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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
199/271

5:鎌

 リアちゃんと帰ってきてまずしたことは、お風呂に入ることだった。傷のほうが気になったけど、お風呂くらいなら大した問題じゃないとのことだ。

 確かに傷らしい傷はなく、それどころかシミ一つない綺麗な白い肌だった。


「最近入ってなかったんじゃない?」

「ぅん、でも……」


 と、リアちゃんは何だかしどろもどろになっている。帰り道では、また元のように仲良くなれたと思っていたのだけど。


「や、やっぱり……」

「もう何で我が儘言うの」

「だ、だって……」


 いったい何なのかは分からない。リアちゃんの顔は真っ赤になってしまい、俯いてしまっている。構わず私は綺麗な金髪の髪をしゃかしゃかと洗う。


「恥ずかしい?」

「それもあるけど……」

「はい。頭終わったよ。流すからね」

「…ぅん」


 バシャーとお湯をかけると、泡立ったシャンプーはみるみる流れてゆく。泡の下からはリアちゃんの金色の髪が顔を出した。

 これだけ長く綺麗な髪だと、根気よく洗う必要があった。トリートメントも欠かすわけにはいかない。次はリンスをすると、再びリアちゃんには目を瞑ってもらった。

 こうやって一緒にお風呂に入って、代わりに洗ってあげていると、何だか妹が出来たみたいに感じる。前からこうすればよかったと思う。


「また流すからね」

「……ぅん」


 お湯で流して頭はとりあえず終わった。次は身体を洗うために、リアちゃんの髪を結ばないと。


「じっとしててね」


 私自身あんまり髪を結んだりしないから少し手間取ってしまう。


「何してるの?」

「ん? ちょっと邪魔だから髪を結んでるんだけど」


 時間がかかっていたからか、リアちゃんに尋ねられてしまう。そのまま伝えると、リアちゃんは別にいいのにと言う。どうやら普段から気にしていなかったらしい。


「駄目だよ。ちゃんとしないと。せっかく綺麗な髪なんだから」

「そうかな」

「そうだよ。ちゃんと大事にしないとね」

「うん。紗希が言うなら大事にする」

「っと、出来た」


 髪を上に押し上げるように、ポニーテールを作る。ただのポニーテールだとやっぱり背中に届いてしまうので、せめて肩の近くまでになるようにするため、時間がかかってしまった。


「はい。じゃあ身体洗うからね」

「…………にゃ!??」

「!?」


 よっぽど驚いたのか、リアちゃんは猫の言葉を発してしまっていた。さらには、ぴょこと頭に黒い猫の耳、まあるいお尻からはひょこと黒い尻尾が出ていた。


「そ、そんなに驚かなくても」

「……あ、いや、じ、自分で洗うから」

「いいよ、遠慮しなくても。ちゃんと綺麗になるように洗ったげる。ほら前向いて」

「……っ……!?」

「あ、あれ? リアちゃん?」


 向かい合うようにリアちゃんを向かせると、突然リアちゃんは有無を言わなくなった。力も抜けて……ってもしかしてのぼせた?


「ぅあ、え、えと、のぼせた時はどうすれば」


 私の方がパニックだ。とにかくリアちゃんを連れ出して、急いで私の部屋に運ぶ。

 風邪引かないようにしっかり拭いて、適当に服を着せて、ベッドに寝かせる。そのあと、びしょびしょになった家の中を拭いたり対処して、リアちゃんが起きるのを待った。


「ん……」

「あ、気がついた?」

「あ、紗希……」

「覚えてる? リアちゃんのぼせたみたいだったんだけど。もしかしてお湯熱かった?」

「……あ、いやそうじゃなくて。い、いや違うの。ただ紗希の……」

「私……?」

「ぅ、ううん! やっぱり何でもない」


 不覚にものぼせてしまったことが恥ずかしいのか、リアちゃんはお風呂でもそうだったように顔を赤くさせていた。そんな気にしなくてもいいのに。


「あ、この服」


 自分がいつもの黒い服じゃなく、少しぶかぶかの白いT-シャツとデニムの短パンを履いてることに気が付いたようだ。


「あ、うん。私のなんだ。ちょっと大きいかもだけど、裸のままにするのも良くなかったら」

「……紗希の……」

「あ、もしかして嫌だった?」

「だ、大丈夫。すごく良いと思うから」

「そう? なら良かった」


 よく分からなかったけど、デザインのことかもしれない。猫の姿になれば問題なかったけど、やっぱり一着しかないのもあれだし、今度リアちゃんの服を買いに言ったほうがいいかな。


「お茶飲む?」

「うん」


 グラスについだお茶を渡すと、リアちゃんは両手で行儀よくコクコクと飲み干す。何だか可愛いなと思う。


「おかわりまだあるからね」

「うん、ありがと」


 そう口にしたけどもういいのか、グラスを預けようとはしなかった。代わりに、疑問を投げかけてきた。


「今夜行くつもりでしょ?」

「ふぇ? ……え、えと、何の事かな?」


 我ながら苦しいとぼけ方だ。


「さっきから紗希、時計ばっか見てる」

「それは、何時か気になって」

「何で?」

「うっ」


 被せるように追及されてしまう。真っ直ぐ向けられる双眸に、私は正直になるしかなかった。


「白状すると、リアちゃんの言うとおりです」

「別に紗希が行く必要ないと思うけど。処刑人には来るなって言われたし」

「それは……そうだけど……」


 確かにギルに来るなとは言われた。それにテスト前だし、勉強を優先するべきではある。私が行く必要は全くない。ないけど……。

 言い淀んでいると、リアちゃんがふっと柔らかく微笑んだ。


「……紗希ってほんと頑固だよね」

「そ、そうかな」

「私が止めても行くんでしょ」


 むむ、何もかもお見通しみたいだ。もし此処でリアちゃんが絶対に阻止しようものなら、行かないとだけ言って、こっそり行こうなんてことも考えていたくらいである。


「まぁ」

「じゃあ私もついて行く」

「え? でも……」

「もう大丈夫。傷だってけっこう癒えてる。少なくとも、紗希一人で行くよりかは大分違うと思うけど?」


 そりゃそうだ。私に何が出来るのか、教えてほしいくらいだ。それに、リアちゃんが来てくれるなら心強い。


「じゃあお願いしていい?」

「うん。分かった」


 元気になってくれたからか、リアちゃんは眩しいくらいの笑顔を見せる。それが何だか嬉しくて、私も自然と頬が緩んだ。

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