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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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5:鎌Ⅳ

 ギルは考える。普通の人間には体現出来ないであろうスピードで、頭の回転もそれに合わせる。アッシュが取る戦闘手段。それがテスティモという鎌を使ったものなら、間合いを制する方が勝つのは間違いない。


 鎌という長い獲物はそれが如実に表れる。デスサイズよりもさらに広い間合いから攻めるか。鎌をかいくぐり、より近距離を制して討てば良い。ギルが選択したのは後者であった。


「やっぱそうくるか」


 ギルがシンプルに追い込もうと考えるが、アッシュは当然に想定する。アッシュも執行者だ。さらにはテスティモが言うように戦いを好むとするならば、いやそうでなくても、戦い方は熟知している。


 敵がどのように対処するのか。自分の懐にかいくぐるか、より外の間合いから仕掛けるか、いずれにせよアッシュからすれば、見慣れた手法であることに変わりない。


「あぁ。分かりやすいだろ」

「違いねぇ!」


 ギルも当然それは承知の上だ。アッシュに狙いを見破られたところで大した問題はない。そもそもそんな大層な狙いではない。テスティモも双方を把握し、上等とばかりに応え震えた。


 一瞬にして懐に潜りかけるギル。すかさず鎌を振り、それをアッシュは防ぐ。


「ち……」


 容赦のない一閃は、危うく首を持っていかれる。前に踏み出しかける足踏みを、とっさに後退のための反動とした。


「そう簡単にいくわけないだろ」

「だといいがな」


 ギルは踏みしめた脚に力を入れる。より強く、より速く仕掛けるために。


「ギャハハ! 速ぇ! 速ぇ!」


 直進だと鎌を振るだけでこちらが逃げるしかない。ギルはフェイントを織り交ぜて向かう。右か。左か。すぐさま判断するのは難しいはずだ。右から行くか。


「見えてるよ」

「……っ」


 アッシュはそれに対応する。視線を外すこともなく、ギルの姿をしっかりと捉えていた。殺気を込めた眼光を感じることが出来る。懐に潜り込むはずが、逆にギルは手玉に取られた。


「そらっ!」


 ギルが空気抵抗を無くすため、態勢を低くしていたからだろう。自然と刃も低い位置を狙うことになる。

迫る刃に対してギルは左足を上げた。斬られまいとする動き。だが、空に上がったのは左足のみ。放っておけば右足は持って行かれる。


「……っ」

「ぐぁっ! テメェ!」


 呻いたのはアッシュ。憤慨したのはテスティモだ。ギルは上げた左足をすぐさま下ろす。横から来る刃を足蹴にして、無効化した。


 結果テスティモは踏まれ、アッシュはガクンと重心を持っていかれる。機会はギルに生まれたわけだ。足蹴にした左足を起点に、踏み込めば攻撃に移れる。鎌を無効化した状態でだ。


「こっちの番だな」

「まずっ」


 アッシュはテスティモをあっさりと、いや即刻手放して距離を取る。攻撃をいなすバック転をして一回地に手をつき、再び足で着地する。随分とアクロバティックな動きだ。


「危ない。危な……」

「安心するのはまだ早ぇよ」

「……!?」


 着地したアッシュの眼前には、空振りしたあと追ってきたギルが来ていた。当然といえば当然である。


「ぐっ……」


 魔界の住人の、それも処刑人の一撃。まともに喰らえば致命傷なのは間違いない。さらに素早く後退する。ギルの攻撃をいなすために先程のような大きな動きは取らず、最小限に。


「テスティモっ!」

「わぁってる!」


 自由になったテスティモを呼んだ。正直アッシュの劣勢は明らかだった。だがギルとしても、アッシュの手に再びテスティモが戻るのは面倒だ。さっさと殺すに限る。が、仕留められない。


 腕を伸ばしても避けられ、蹴りを放っても合わせて蹴りを放ってくる。そしていつの間にか、アッシュの手にはナイフが握られている。


「面倒くせぇな」

「こっちはジリ貧なんだけどねぇ」


 手間取ってしまったのは辛い。時間稼ぎに他ならず、テスティモがもう戻ってきていた。


「ち……」


 テスティモが戦線に復帰し、自らの刃を振りかぶる。


「無視すんなよ処刑人」


 背後からの一閃。攻め込んでいた手を止め、ギルは回避に集中した。上から襲い来る刃を、ギルは振り向きざま左へと見事にかわす。邪魔なテスティモを先にやるかと考えたところに、アッシュのナイフが飛んできていた。


 凄まじく正確な投擲。頭に突き刺さっていただけに留まらない。その軌道は、正確にギルの目を潰そうと切っ先が襲った。首だけを左へと傾け辛うじて避けなければ、確実に潰されていた。即座に投げていたこと以上に、ギルは、その狙い目、また躊躇のなさにさらなる警戒心を募らせた。


「……てめぇ」


 右頬から血が僅かに垂れる。大した傷じゃない。痛みもさほどないし、戦闘に支障があるわけもない。

 だがしかし、先に傷をつけたのはアッシュ側だ。もちろん珍しいことじゃないが、容易く倒せる相手ではないと再認識するには充分だと言える。


「惜しい、惜しい。もう少し早けりゃアドバンテージ取れたんだけど。改めて振り出しってところか」


 再びアッシュの手にはテスティモが握られている。短い、だがこの上なく激しい攻防はテスティモを引き剥がすには至らなかった。


「だな。それより俺を仲間外れにしてほしくねぇもんだ」


 カタカタと震えるテスティモ。調子良くおどけた様子だ。


「あぁ? 手放したのはお前の主人だろうが」

「ギャハハハ! そりゃそうだが、俺を踏ん付けた代償は高いぜ」

「そうかよ。じゃあ代償喰らう前に殺してやるとするか」

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