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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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4:胸中Ⅲ

「とまぁ紗希は素直だし、可愛いから騙そうとする奴もいそうだから安易に信頼してもいいかどうか、ちょっと私は疑問かな」

「……あはは」


 苦笑うしかなかった。


「……それが答えじゃ納得してないって顔ね」

「うんまぁ……」


 騙そうとしているかもしれない。この際私が騙されやすいとしても、本当に皆はそうなのかなと思う。いや、私の中ではどうしてもそうは思っていない。それが騙されやすい傾向なのかもしれないけど。


「まぁ今のは、まるっきり信頼したら痛い目みる可能性もあるっていう忠告。最終的に信頼する、しないって見極めるのは紗希自身だし」

「う、ん……」


 あまりに具体的なことは言えず、加奈の答えにもケースバイケースといった具体性は帯びていない。それはどうにもならないことだが、その一般論を当てはめることに私は抵抗がある。魔界の住人だからではなく、単純に認めたくない私の我が儘であるけど。


「ねぇ思うんだけど……」

「何?」


 優子が何か言うつもりらしい。もぐもぐと口を空にしたあと、優子は思わぬ疑問をぶつけてきた。


「紗希はさ、私達のことはどうなの?」

「え?」

「紗希は私達のこと、信頼してる?」

「それはもちろん」


 私は即答した。一瞬意外なことを言われたので戸惑ってしまったが、信頼してないはずがない。信頼しているからこそ、こうやって相談もしている。


「うん、私も。加奈もそうだよね?」

「そりゃ当たり前だけど」


 加奈にも意図が分からず当惑しているようだ。


「じゃあ例えばさ、紗希は私のこと、全部知ってる?」

「え、と……」


 質問の意図はよく分からない。ある程度は知っているはずだけど、全部ってことはないように思う。


「全部、ではないかな……」


 少し声が小さくなる。自然とそうなった。もしかしたら、私達でも知らないことはある。だから、私達の信頼なんてのも。そう言われるのか。そんなことを聞かされてしまうのかと怖くなったからだ。


「だよね。私も、紗希のこと全部は知らない。好きな音楽とか、得意な教科とか、そういうのは知ってるけど、今みたいに誰を信用したいと思ってるかまでは分からない」

「うん」

「でもさ、それが普通じゃない? 私は全部知らなくても紗希を信頼してる。紗希の人となりは知ってるし、いっぱい助けてもらってるしね。そもそも誰かの全部を知るなんて絶対無理だと思うし、全部を知らないと信頼出来ないなんてこと、誰が決めたの?」

「……あ」


 強く頭を打たれた気がした。全部を知らないから、信頼出来ないなんてことはない。そうだ。本当に今更だ。そんなことあるわけないのに。


「あ~あ、これは一本取られたわね。確かに優子の言う通り。信頼するかどうかの基準としては不明確よね」

「少しは役に立った?」

「うん。そりゃもう。全部知らないと、信頼出来ないことないもんね。ありがと。もちろん加奈も」

「どういたしまして」

「いやでも、紗希はやっぱり気をつけたほうがいいと思うよ」


 と、優子からも言われてしまう。


「そ、そんなに私って騙されやすい?」

「うん」


 考える間もなく、誇らしげな返事だった。


「で、でも私だって人を見る目はあるよ」

「紗希のことは信頼してるけどね」

「はう……」


 いかにもそこは信用できないと言われている。もうそこまで言われてしまったら何も言い返せない。


「サキリン見っけ」

「……む」


 ぴくりとその呼び名に反応する。確認するまでもなく、陽気なその声は周りに広めた本人だ。


「サキリン言うな」

「いやぁ、気付いたら自習の時寝ちゃってたみたいで、おかげでさっきまで長い長蛇の列を並ぶ羽目になったよ。な」


 狭山は私の言い分には全く気にせず、空いている席に何の躊躇もなく座った。どうやら優子と同じくカレーを注文したようだった。その横で同意を求められた庵藤は無表情から崩れたような感じだ。


「というか凄い当たり前に座ったわね」

「皆で食べたほうがいいじゃん」

「お前な」


 そう反論じみた言葉を発したのは安藤である。


「何だよ。ちょっとした敵情視察ってことで」

「……まぁ、それなら仕方ないか」


 切り替え早っ!

 私には随分嫌みったらしいくせに狭山には素直である。これが男女の違いという奴だろうか。

「ところで何の話?」

「別に。ちょっとした世間話」

「紗希から相談受けてただけ」

「紗希に好きな人が出来た話」

「ちょっ……」

「っごほっ、ごほっ! ちょっ、今なんか凄いこと聞いた気が……」


 狭山の問に律儀にも私、加奈、優子がそれぞれ答えた。優子の発言に反応したのは、私だけでなく、それ以上に狭山もだ。ちょうど水を飲んでいたために吹き出しそうになりながら、息を詰まらせたのか涙目になっている。

「え、何? 僕……じゃないの? サキリン浮気?」

「誰が浮気だ!」


 そんな関係でもないのだから、何とも不適切な発言である。


「お前余裕だな」


 呆れかえる庵藤は少しムスッとしているようだ。おそらくは仮にも試験の勝負をしているのに、恋愛事にかまけるのかってところだろう。


「違うって。好きな人とかじゃないし、ちゃんと勉強もしてる。優子も引っ張りすぎ」

「ごめんごめん。でもコイバナは仕方ないって」

「だから恋じゃないってば」


 めちゃめちゃ気になってるらしく、優子はどんな人?とせがんでくる。それを言うわけにはいかないので何とか黙止を私は貫いた。あと狭山が浮気~と何回も口ずさんで正直鬱陶しい。絡まれている庵藤もさすがに同じことを思ってそうだ。

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