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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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3:死に神ⅩⅡ

「ほんと。君は最後までデタラメだったよ」


 スカルヘッドの最後の一撃。確かにアッシュを射抜いた。だが、浅い。肩をえぐったに過ぎない。

 予見はしていたのか。スカルヘッドはこれまでの数倍の速さでメスを伸ばした。アッシュが対応したそのスピードが何よりの誤算。この死に神は、いまだ底が見えなかった。


「ようやく捕まえたぜ」

「……!?」


 トドメを差す手前、弾かれたデスサイズを再び振り抜くが空振りに終わる。

 そこにいたはずのスカルヘッドは場を脱していた。正確には、ギルがスカルヘッドの顔を右手で掴み、押し出していた。


「ぐ、ふ……」


 そのままもがもがと手足をバタつかせて暴れるスカルヘッドを、ギルは上から抑えつけていた。じきにバタつかせていた手足がふっと、糸が切れたように動かなくなる。そして……。


「……ギルさん、痛いデス」


 そう言ってムクリと起き上がる。顔には例の髑髏の仮面を被っていた。ギルが顔を掴んだのは、仮面を無理矢理被せるためだった。


「それくらい我慢しろ。あとお前の腕だ」

「あ、私の腕が……」


 言われて自分の腕が千切れていることに気付く。投げられた腕を受け取ると、すぐさま腕を引っ付ける。相変わらずの早業だ。


「……また、なってしまいましたカ」

「ああ」

「そうデスか……」


 いつもなら"復活"と元気にポーズを決めるスカルヘッドも、この時ばかりは無理な様子だった。


「スカルさん……?」

「紗希さん」


 そこへ紗希が近付いてくる。スカルヘッドが顔を上げてみれば、予想通りに紗希はおそるおそるといった表現がピッタリ合う。


「あの……大丈夫ですか?」

「……ええまぁ。出来れば見られたくなかったデスが。私が仮面を取らない理由は、こういうことデスヨ。この仮面で、私は自分を抑えていマス」

「仮面を被っていれば、大丈夫ってことですか?」

「……? えぇ、そうデスネ」

「良かった。あのままもう、元に戻れないかもって……」


 スカルヘッドは不思議に思った。この娘は……怖さよりも安否を気にしたのか。下手をすれば、刃を向けたかもしれないのに。


 あぁ……そうか……。


 この前の、足のない娘、腕の良い看護士を目にして、元には戻れないと、殺すしかなかったのを、目のあたりにしてしまったから。


 それがこの娘には深く深く傷として残っている。もうあんな思いはしたくないのだろう。だからこの娘は今、こんなにも哀しい顔をしている。


「……全く、紗希さんって変な娘デスネ」

「……え? ……えぇ!? それってどういう意味ですか!?」


 紗希としては唐突で、不意に失礼なことを言われたように感じてしまう。


「さぁ、どういう意味でしょうネ。それよりギルさん、助けるならもうちょっと早く助けてくれてもいいじゃないデスか」

「あぁ? お前がチョロチョロ動き回るからだろうが」

「痛い!」


 元に戻れないかもしれない。本当にそう思ったのは、スカルヘッドのほうだ。自分を取り戻した時、スカルヘッドは覚悟した。ギルは別としても、人間である神崎紗希は、自分から距離を於くだろうと。

 また自分が調子に乗って、ギルがそれに苛立って足蹴にする。それを、必死になって止めようとしてくれる紗希がいる。またこの光景に戻れるとは思わなかった。


「しらけちまったなぁオイ」

「そうだね。久しぶりに面白かったんだけど、あっけない幕切れだったよ」


 よほどやる気を削がれたと見えるアッシュとテスティモ。ガシャとテスティモを肩に乗せる。


「しらけたらどうするよ?」


 それにいち早く反応したのは、不意を突かれることに警戒を怠らなかったギルだった。それに続いて紗希、スカルヘッドも顔を向けた。


「……また医者せんせいの仮面を剥いでやってもいいけどね。今日は帰ることにするよ」

「おいおい、医者は無理でも処刑人が残ってんだぜ」

「言ったろテスティモ。彼とはまた今度だ。まだ完全じゃないだろうし、今回は見逃してあげよう」

「へぇ、誰が誰を見逃すって?」

「ギル……」


 牽制するように、なだめるように紗希はギルを呼ぶ。そんな軽い挑発でも、ギルは乗ってしまうことを紗希は知っていた。そして、それを止めることは難しいであろうことも。


「不完全だろうが関係ねぇよ。俺に見逃してほしいなら別だけどな」

「そうだね。医者せんせいから受けた傷もあるし、退かせてもらおうか」

「なっ……」


 挑発には乗らず、あくまでも帰る姿勢を崩さないアッシュにギルは目を見張る。


「挑発には乗らないよ。君を甘く見るつもりもないんでね。それなりに万全な状態で臨むとしようじゃないか、お互いに」

「待って!」


 そこで振り絞るように声を張り上げた紗希だ。この場にいる誰もが意外だった。


「何?」


 ギルやスカルヘッドに向けた死に神の顔とは違い、穏やかな表情でアッシュは尋ねた。


「貴方が執行者だから、魔界の住人を殺そうとするのは分かります。でも、リアちゃんもスカルさんもギルも、悪いことはしてないです。人間を殺そうともしてない。むしろ皆は……」

「僕等と同じ。人間を殺す魔界の住人を殺している。むしろ執行者と変わらない。だから皆は殺さないでくれ……ってところかな?」

「はい、そうです……」


 紗希の言葉を被せてくるあたり、紗希が言わんとしていることは伝わったはずだ。しかし。


「無理……だね。魔界の住人は人間を殺す。そういう風に出来ているんだ。それこそ君が生まれるよりも前に。あ、けど安心はしていいよ。猫の娘と医者せんせいは、当分殺す気はない。確かに僕たちと似たことはしてくれているし、助かってはいる。人間を殺すことでもない限りは動いてもらうさ」

「けど俺は殺すってところか?」

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