表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
201/271

5:鎌Ⅲ

「意外だね。前は何も言い返せなかったのに。何かあったのかな?」

「別に大したことは。ただ、友達が教えてくれたんです」


 一瞬、友達のことを言うのを躊躇った。私はいまだに、目の前のアッシュに恐れを抱いている。今思えば、リアちゃんがいてくれて助かったと思う。ただいてくれるだけでいい。じゃないと、こうやって話すだけでも成立するか分からない。


 恐れを抱いているのも、アッシュという人間が掴めないからだ。そのくせ、人の中には遠慮なく入ってくる。壁を作っても、そんなものは意味がないと言うように容易く。そんな印象が強かった。


 だから、友達のことを口にすれば、今度は友達について遠慮なく足を踏み入れてくるのではないか。私の友達を貶されるのではないか。そんな不安が一瞬あった。


 けど、あくまで一瞬だ。すぐに私は持ち直す。足を踏み入れられても、絶対に揺るがない。そう思ったから。何を言われても、大切な友達に変わりはなく、言い淀むことは絶対にしないと決心して私は口にした。


 だから、次にアッシュが発した言葉に私は驚かされる。


「良い友達を持ってるんだね」

「……え」


 思っていたのとはむしろ真逆に近かった。


「そうやって迷った時に道を示してくれるなんて、良い友達だと思うよ。信じる信じないは紗希ちゃんの勝手だしね」

「……な……!?」


 あっさりと覆された。本当に信じているのか。そう何回も問い質され、私なりに悩んだのだ。ようやくその答えを得たのに、アッシュはあっさりと信じることをも肯定したのだ。


「……そんなの……」

「あはは。もしかしてけっこう気にしてた? 前言ったのはあくまで僕の考えだよ。別にカウンセリングしてるわけじゃないし。というか、紗希ちゃんが魔界の住人を信じようが信じまいが、僕にとってはどうでもいいことだしね」

「……っ……」

「改めて思いましたヨ。貴方は私の嫌いな人間だと」

「それは残念。僕は医師(せんせい)のことをけっこう気に入ってるんだけど」

「そうやって、心にもないことを口にするところも嫌いなんデスヨ」

「はは、手厳しいね全く。さてそろそろ時間になりそうなんだけど、処刑人はまだかな。まさか逃げたってことはないと思うけど」

「……もしかして、時間が分かってないんじゃ……」


 …………。


 リアちゃんが口にした可能性に全員が押し黙る。アッシュさえもだ。まさか、知らない、かも。


 私も正確には分かってなかったし、いや戦わないほうがいいんだけど。分かってないなら、ずっと待ってたらいつかは来るんだと思う。krどこのままずっと?

 それは酷く居心地が悪い。


「いや、来たぜ」


 すぅとアッシュの隣で姿を現すテスティモ。


「はは、時間ピッタリだ」

「ふぇ!?」


 アッシュとテスティモは把握しているようだが、私には分からない。何処にいるんだろうとキョロキョロしていると、がしっと頭を掴まれて驚愕した。


「お前、何で此処にいるんだ?」

「はわあ!? い、いや何と言えばいいか」


 背後からだが分かる。いっこうに分かりたくないのだが、このパターンはマズい。


「紗希を離して」


 あたふたとしている間に、右隣のリアちゃんがギルに向けて掌をかざしていた。僅かにその左手は光っていて、いつでも撃てると主張する。


「ついさっきまで泣いてたくせに、いつの間にか調子を戻したな。紗希のまわりをちょろちょろしてたときの迷いは吹っ切れたか?」

「茶化さないで。本当に撃ってもいいんだから」

「ふ、二人とも……」


 しばし沈黙が流れる。その間何を思ったのかは分からないけど、ギルがあっさりと引いた。パッと私の頭から手を離して少しだけ笑ったのだ。


「まぁいい。殺る相手は決まってる。なぁ?」


 その相手を見据えると、アッシュも素直に応える。


「そうだね。噂通りかどうか、楽しみにしてたよ。傷の調子はどうかな?」

「あぁ? そんなもんねぇな。それより自分の心配でもしたらどうだ?」

「はは、そいつは良かった。そうだねぇ。いきなり殺されるのも嫌だから、さっそくテスティモで行かせてもらうよ」

「ギャハハハ! 処刑人と殺り合うこの時を待ってたんだ。テンション上がるぜ」


 ガシャッとテスティモを掴み取る。もはや戦う準備は万全だった。


「ギル」

「お前らは少し離れてろ」

「……うん」


 ギルの指示に従って後退する。目もくれず、ギルは敵を注視していた。ギルも戦う準備は完了していて、もはや止めることは出来ないと思えた。


「さて、何処まで楽しませてくれるか」

「楽しむ余裕なんかやらねぇよ」


 ジャリ……。地を蹴る音が合図だったかのように、両者は駆ける。ぶつかり合う。

 互いに手の内はある程度知りつつも、初めて激突した戦いがついに、開始されてしまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ