4:胸中Ⅶ
放課後を待って、私は一目散に帰路につく。優子と加奈には、勉強会に出られない理由のためだと言ってある。
向かった先は病院だ。優子が入院した病院でもあり、エルゴールが根城にした病院。今はスカルさんがいる病院だった。
受付を通り抜け、私は秘密の部屋に直行する。
「スカルさん……!」
と、入ったと同時に呼んだのだ。
「……紗希さん」
キィ……とスカルさんは回転椅子に座ったまま向きを変える。そして私を確認し、ゆっくりと横に首を振った。それが全ての答えだった。リアちゃんを探してもらえるようお願いして、ダメだったのだと分かる。
「そう、ですか……」
私は取り繕うことも忘れ、気落ちした声で呟いてしまう。
「スミマセン。任せてくだサイと大見得を切ったのに」
「あ、いえ、ごめんなさい。せっかく探してくれたのに」
髑髏の仮面で表情が見えなくても分かる。声の調子から、スカルさんも落胆していた。本当に心配してくれていたんだと。だからこそ、信じようと思ったんだと思う。
「私、今からでも……」
「ほっとけ。自分で消えたんだから、生きるも死ぬも納得済みだろ」
「……っ!」
私とスカルさんだけと思っていたものだから、急に第三者の声がして驚く。だけど声からしてギルだった。壁に寄り掛かるようにして背中を預け、ポケットに手を突っ込んで佇んでいた。
「い、いつからそこにいたの?」
「紗希さんが此処に来る数十秒前にはいらしてましたヨ」
代わりにスカルさんが答える。私より先にいたんだ。全然気付かったけど。
「紗希、ちょっと来い」
「え? ちょっ……」
急に手を引っ張られてしまう。有無を言わさず部屋の隅にまで連れて来られる。
「何しに来たんだ」
「何しにって、リアちゃんが気になって」
すると、ギルはこの上なく呆れた顔をする。顔に手を当てて、如何にもという仕草のオマケ付きだ。
「……あぁ、そうだな。だがそういうこっちゃねぇよ。あいつには気をつけろって言わなかったか?」
「……あ」
「……あ?」
「い、いや忘れてたわけじゃなくて……」
しまった。スカルさんに気をつけろ。と言われたことなど実際忘れてたのだが、あ……などと口にしてしまったのは失策である。
「そうか忘れてたのか。なら仕方ないな」
ギルは右手をぶらぶらとさせている。今から何が起こるか理解出来た。ギルの雰囲気がガラリと変わったので、嫌でも分かってしまう。
「ちょっ、ちょっと待っ………にゃああぁぁあぁあ!?」
ギルの右腕を両手で掴んで必死に振りほどこうとするけど、全く意味がない。結局はいつも通りにギルが離してくれるまで叫ぶだけだった。
「ぐすっ……」
痛くてちょっと泣いた。
「大丈夫……じゃないデスよね?」
「……はい」
スカルさんが頭が大丈夫か、ベッドに座る私の周りをくるくると回って看てくれている。あくまで傷があるかどうかである。
「大体いつもこんな感じデ?」
「いつもじゃねぇよ。こいつが馬鹿だからだ」
「馬鹿じゃないもん!」
「手加減してるとはいえ、さすがに可哀想デスよ。人間の女の子なんデスカラ」
「そうだそうだ」
「あ?」
はぅ……。
ギロリと睨まれてしまう。心配してくれてると思うんだけど、理不尽だ。
「目立った外傷もないデスし、とりあえず大丈夫そうデスね」
「あ、はい。ありがとうございます」
「いえこれくらい。本当は、彼女を見つけておくべきだったんデスから」
「スカルさん……」
「無理なのは分かってただろ」
「……え?」
「………」
突然ギルの不可解な言葉に戸惑ってしまう。いったいどういうことだろう。
「それって」
「分かってなかったってことはねぇよな? スピードだけならお前よりあいつの方が速い。紗希から逃げたのなら、お前なら余計逃げられるだろ」
スカルさんはすぐに答えなかった。スカルさんが見つけたとしても、捕まえるなんて出来なかった。そうギルが言い放った言葉を噛み締めるように、一呼吸措いてから応えた。
「……そうデスね。風を纏う彼女の方が、私よりも断然速い。でも、だからといってほっとくわけにはいきませんヨ。それこそ、どんな手を使ってでも捕まえようと思ってましタ」
「だからうまくいってたはずだ、か?」
「分かりません。見つけることも出来なかったデスから」
「でも、ギルなら……」
スカルさんでも無理かもしれない。でも、それを聞いてギルなら可能なんじゃないかと思ってしまう。
「俺が、わざわざ探すと思うか?」
もちろん思わない。でも、そこは頼むしかない。私にはそれしか……。
ギルは察したのか、お願いと頼むよりも早く、言葉を紡ぐ。
「つーか、意味がねぇだろ」
「え……」
「仮に俺が探して、そんで見つけて、無理矢理連れて来たら満足か?何を考えていなくなったか知らねぇが、自分から行方を眩ませたんだ。いずれすぐまた自分から消えるぞ」
「それは……」
そう言われたら、確かにそうかもしれない。無理矢理連れて来ても意味はないかもしれない。結局は、離れたかったから行方を眩ませたのかもしれない。リアちゃんの心情、消えた理由が分からない以上、その可能性もある。
でも……。
「でも私、何も聞いてない。もう、一緒にいたくなくなったかもしれないけど、まだリアちゃんの口からは何も聞いてない。こんなんじゃ……、これでもう終わりだなんて、私は納得なんか出来ない!」