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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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4:胸中Ⅷ

「そうか。だがな。俺はそんなことに構う余裕はない」

「……!?」


 きっぱりと断るギル。


「どうしても?」

「あぁ、どうしてもだ。俺はあいつがどうなろうと知ったことじゃないんだよ」

「……っ! ……ギルの馬鹿!?」


 どうなろうと。その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが弾ける。今までにないくらい、思いっ切り叫んでやった。

 それでも、ギルは応えない。分かってる。こんなことで、ギルが主張を変えないことくらい。ただ、だからどうした? とでも言いたげな冷たい表情と視線が気に食わなかった。


「分かった! もう頼らない!」

「紗希さんっ!」


 私は去った。この部屋から。ギルから。

 自分でどうにか出来ると思ったわけじゃない。スカルさんがどんな手段でもと言ったように、私もギルには頼らずともやってやると思ったに過ぎない。




§




「何も、あんな言い方しなくても」

「……うるせぇよ」


 残されたギルに、スカルへッドが言及した。ギルはその小言さえ気に入らないらしい。噛み付くように吠えた。


「今の言葉、本心デスか?」


 スカルヘッドは意に介さず続けた。つつくように疑問をぶつける。


「何が言いたい?」

「あの猫の娘。リリアさんでしたカ。あの娘が死んで、貴方が悲しむことはないでしょうけど、本当の理由は何かと思いましてネ」

「ねぇよ、そんなもんは」

「そうデスか? 本当は、弱ってるからじゃないんデスか。もちろんギルさんが逃げられることはないでしょうけど、出来ればアッシュとの戦いのために、余計な消費はしたくない。そんなところじゃ……」


 スカルヘッドは言葉が詰まった。いや、詰まされた。有無を言わさない、突き刺さる殺気を浴びたからだ。


「勝手な推測で話進めんな。殺すぞ」


 弱っている者の殺気とは思えない。その叩き付けた殺気が物語っている。ギルはスカルヘッドを牽制すると同時に訴えたのだ。これでも弱ってると言えるか? と。


「………。そうデスね。私の勝手な憶測でした。デスがあの娘には、紗希さんには優しくしてあげて下さい。まだ高校生の女の子。ただでさえ付け狙われる羽目になって不安なんデス。それなのに、リリアさんのことや私のこと、或いは友達のことまで。あの娘は優しすぎるんデスヨ」

「俺がそういうのに向いてないのは知ってるだろ」


 殺気を引っ込め、ギルは前方を見つめた。さっきまで紗希が座っていたベッドのへこみを。さっきまでいた人物の面影がそこに残っていた。


「分かってマス。それでも、デスヨ。あの娘はギルさんを頼りにしてるんデスから」

「……」

「あの娘がああして振る舞ってられるのも、他ならないギルさんがいるからデスヨ。見ていて分かりマス。それこそ分かってるでしょう?」

「……」


 ギルは答えない。無言で立ち上がり、紗希と同様に壁に似せた通路をくぐって出て行く。その後ろ姿をスカルヘッドは見つめた。


「お願いしますヨ」

「別に探さねぇよ」


 壁の向こうに消える間際、スカルヘッドは頭を下げる。再び一人になったスカルヘッドは、これからすべき最善を考え始めた。





「それこそ分かっているでしょう?」



 スカルヘッドの問いかけが頭の中で復唱される。


 ゴッ!―


 もみ消すように、ギルは壁を拳で打ち付ける。真っ直ぐ殴ったわけではなく、内から外に振るっただけだ。それでも、破壊しそうな威力が見て取れる。


「ち……」


 忌々しいと舌を打つ。より顕著に機嫌を害していた。だがそう悠長にしていることも出来ない。ギルは紗希を追うべく、少し足を早める。とはいえ改心したわけじゃない。

 紗希に謝罪をして、リリアを探してやろうなどと思ったわけじゃない。露ほども考えていなかった。やることは変わらない。紗希を標的にする魔界の住人を討つべく動くだけだ。


 わざわざ勝手に消えたリリアのために、ギルが動くことはない。



「はぁ、はぁ、はぁ」


 移動するだけでも一苦労だ。探すにはこの街は広すぎる。結局リアちゃんが倒れていたという、陸橋のある河原に来てみただけだ。病院からだと、来るまでに空も暗くなり始めていた。とてもじゃないが探すどころじゃない。


「気が済んだか?」

「……っ」


 草が生い茂る斜面にて、腰を下ろして休んでいたところ、上方から声が聞こえた。振り返って確認するまでもない。ギルだ。


「……何の用?」


 探す気はないと言ったギルが何故此処にいるのか。我ながら皮肉っぽい言葉をぶつけた。


「別に大した用はないけどな」


 ギルにしては珍しく、特に怒った様子もなさそうだ。わざわざ振り返るのが躊躇われたため、あくまで声の調子だけで感じ取る。その珍しい態度が、逆に勘に触った。


「何、それ」

「俺は別にどうでもいいのは確かだ。だが一つだけ試させろ」

「え……」


 私にも確認出来るように、草を踏みしめてギルは私の前に立つ。


「……!」


 背筋が凍る。さっきのアイアンクローなんか目じゃない。圧倒される殺気。それが全て、私自身に向けられていた。


「なん……で……」

「喋るな。言ったろ、試させろって」

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