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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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5:鎌Ⅶ

「コラ! てめぇ!」

「ぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねぇよ!」


 テスティモなりにじたばたしているつもりだが、ギルの握力の前では無意味だった。ただ耳元で芳しく騒がれるのは耳障りだったが。

 鎌として使うには関係ない。思いっきりテスティモをギルは振り回す。


「痛え! もう少し丁重に扱え!バカやろう!」

「馬鹿はてめぇだ。受け止めたこいつが悪い」


 キン、キン―

 と、アッシュのナイフと打ち合う音が響く。


「あんまり仲良くするなよ。嫉妬するだろ」

「浮気じゃねぇから心配すんな、アッシュ」


 何処か余裕めいた言葉のやりとりをするアッシュとテスティモ。それに苛立つのは当然ながらギルだ。


「ち……!」


 というのも、ギルは当然ながら鎌は扱えない。それでも戦闘力で言えば相当なものだが、アッシュから言わせれば鎌の扱いがなっていない。体術で来られるほうが些か厄介だっただろう。


 しかしテスティモを奪われた事実は厳しいものがある。攻め手に決定的に欠けていたからだ。やはり鎌のほうがしっくり来るということだろう。


 早々に取り返ないと……。ギルの乱暴な鎌をいなしながら、アッシュはそう考えた。その時だ。


「よぅ、ようやく捕まえたぜ」

「……ぐっ!?」


 鎌の刃をいなす。そう認識したが正しくなかったらしい。アッシュのナイフを鎌でいなされたというべきか。ギルにとっては、鎌もナイフも邪魔以外の何物でもなく、アッシュを捕まえるのが最良だった。


「……がはっ!?」


 胸元を掴み取り、地へと叩き付けた。アッシュは呻く。見れば、マウントポジションからテスティモを振り上げるギルの姿がそこにある。


「終わりだ」

「くそ! やるしかねぇな!」


 このままでは自ら相棒を殺してしまうことになる。テスティモは意味深な言葉を吐いて光り出した。


「いっ! てっ……」


 何故かギルは掴んでいた手に痛みを覚え、テスティモを離す。見ればぷしゅっと手から血が垂れている。その隙を狙い、アッシュは蹴り飛ばして窮地を脱する。


「っ!?」


 警戒出来ていなかったギルはまともに衝撃をも受けてしまう。地を滑ったところを手をついて跳ねる。腹を押さえ、視認する頃にはアッシュの手元にはテスティモが戻っていた。ただどうしたことか、テスティモは鈍い光を放ち輝いていた。


「……何だそれは」

「奥の手だよ。黒炎を出させるつもりが、こっちが先に出す羽目になるとはね」


 どういう能力なのか。テスティモは翠の色で輝く。ただしそれは、純粋に澄んだ光とは違う。禍々しい黒いものが光の中で渦巻いている、そんな光だった。


「何……あれ。何か……気持ち悪い……」


 口を押さえる紗希。テスティモが発する閃光を見ての感想だった。紗希の感性が特殊であるというわけではない。ただの一般人が初めて目にすれば、誰でも同じ気分になるはずだった。


 光、とは違う。正確に言えば、"邪気"であった。鎌の姿とはいえ、執行者と組んでいるとはいえ、テスティモはれっきとした魔界の住人である。そのことを表すかのように、禍々しく迸っていた。


邪光鎌じゃこうれん……」


 アッシュがそう呟いた。


「黒炎を出すなら今のうちに出したほうがいい。まだ、死にたくないだろ?」

「ただ光ってるだけだろうが。んなもん……っ!?」

「警告は……これで最後だ」


 何だ。ギルは自分に問うた。アッシュから出でる殺気は研ぎ澄まされ、突き刺さるように感じる。ギルは一瞬、寒気すら覚えたことを否定していた。


「なんて、殺気」

「殺気……というより、邪気……デスかネ……」


 リリアもスカルヘッドも、強烈なプレッシャーを感じていた。それこそ、ギルと敵対しているはずが、自分たちに殺意を向けられている。デスサイズを首元におかれ、今すぐにでも首を持って行かれる。そんなイメージを描いてしまうほどのプレッシャー。こんなもの、普通の人間である紗希が耐えられるわけがない。


「……紗希っ……!」


 リリアが慌てて見れば、紗希は胸元を抑え、青い顔をしていた。


「っ……」

「紗希。落ち着いて。ゆっくり呼吸をして」

「はぁっ……ぅ……」

「私の後ろにいてくれれば、だいぶ楽になると思う」

「ありがとう……」

「私も盾になりますヨ」

「ありがとうございます……」


 何とか落ち着いてきた紗希。後ろに下がり、二人の真後ろに移動しただけで、確かに随分楽になったと感じていた。



「出す気は、ないか」


 無表情となるアッシュ。何処か戦いを楽しんでいたように映る顔もしていたが、今は一見冷めたような顔をしている。


「言っただろうが。出させてみろって。決めるのは俺自身だ」

「そうか。じゃあ仕方ない。手加減はなしだ」


 アッシュは駆ける。否、距離はあったはずだが、それすら視認が難しい。


「ギャハハハハ!?」


 先程も執行者の動きとして納得十分出来る。邪光鎌を発動して以降、その動きは数倍に跳ね上がる。


「くそっ……!」


 肩を掠め、腹を一閃される。危うく頸動脈を斬られる。いや本当は、首ごと狩られかけていた。先程までの均衡した動き。それも、凶器を持たないギルがアッシュと均衡を保っていたのも、僅かにギルが上を行っていたからだ。


 そのアドバンテージが今は全くなく、次々にギルは斬られてゆく。いまだ真っ二つにされていないのが不思議ですらある。


「強情だね。本当に死ぬつもりか?」

「……」


 回避に努め、それでも傷を増やしてゆくギルは、苦悩に満ちた表情を浮かべるだけで答えない。


「……さすがに、まずいんじゃ……」

「……ギル」


 一気に戦況が悪くなった。その光景を目にして、リリアと紗希は不安に感じ始める。ただスカルヘッドだけがギルの様子に違和感を覚えた。


「……まさか」

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