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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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5:鎌Ⅵ

「ち……」


 スピードの上昇が段違いだった。一瞬消えたようにも映る動きは簡単には捉えられない。が、それはお互い様だ。ギルも同様に高速に移動して避ける。鎌を振るうアッシュの背後を逆に取る。


「見えてるって」

「……っ」


 すぐさま攻撃に移ったため、ギルは態勢が悪い。空中で回転を加えた蹴りを繰り出すところだった。

 だがそこにいたのは、不意をつかれたアッシュではなく、冷静なアッシュだった。右腕で内側に鎌を振ったまま、きびすを返して鎌を振り回す。


「ぐっ……」


 空中にいたギルは避けられない。とっさに襲う刃を両手で挟み受け止める。真剣白刃取りである。


「受け止めるか! やるじゃねぇか!」

「あぁ?」


 ぐんっとそのまま押され、ギルは足に地を付く。だというのに押される力はちっとも緩まない。


「テスティモ。頼んだ」

「あいよ」


 アッシュとテスティモは互いに確認した。互いだけに通じるように、最低限の意志の疎通だ。そして、アッシュは手を離す。

 しかしギルに迫る刃は引くことはない。今にも刈り取ろうと迫っていた。テスティモが自分だけで動いていることが分かる。


「笑えるくらいガラ空きだね」


 アッシュが述べた。客観的に見たギルの状況を。まるで当事者じゃない他人事のように。不適な笑みを浮かべながら。

 ナイフを取り出して、両手が塞がるギルを鋭い眼光で見定めた。


「思ったよりあっけない結末かな」

「この、舐めんな。……ぐ、く、ああああぁ!?」


 どうにも出来ないと思われたその時、ギルは渾身の力を振り絞る。テスティモの刃を押さえ込んだ両腕に力を込めた。


「げっ……!?」


 テスティモが誰より驚き、誰より困惑したに違いない。ほとんど無理矢理だった。刃を止めた両腕を振り回したのだ。自ずとテスティモは振り回される。そしてそのまま、テスティモの持ち手でアッシュを狙った。


「ちょ……。そんなのありか」


 アッシュも驚いてしまう。接近していたがたまらず回避する。ギルは早々にテスティモを放り投げて危機を脱した。


「な、なんて強引……」


 リリアも口にしてしまうほどだ。


「かぁ~、わりぃなアッシュ」

「いやいいよ。やっぱテスティモだけじゃ力が足りないのは分かったし。ならまぁ、受け止められないように工夫するだけだよ」


 窮地から脱したギルはすぐさま駆ける。さっさと終わらせるつもりなのか。全力に近いスピードだった。


「速ぇ、速ぇ」

「やる気になるのはいいんだけど、まだ黒炎を見せてもらってないんだ」

「お前の都合なんか知るかよ」


 残像だけが映る。それは交錯したギルの軌跡を辿っていた。


「左」


 あらゆるフェイントをかけ続けるギルだが、アッシュは全てを見切る。やはり並じゃない。クランツと同等以上の力量であると感じずにはいられない。


 大きく鎌を振り回すアッシュ。左から向かったギルは後退を強いられる。また離れれば最初に戻る。再度攻めるだけでは先の二の舞になり、ジリ貧だった。だからギルは策を講じた。実に単純なものだった。


「さっきの礼だ」

「……っ!?」


 アッシュは何かが飛んでくるのを目にする。否、目に飛び込んで来ていた。ギルを斬ろうと、或いは牽制しようと鎌を振った瞬間を狙われた。向かう前にギルは、手に持っていた石のつぶてをアッシュ、それも目に当たるように投擲したのだ。

 ナイフで危うく目を潰されるところだった礼だとギルは言う。鎌を振り直すには間に合わない、テスティモ自身でもそれは同様で、ナイフなんか出している余裕がないのは当然だった。


「く……!」


 アッシュは体を捻り、無理矢理の態勢でギリギリ避わす。


「隙が出来たな」

「やばっ……」


 ギルは笑いを零す。がら空きだと言われたことを、皮肉めいたのかもしれない。いずれにせよ懐に潜り込むことに成功した。


「ち……」


 テスティモが舌を打つように、不味い状況だ。アッシュは必死に飛び退くように後退を続ける。それを二度と逃がすまいとギルが離れなかった。


「これはきついって」


 ただ退くだけではない。隙あらば鎌で刈り取ろうと振り回す。


「……っ」


 紗希たちから見れば、鎌は絶えずぐるぐると旋回され、球体を描くようだった。多種多様の攻め手を繰り出すが、その度鎌で一閃され崩されてしまう。


 やはり一撃が大きいデスサイズを攻略するのは難しい。懐に潜っても、アッシュの体術と常識を外したテスティモの存在がトリッキーな動きを可能にしていた。


「テスティモ」

「何だ?」

「行ってこい」


 とはいえ、いい加減鎌を振り続けるのも疲れたのか、アッシュは兎に角距離を取りたかった。間合いにおいて不利なのは確かであるし、何より先程からギルは掴み取ろうと狙っていることが見て取れたからだ。


 叩き付けるか、投げ飛ばすつもりか、いずれにせよそれだけは不味い。アッシュはテスティモを投げ飛ばした。


 ギルはどうするか。


 スカルヘッドは特にそう感じた。単純に飛んでくるだけの凶器のはずが、テスティモが自ら調整してしまう。その身で受けたスカルヘッドは、初見にも関わらず見切ったギルが、どのように対応するか気になった。


 結論はいち早く出た。驚くべきことに、ギルは避けない。なおも飛んでくるテスティモに向かって地を蹴る。そして、腕を伸ばした。


「悪ぃな。ちっと借りるぞ」

「はぁあ!?」


 叫ぶテスティモ。旋回し、下手すれば切り落とされるなか、パシッとギルは見事にテスティモを掴み取った。勢いはますます加速し、テスティモでアッシュを狙う。


「おいおい、マジか」


 焦りと共にナイフを備える。大鎌に対抗するために、アッシュはその両の手に有したのだ。

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