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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
190/271

4:胸中

「紗希さん」

「はい?」


 アッシュが去ったあと、リアちゃんがいなくなっていることに気付く。ついさっきまでいたことは分かる。けどそれだけでは、何処に行ってしまったのか分からない。

 どうしようもなく、家に帰ろうとした時にスカルさんから呼び止められた。


「あまり気に病まないでくだサイ」

「え?」

「あの娘も何か考えがあってのことだと思いマスし。心配しなくても、私が探しますカラ」


 呼び止められるほど、表に出ていたのかと気付かされる。


「なら……」


 私も……と言いかけると、スカルさんはすぐに察したのか、人差し指を交差させてペケを作る。


「駄目デスよ。紗希さんはテスト前なのでしょう。勉学を疎かにしてはいけませんヨ。それに、何も言わず紗希さんの元から去ったということは、紗希さんが見付けても逃げられるかと」

「……」


 そう言われると、何も言えなくなる。


「大丈夫。彼女は今私の患者デスから。私に任せてください」

「はい、お願いします」


 ぺこりとお辞儀をして頼み込む。スカルさんも、本当に心配しているんだなと思えた。顔を上げると、スカルさんはあと……と続けた。


「アッシュが言ったこと、気にしなくていいデスよ」

「……!?」


 スカルさんは本当に鋭い。確かに私の中でうまく受け止められないでいた。本当に信じ切れていないってことを。

 リアちゃんが何も言わず、急にいなくなってしまったことも重なり、少し不安になっていたのだ。


「私は先程言ったように、紗希さんを騙していることはないと言いましたネ。だから信じてほしいと。でも、隠していることはある。正直ムシのいい話デス。彼の言ったように、本当に信じることは難しい。気になさらず、信用出来なくてもそれは仕方ナイ。むしろ我々のようなはみ出し者ならそれが当然デスヨ」

「で、でも私は……」


 反論しようとして、反論出来なかった。本当に信じることができるのか。アッシュの言葉が嫌に頭に残り、それが繰り返し囁かれているようだ。

 信用してない。違う。そうじゃないと思いたい。

 

 信じることは難しい。本当は信じていないのではないかと口にしたアッシュ。


 別に信用しなくても構わないと距離を置いたギル。



 信じてほしい。だが、信じることが難しいのもまた事実と述べるスカルさん。


 リアちゃんは……。

 リアちゃんならどう言うだろうか。


 私は本当に、皆を信じてなかったのか。



「紗~希」


 ゆるやかな声調で私を呼んだのは加奈だ。そこで私は我に返り、今は教室にいることを確認する。

 がやがやと小うるさい光景となる教室。テストが近いため自習の時間が増えていた。

 今も、本来古典の時間だがやるべき内容は終わっているため、各自自習することになる。少しざわついているのはやはり、仲の良い友達同士が集まり、楽しく話すことに専念している。

 担当の教師は高齢の男性で、今はコックリコックリと椅子に腰掛けて居眠りしている次第だ。それが生徒にとってはこの上なくありがたい。一番厄介な監視の目が今はなかった。

 優子もテスト勉強に手をつけていたようだが、監視の目もない状況では集中力が続かない。周りの空気も自然と広がる。それでも自主的にテスト勉強するのは安藤を始めとする真面目な生徒だけだ。

 勝負の件は有効となっている。もちろん私も負けないように勉強しないといけないし、さっきまでは問題を解いていた。けど、どうしても頭によぎることが、大人しく勉強する気にさせなかった。


「どうしたの?」

「え?」


 そう尋ねられるのは意外だった。私の前の席に加奈が座る。前の席の人は仲良い友達のところへ行ったようで空いていた。


「勉強。頑張らないとメイドでしょ?」

「うんまぁ……」


 歯切れが悪い返事をしてしまう。


「何か別のこと考えてる?」

「えと……」

「図星ね」

「……うん」


 相変わらず加奈は鋭い。何でも分かっているかのようだ。処刑人や魔界、執行者のことも、本当は知っているんじゃないかって思ってしまう。


「話してくれるなら聴くけど?」


 そう言って加奈は肘をつきながらにっこり笑う。この無垢な笑顔で、やはり加奈も知らないだろうと思い直すことが出来る。だからこそ、おいそれと話すわけにはいかない。


「まぁ無理には聞かないけど」

「えと……」


 けど私は拒否出来なかった。もちろん魔界のことなんて話すつもりは毛頭ない。ただ、ギルには信用することを拒否され、リアちゃんは行方をくらまししてしまった。自分で思っていたより、相当堪えていたらしい。私は、核心部分はぼかしつつも、話を聞いてもらいたかった。


「何?」


 その時、チャイムが鳴った。授業時間を終える報せを告げるチャイムが。担当の先生がその音で、目覚ましのように反応して伸びをした。と同時に、散らばっていたクラスの皆も席へと戻っっていった。


「鳴っちゃったし後でね」

「うん……」


 加奈もそう言って席に戻っていった。先生が完全に覚醒する頃に、何事もなかったようにピタリと全員席に着いていることは不可能だ。ちらほらと教室内を歩く光景を目にしても、先生が特に目の敵にすることはない。それは互いに承知の上のことだった。


「じゃあ今日はこれで終わり。テスト頑張ってな。日直」


 呼び掛けに従い、今日の日直が号令をかける。そうして自習の時間は終わり、昼休みとなる。


「学食行こう!」


 そう誰よりも早く駆けつけてきたのは優子だ。その後に加奈がきた。


「話があるなら学食でどう?」

「そうだね」

「?」


 優子は何の話か分からずただきょとんとしているだけだ。じきに、学食に向かう途中、何のこと?と尋ねてくることは簡単に予測出来る。


「私もまだ聞いてないから。食べながらでいいじゃない」


 と、加奈に促され先に学食へと足を運んだ


 やはり昼時はいつもごった返しになっている。何とか先に席だけを確保してからメニューを確認する。

 今日の日替わりメニューは常時のカレーよりもボリューム満点の山盛りカツカレーだ。さすがにこれは食べきれそうにない。と思った私の横で優子が日替わりメニューを注文していた。


「そんなに食べきれるの?」

「大丈夫大丈夫。今けっこうお腹空いてるから」


 満面な笑顔で優子は答える。

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