよ」


 クランツは殺気立つ。片腕となり、戦力は大幅になくしたはずだが、執行者としての風格は備えている。


 またクランツはあえて口にしなかったが、アッシュ、いやテスティモが元々気に入らない。クランツは、魔界の住人は全て殺すとの意志を持っている。同じ執行者でありながら、魔界の住人と組んでいるアッシュとテスティモは気に入らない存在でしかない。何故か上の連中は大目に見ているが。


 内心穏やかでなかったうえに、今回アッシュに荒らされたことで、同じ執行者という仲間意識などあるわけがなく、より敵意を剥き出しにしていた。


 一方アッシュは、テスティモと組むのを良しとしている。相棒であるというのに、クランツが気に入らない感情を有しているのは常々感じていた。互いに普段から嫌悪している同士だ。いつか敵対するだろうことは予測の事態であり、むしろ互いに殲滅する良い機会であった。


「相変わらずだね君は。そういうとこがうっとうしいんだよなぁ。……というか僕さ、君のこと前から、嫌いなんだよね」

「ギャハハ。あぁ、全くその通りだ」

「そいつはちょうど良い。俺も、貴様等のことは前々から気に食わなかった」


 顕在する左手に装飾銃を有し、クランツは躊躇なく射撃した。対魔界の住人用の武器ではあるが、人間に対しても殺傷能力は高い。喰らえばひとたまりもない。

 アッシュは見慣れたように軌道を見切って避わした。距離があれば銃を扱うクランツが有利だ。アッシュは考えるより先に距離を詰めた。


「あいつら……勝手に戦いを始めやがった」


 突然割り込み、互いのことしか眼中にない様子にギルは心中穏やかではない。


「むしろ好都合じゃない。執行者同士で潰し合ってくれるなら有り難いもの」


「で、でも……」


 リリアはそう言うが、クランツには恩がある。ほっとく訳にはいかないとする紗希に、スカルヘッドが言葉を添えた。


「癪な話デスが、今の我々では止めようがありませんネ。今のうちにギルさんの治療でもしましょうカ」

「……ぐぅっ……!?」


 無理に炎を使役しようとした代償が窺える。ギルの右腕は火傷を負っていた。腕全体に傷は広がっており、皮や肉はただれ、見ているだけで痛々しいと言える。

 黒炎ですらない炎だったというのに、これほどの損傷を負ってしまったのか。火傷は酷いものだが、治すことは出来る。

 だが内なる損傷は完治まで至らず、この先似たような事態は想定出来てしまう。スカルヘッドは、この先も黒炎を使うとなると危険だと判断した。


「……っ……!?」

「……スカルさん」

「……あ……スイマセン。何デスか」


 呼ばれていることに気付かなかった。スカルヘッドは一瞬だけ悩む。紗希にも、この娘にも関わることだ。

 しかし、ふと気付いたスカルヘッドはすぐに思い直した。強がってはいるが痛みに顔を強ばらせるギル。その様子に紗希が不安に満ちた表情をしていた。


「……その、大丈夫ですよね」

「大丈夫デスよ。ちょっと無理をしただけデスから」


 スカルヘッドは正直に話すことを躊躇った。隠し事をする意図はない。ただ単純に真実を語り、紗希を、優しすぎるこの娘を不安にさせたくなかった。

 黒炎のことも話すべきではなかったと考えるくらいに。

 ぐずくずしていたからだろう。ギルが急かし始めた。


「……早く治せよ……。……俺が……あいつらを……」

「な、何言って……」

「さすがに、今戦闘は……」

「関係ねぇ……んなこと……」


 治療しないならこのままでも、ギルはそう言うように、体を無理矢理にでも起き上げようとしていた。


「馬鹿っ! ギルの馬鹿っ!? ……そんなの、死にに行くようなもんじゃないっ」


 止める紗希の言葉も、押し止めるその行動も、ギルには効かない。

 紗希は分からなくなる。処刑人と執行者。魔界の住人とはいえ、やっていることは同じなのに、どうしてここまでいがみ合うのか。

 特にギルとクランツの間には何があったのか。紗希には見当も付かなかった。


「仕方ないデスね」

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