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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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3:死に神ⅩⅢ

 そこにギルは入っていない。処刑人の地位を持つギルこそ執行者と似た立場の筈だが、括りには入れていなかった。


「君次第だよ。まだ君がどういう人物か見極めていないからね」

「でもギルは……」


 紗希は言う。そんなことしなくても分かる。ギルは人間に害を来す存在なんかじゃないと。


「本当に?」

「っ……」

「紗希ちゃんは何を知ってるのかな?」

「何……を……?」

「例えば医者せんせいの過去は知ってたかい?」


 スカルヘッドの過去。皆まで言わずとも察しはついた。スカルヘッドが家族を殺したということだ。確かに紗希は知らなかった。


「それは……」

「例えば処刑人。考えたことない? 何故彼は処刑人というものを請け負っているのか」

「……っ」


 言葉に詰まる紗希。考えたことがある。紗希の反応が語らずとも、そう教えていた。


「それに、あの猫の娘も。本来世界を渡ることは魔界では禁止されているのに。どうして彼女はこっちに来たのか」

「それは……盗まれたものを取り返すために……」

「へぇ、じゃあ何故盗まれたのか知ってる?」

「そ……れは……」

「考えたことは? 何か隠してるかもしれない。君を騙しているかもしれない。なのに君は、本当に信じられるというのかい?」

「……や、やめて!」


 じわじわと心を抉られる。アッシュの言葉に紗希はそう感じた。何で、そんなことを言うのか。


 私は……皆を……。そんなこと……ない。信じて……。


 本当に? 心から? 信じ切れる?

 何も知らなかったのに。心の底から……。


 信ジルコトガデキル?


「ほら。あっけない。もう崩れちゃった。疑ったでしょ?」

「ちが……」

「違わないよ。信じるなんてことは難しいことだ。だから別に疑ってもいいじゃないかと僕は思うよ。ましてや、"殺人者"なんだから」

「……っ」

「キサマ……」


 息を呑む紗希。睨むスカルヘッド。アッシュの言うことを認めるはずはない。鵜呑みにするつもりもない。

 だが、うまく言葉に出来ない紗希は、涙を流さないように気を張るだけで精一杯だった。それと同時に動いたのはやはりギルだ。

 殺気に満ちた表情で、アッシュの心臓を掴み取るかのような勢いで駆ける。


「そのよく回る舌は、殺してやんなきゃ治りそうにねぇようだな」

「くっ」


 肉を喰い破る腕を伸ばす。アッシュはそれを焦りとともに避ける。


「テスティモ」

「ったく、テメェが余計なチャチャ入れるからだぞ」

「……っ」


 追い討ちをかけるギルに目掛けて、テスティモは刃を向けた。勢いよく振り抜かれ、首を飛ばされてもおかしくなかった。ギルは仰け反って避けると距離を取る。その隙に、アッシュとテスティモは闇の中へと姿を消した。


「約束より早いけど、明日、時間通り丑三つ時に公園でやろうじゃないか」

「待て! ……ちっ」


 追い掛けるため脚に力を入れるが、もう見失ってしまった。舌を打ち、ギルは苦々しい表情のまま、追跡を諦めた。


「……」


 ギルが紗希とスカルヘッドのところに歩いて戻ると、紗希の表情に苛立ちを覚えたようだ。


「何て顔しやがる」

「い、いひゃいよ……」


 ほっぺたを両方から引っ張られる紗希。抵抗もいつもと比べれば弱々しいものだ。あっさりと離したギルは紗希に言い放った。


「あいつの言ったことなら気にすんな。別にいいんだよ信用されてなくて。帰るぞ」


 それは本音か否か、判断は出来ない。ただあっさりとそんなことを口にするギルに、紗希は少しだけ寂しさを覚えた。

 スカルヘッドはどうなのかと、ふと紗希は気になった。


「隠していることはありマス。ただ騙していることはナイ。それだけは信じてもらえませんカ」


 気になるまま顔を向けた紗希に、察しの良いスカルヘッドは答えた。


「はい。分かりました」


 紗希は、はっきりと答える。信じてほしい。これが、スカルヘッドの本音だろうと思えたからだ。自然と笑顔になる紗希。スカルヘッドも仮面の内側で、柔らかい表情をつくっていた。そして、「ありがとうございマス」と応えた。


 ギルの帰るぞの一言に従うため、一旦病院の秘密部屋へと向かう。

 扉とも言い難い。壁に似せた入り口をくぐり抜ける。

そこで紗希は驚くべき光景を目にする。


「え……何で……」

「……意外デスね」


 そこには、もぬけの殻となったベッドが一台あるだけだ。シーツの乱れ、布団の浮き上がり、それらが先程まで使われていたことが分かる。


「まだ暖かイ。ついさっき出たヨウデス」


 触れて確認するスカルヘッド。まだ完全じゃない。動けるとは思うが、戦えるとは思えない。医者として、患者の安否を気にしてしまう。


「リアちゃん……」


 リリア・アークス。黒猫と少女の二つの姿を持つ彼女の行方は、再び闇の中へと消えてしまった。

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