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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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4:胸中Ⅸ

 どうしてかは分からない。ただ、私は殺される。それだけが理解出来た。初めて出会った、夢かと思ったあの時のように。抵抗すら許されず、あっけなく終わると思い知らされる。


「……っ!?」


 その時だ。強烈な突風が襲ってきたのは。

 衝撃にさえ思えた風は、目を瞑らなければならなず、尻餅をついたほどだ。


「今、紗希に何してた!」

「別に」


 声が聞こえた。二人の声。どちらにも聞き覚えがある。一つは変わらずギルのもの。もう一つは……。


「リア、ちゃん……?」


 目を開け、そばにいるであろう人物を探す。いや、探すまでもなかった。私のすぐ目の前で、私を庇うように背を見せていたのだ。小柄な身長に不釣り合いな長い金色の髪。他にそんな特徴の知り合いはいない。


「紗希、大丈夫?」

「リアちゃん? ほんとに? 本当にリアちゃん?」

「うん……」


 一瞥して頷く。何でいなくなったりしたのか。もう私といたくないのか。そんな疑問もあった。あったが、今は、今はもうない。


「何で紗希を、あ、え……?」

「リアちゃん!」

「ちょ、ちょっと、待って。今は……」


 今はもう疑問なんかどうでもいい。二度と離さないように、膝だけで立ってリアちゃんを後ろからギュッと抱き締める。


「……っさ、紗希。今は離して」


 リアちゃんは困ったように、私の手を剥がそうと握る。でも私は、より力を込めて抵抗した。ぐっとより抜け出せないように、リアちゃんを包み込むように抱きしめた。


「やだっ。離さない。また突然いなくなったら……許さない……」


 ふっとリアちゃんの力が抜ける。相変わらず私の手を握ってはいるが、触れているだけだ。それでも私は、強く力を込めたままだ。

 少しでも気を抜いたら、またすっといなくなってしまいそうで、力を緩めることなんか出来なかった。




 分かるか。所詮半端なお前は何も出来ない。


 お前が弱いからあいつは……。


 力が欲しくなったら帰って来い。

 いつでも、好きなときに来ればいい。




「……で、でも私、強くないから。今のままじゃ、紗希を護れないし……だから……これで最後にして、せめて強くなってから……」


 リアちゃんにしては弱々しい声色だった。ぽつぽつと、誤解のないように言葉を選んでいる印象だった。


「最後って何……? このまま何も言わないまま、もう会わないつもりだったの? もう私のこと……嫌いになった?」

「ちがっ……。そうじゃなくて……私が……強くなってから……それから、また……」



「いいよ……」



「え?」



「これ以上、強くなくてもいい。リアちゃんは、もう十分強いよ。もう何回も、助けてもらったもん」


「……っ……。…い、いいの、かな……? ……今の私でも、紗希と、いていいの?」


 嗚咽まじりに、必死に口にしていた。泣いてるのがすぐに分かってしまった。


「私は、リアちゃんが強いから一緒にいたいんじゃないよ。強さなんか関係ない。リアちゃんがリアちゃんだから、一緒にいたいの」


「……ぅあっ…、さ、紗希、紗希……あぁぁ、あああああぁぁあ……」


 あっさりと私の拘束を解かれる。そして、きびすを返したリアちゃんが、私に抱きついてきた。


「……うん……」


 泣き顔を見られたくないのかもしれない。小さな体のリアちゃんは、私の胸に顔を押し付けて、震えていた。 私はリアちゃんが落ち着くまで、いつまでも待つつもりだ。小さな頭と幼い背中に手をやって、さらに引き寄せる。


 強気な姿は皆無だった。

 今だけは、私に顔をうずめるこの時だけは、本当に小さな子供のようだった。





「あの、ありがとう」

「何のことだ?」


 ギルは素っ気なく返す。急に暴挙に出たのも、こうなることを見越してくれたんじゃないか。そう思ったのだけど。


「別に紗希のためじゃない。自分のためだ。俺が戦ってる間に、囮のお前が狙われないようにするためだ」

「……それって」


 殆ど反射的に返しそうになる。らしくないのではないかと。ギルにしては、随分と理由付けているような気がした。普段なら、わざわざそんなことは言わないんじゃないかって。


「だから、今回は来んな」


 けれど私の追求をギルは被せた。それが意図的かどうかは分からない。


「何、それ。それで、紗希を殺そうとしたふりしたっての?」

「あぁ」


 落ち着いてきたリアちゃんはざわっと雰囲気を一変させた。


「……この」

「待ってリアちゃん」


 今にも飛び出しそうなところを留める。


「紗希」


 リアちゃんは眉をひそめて何とか抑えてくれたようだ。


「その……ありがと、ギル」


 釈然としないものはある。リアちゃんのことを、どうなってもいいと言い切ったギル。それは許せない。だからこそ私が探すと息巻いた。それでも、おかげでリアちゃんが見付かったのだ。

 また、会えた。それだけは間違いない。だから、だからもう一回お礼を言った。


「何で、礼なんか……」


 逆にギルのほうが腑に落ちない様子だった。


「ちっ。何か勘違いしてるかもしれないけどな。俺はお前を利用してるだけだ。囮として使ってるだけだ」


 ギルは強く主張する。


「うん、分かってる」


 ただ今は、それでもいいか。なんて思えた。どうにもギルの言葉通りには思えなかったから。


「……そうかよ」


 そう言った途端、ギルは姿を消した。あまりに速くて、とても目で追えなかった。


「紗希……」

「何?」

「ごめん、ごめんね。もういなくなったりしない。でも強くなる。紗希とは離れないし、ちゃんと護れるように強くなる。処刑人にも、執行者にも負けないくらいに」

「うん。なれるよリアちゃんなら」


 帰ろっか。久々に思えたリアちゃんの変身。黒猫の姿になったリアちゃんを抱いて、私達は家に帰ることにした。

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