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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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5:鎌Ⅴ

「良い殺気だ。ほら来なよ」


 ギルは再びフェイントをかける。何処から来るかという動きそのものに加え、いつ攻撃に移るかも悟らせない。


 アッシュからすれば、攻撃されると思い鎌を振れば、それが偽りだった時、隙が生じてしまう。まさに今、腕を伸ばしてきたところに鎌を振るってしまったのだ。即座にギルは腕を引き、再度向かう。


 普通なら間に合わない。いや、その考えが既に間違っている。何を持って普通であるのか。アッシュは人間ではあるが、およそ普通とは括れない存在だ。


「……!?」


 鎌を振るった遠心力に乗り、アッシュは跳躍する。無駄に高く跳ばず、必要最低限の跳躍。振るった鎌の勢いを殺さず、少しだけ飛び上がり、旋回しながらギルに向かう。

 そうしていち早い旋回は、再び刃を振り下ろすことを可能とさせた。距離を置くことを止め、積極的に殺しに来たのだ。


「……ぐっ」


 一旦後退し、勢いを殺したギルとの軍配は明らかである。機転を利かせて避けるのが精一杯だ。


「……のやろぅ。間合いも防御も一切無視かよ」

「攻撃は最大の防御ってやつだよ」


 軽々と片腕で鎌を振り回し、軽々と地をえぐる。ギルがいたその地は、深い溝が生まれた。


「ギャハハハハ! まだまだ行くぜ!」

「ち……調子に、乗ってんじゃねぇ」


 先程のやり取り。低い位置を狙えば鎌を踏みつけられて無効化されてしまう。それを考慮したため、狙いは打って変わる。低くてもギルの腹部あたり。早々踏みつけられはしない。

 ならばとギルは対応する。鋭利な刃の側面。実に不規則に襲い来る刃をギルは正確に捉える。持ち上げられた刃の側面を足で蹴り上げ、隙を作る。


「今度はどうするよ?」

「何も」

「なっ……!?」


 蹴りの反動で鎌は打ち上げられた。今にもかいくぐるギルを防ぐ術は間に合わない。鎌は当然、態勢が崩されているのだから、ナイフも然り。避けるも然り。

 しかし鎌を振るう。予想外過ぎる動きにギルは腹に刃を掠めてしまう。


「……何だ今のは……」


 一旦距離を取る。すると、アッシュは態勢を整え、通常通り鎌を振りかぶる。


「別に特別な能力じゃないよ」

「ギャハハハ! 俺が動いただけだ」

「何処までも面倒だな」


 戦いの最中、それだけの問答で理解する。いや、理解しなければならない。特異な能力を有する敵を相手するには、いち早く理解し、対処しなければ命を落とす。完全な理解は難しくとも、理解出来ないは通用しない。


 態勢を崩されたのに、鎌を次の瞬間に振ることが出来た理由。アッシュが振るったわけじゃない。テスティモが自分で動いただけだ。たまたまアッシュがテスティモを掴んでいたから、アッシュが振るったように見えただけ。一瞬生じる程度の隙では崩したことにならない。


「じゃあよ、こいつでどうだ?」


 ギルは背後を取る。もっと速く。より洗練された動きを取る。まだまだ底は見せていなかった。

 不意をついたところ腕を伸ばし、必殺の一撃を急所に叩き込む。


「怖い、怖い」


 心臓を狙ったわけだが、アッシュはこれにも対応する。左腕を浮かせ、僅かに右に寄る。伸びた腕を悠々と避わし、左肘を向ける。


 咄嗟に頭を下げて避けるギル。追撃可能なギルを察知し、エルボーを繰り出した動きの延長で、すぐさまアッシュはきびすを返しながら距離を置く。鎌を振るうだけの余裕ある距離だ。


「迅走……十九閃っ!」

「……!?」


 刹那の内に十九もの連撃を繰り出すギルの十八番。大振りの鎌では対処は難しいはずだ。そんな目論見だが……。


「……がっ!!」

「ち……」


 結果、両者が呻く。血を流すのはアッシュだが、ギルも苦々しく舌を打つ。


「おいおい大丈夫か」

「……あぁ、大した問題じゃない。けどこんな技持ってるなんてね。さすが、処刑人ってとこか……」

「言ってくれる。たったそれだけの傷だ。これだから執行者って奴はやりにくいんだよ」


 にやけるアッシュ。技を放ったが痛手に出来ず、ギルの方が顔を歪ませていた。


「今……何が起きたの?」


 ふと口にする。辛うじて大まかな両者の動きを目で追えていたものの、最後はさすがに追いつかなかった。紗希としてはつい零れてしまったようなものだ。


「ギルさんの十九閃に対して、見切れるものの防ぎ切るのは無理デシタ。アッシュは防御を捨てて攻撃を仕掛け、強制的に終了させたんデスネ」

「それでも六回の打撃は打ち込めたみたいだけど」


 スカルヘッドが拾い答えると、リリアが補足する。


「さすがにそこまで見えてませんデシタ」

「そう」


 リリアはそんなことどうでもいい。言うならば妙な気分に浸っていたのだ。

 処刑人も執行者も、力を見せていない。処刑人の方は黒炎を出していないし、執行者もまだ何か隠しているとリリアは睨んでいた。曖昧であるが、あの余裕を見せる態度が根拠である。勘といってもいい。合理的に推理する者からすればそれは邪推だが、本能に基づいた推論だ。


「そろそろ出し惜しみはやめようか」


 ガシャとテスティモを肩にかけ、アッシュは不適に笑いながら提案する。


「けっこう余裕そうだな」

「それは君もだろ。知ってるよ。黒炎を使うから黒の処刑人なんだろ? 見てみたいと思ってるよ」

「そうかい。だがそう簡単に見せてやるかよ。そんなに見たいなら出させてみろ」

「じゃあ、そうするとしようか」


 アッシュは大きく振り上げる。今にも振りかぶる態勢だ。そう構えたのち、そのまま接近して来た。構えはぶれることなく維持したまま。だというのに昨今よりも速くに距離を詰める。


「そんなもん……」


 ギルは対応した。こちらからもより速く距離をなくし、鎌を振るより早く迎え撃つ。


「残念。外れだ」

「……!?」


 攻撃を仕掛けた瞬間、アッシュは消え失せる。構えを解くことはせず、ギルの背後に回る。無防備な背後をギルが取られた。

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