表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
206/271

5:鎌Ⅷ

「何?」


 リリアが問う。この状況で、スカルヘッドが口にした言葉が引っ掛かった。


「マズイかもしれませン。恐らくデスが、ギルさんは今黒炎が使えナイ」


「……なっ!?」

「……ど、どういうことですか?」


 迫るように尋ねる紗希。慣れない邪気に充てられ、興奮してしまったために少々足元がおぼつかない。


「紗希」

「ごめん。ありがと……」


 リリアに支えられて転倒は回避出来た。お礼の言葉を言った後、すぐさまスカルヘッドに向き直す。


「ギルさんの黒炎は確かに強力デス。対抗出来る者などそうはいナイ。デスがその強力過ぎる炎は、代償もあるのデス。黒炎はギルさん自身をも喰らウ。現に、一時期腕が使い物にならなかったこともあるんデスヨ。酷使し続ければ、どうなってしまうのかは分からナイ」

「……っ」


 ここ最近、ギルは何回使っただろう。そんなことを考え、そして紗希は、スカルヘッドの予感が間違いないだろうと言葉に詰まる。


「それじゃ……今……」

「さすがにあれだけ追い込まれているのに、使わないのはオカシイデスヨ。今が……その限界ではないかと……」

「よりによってこんな時に……」


 リリアが苦虫を噛んだような表情をする。情けないとは思っても、今のままじゃアッシュという名の執行者には太刀打ち出来ない。

 処刑人だけなら構わないが、アッシュは執行者としてイレギュラーだ。


 口では狙う気はないと言っても、処刑人を殺した後、再度自分たち、いや、紗希に害を及ばさない保障は何もない。

 リリアは風を呼んだ。


「一対一で無理なら多対一でやる」

「そうするしか、ないデスね」


 スカルヘッドも今ここでギルを死なせるわけにはいかない。メスを手に取り、拡大させた。一本の槍のように携えたのだ。


 だが二人が向かうより先に、繰り広げられる戦いに変化が起こる。二人には踏み出す足を止める契機となってしまった。


「強情なのも大概にしなよ」

「……く……っ」


 手の内を出さないギルにアッシュは苛立ちを露わにしていた。それに相乗し、アッシュの繰り出す攻撃はより熾烈に激しさを増す。


 そしてついに、ギルにも限界が来た。フェイントのように蹴りが飛んでくる。遠心力に乗せたそれを顔面に喰らい、ギルは吹き飛ぶ。すぐさま跳ねるように態勢を立て直す。

 同時に距離を置くギルだが、邪光鎌を用いたアッシュのスピードはさらに上を行っていた。


「僕さ、待つの嫌いなんだよね。噂の邪炎を見たかったけど仕方ない」

「……っ!?」


 素早く後退した背後に、アッシュは潜む。襲い来るテスティモの刃。避けるはもう間に合わず、両手で受け止めるには態勢が悪すぎる。無理だろうが何だろが、今黒炎を召喚しなければ殺られる間際である。


「くそっ」


 観念したギルは、いまだ迷う心を有したまま、黒炎を呼んだ。



ドクン―


「……っ。何だ?」


 その瞬間、ギルから強い力を感じたアッシュは戸惑い距離を取った。何か得体の知れないものだと察知した。 いや、たとえ構わなかったとしても、ギルから溢れる強い力は、周囲を吹き飛ばす程のものだ。


「……くぁ、はぁっ……はぁっ……」


 ギルは打って変わって辛そうに立っていた。そもそも呼べる状態ではない。それほど弱った状態で無理矢理に魔炎を召喚したのだ。無理はない。ただ一番の問題は、呼び寄せたのは、黒炎ではなかったということだ。


「……これは……」

「おいおい、どうなってんだ?」


 意外であったためか。アッシュは邪光鎌をも解除して見据えていた。テスティモも意味が分からないと口にする。

 また紗希やリリア、スカルヘッドですら同様の反応を見せた。


「黒炎、じゃない?」


 ギルの腕に纏うそれは、黒炎ではなかった。至ってよく目にする、普通の炎。紅く燃え盛る炎だった。


「話に聞いてたのと随分違うけど。それが君の奥の手か?」


 さっきは強い力を確かに感じた。だがよくよく見れば、それは酷く弱い。何より消耗している処刑人は、脆い存在として儚く映る。


「……はぁっ、お前程度じゃあ……こいつで十分なんだよ……」

「強がるなよ。そんな炎を出したかと思えば、随分と辛そうじゃないか」

「処刑人ともあろうお方が惨めなもんだな」

「……あ?」


 アッシュとテスティモの発言に、勘に触ったギルはなおも鋭い眼光を叩きつける。


「……ははっ、殺気だけはさすがってところか。だがそれだけじゃあ……僕は殺せない」


 黒炎ではない。ならば恐れるものは何もなくアッシュは邪光鎌を起動させる。すぐにでもギルのもとへと向かう。勇み立つ足は、思わぬものに止められた。


「……!?」


 それはギルではなく、リリア、スカルヘッドでもない。走り抜ける一筋の光。それがアッシュに向かって放たれ、間一髪邪光鎌で薙ぎ払った。


「今のは?」


 そう疑問を口にしたわけだが、実のところ紗希には予想は出来ていたはずだ。今の一筋の光。見たことがあるはずだった。銀に光る破邪の銃弾。それを扱う者はそう多くない。


「ギャハハハハ! 生きてやがったようだぜ」


 歩み寄る気配を感じ、テスティモは招かれざる客の登場に面白くもあり、また億劫でもあった。


「あぁ。何故今この場にいるのか不思議でならない。君はもう、任を外されたはずなんだけどね。クランツ」


 徐々にその姿を表す。執行者の制服。破邪の意を示す銀色と、あくまで表に出ない隠密を示す黒色。

 左手にだけ装飾銃を携え、なくした右腕の袖はひらひらと寂しげに漂う。


「それがどうした。上の意向など知らん。俺は、俺のやりたいようにやる。だいたい、貴様がそうなるように仕向けたんだろう。なのに、よく言えたもんだな。アッシュ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ