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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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3:死に神ⅩⅠ

 アッシュは呆れるほどだ。今まで戦ってきた中に、これほど破天荒な動きをした奴がいただろうか。


「面白ぇじゃねぇか」


 テスティモはかつてない敵であると震える。実際アッシュにも高揚感に近い感情は確かに芽生えていた。


「っと」


 すかさずメスが伸びてきた。不意打ち上等。相手を殺せれば何でもいいのだろう。


「ヒャハハハハ!」

「さて医者せんせい。次は何をしてくれるのかな?」


 楽しみだと疑問を投げかける。まるでそれに答えるかのように、スカルヘッドは今までより数倍速くアッシュに詰め寄る。それは身体能力によるものじゃない。大胆にも、病院の壁を背に、メスを拡張させた。ほぼ真横になった状態で、スカルヘッドはメスの刃に器用にも、座っているかのようだ。

 脚で刃を挟み、左手でメスに触れる。この片手が触れていることで、メスを自由自在に操れる。既にもう一方の片手で、小太刀くらいの大きさになったメスをくるくると回す。


「やっぱテメェのがデタラメだろうがよ」

「全くだ」


 スカルヘッドは右の手にしたメスで突きを出す。あっけなく避わすアッシュ。逆にアッシュがデスサイズを構えるが、スカルヘッドは乗っていたメスを小さくしつつ、慣性の力を受けながら地に降りる。バランスが悪くアッシュの攻撃に対処出来ないと本能的に踏んだのだろう。

 移動に使ったメスを再び大きくさせて、デスサイズを受け止める。言うまでもないが、一度小さくしたのは対処に間に合わすためだ。馬鹿デカいものを振り回すより小さいほうが容易い。


「ハズレだ」


 言葉を発したのはテスティモ。構えたメスとかち合う瞬間、これ以上ない攻撃の機会が生じる。斬り合わせろと喚いたテスティモと、アッシュの機転がここに表れた。

 ピタリと手前でテスティモが止まったあと、スカルヘッドが意図しない腹部をアッシュが高く蹴り上げた。 鎌の振りにはフェイントと気付かせない思い切りの良さがあった。それをあっさりと切り替える。途中でアッシュはテスティモを手放していた。示し合わせたかのようなタイミングである。二人の戦歴ぶりが伺えた。

 素早くテスティモを掴み取り、スカルヘッドの後を追う。跳躍して構えるアッシュだが、彼は垣間見た。蹴り上げられ浮上したスカルヘッドが、めいいっぱい口角を上げているのを。


「……ちょっと、待った……」


 すぐに視点は移り、一瞬体が強張る。それは当然と言えた。飛ばされたスカルヘッドは今まで以上に大きなメスを振り上げていたのだ。ざっと安く見積もっても、そこらの二階建ての家と変わらないのではないか。

 そんなモノ、スカルヘッドは操れない。単純に重量の問題である。だがそれ故に、振り下ろすのは幾分早い。


「ヒャハハ、ヒャハハハハハハ!」

「テスティモ、我慢してくれよ」

「ハ? いったい何を……ってギャアアアアァァァ!」


 アッシュは鎌を振る。いくら何でも攻撃力が違い過ぎる。飛翔したからには避けられない。テスティモの引力でも限界がある。

 強引な手口だが、メスを無理矢理鎌で斬りつけ、反動で辛うじて避けた。いや弾かれた。

 地を割るメスがその破壊力を物語る。


「ははっ……今のは危なかったよ」

「阿呆かテメェ! あんなもんに俺様をぶつけてんじゃねぇよ! 殺す気か!」


 ギャーギャーと喚くテスティモ。いくら何でもムチャクチャだと愚痴る。だが巨大な破壊力を有したメスと打ち合い、それでもテスティモは無事に健在している。


「……っ。文句は後にしてくれ」


 すぐさまスカルヘッドは向かい来る。いちいちテスティモの愚痴を聞いている暇はない。


「しゃあねぇ! けどな、今度またムチャクチャやりやがったらテメェから斬ってやっから、かくごしぇ…痛てぇ、舌噛んだ!」

「ヒャハハハハハ!」

「テメェ笑ってんじゃねぇぞ!」


 別にテスティモの醜態をスカルヘッドは笑ったわけではないのだが、テスティモにはそう映ったらしい。トリッキーに攻め来るメスの猛攻に対処せねばならず、アッシュはいちいち訂正してやる気にはならなかった。 そもそも鎌であるテスティモに舌があるのか疑問だ。アッシュは代わりに合図を送る。


「次行くから舌噛むなよ」

「あいよっ」


 デスサイズを振り回すには相応しくないスピードで、跳躍したスカルヘッドを襲う。逆に猛攻されてしまい、溜まらず空に逃げた。が、それは悪手だ。

 空中では姿勢を変えられず、メスでの反動を利用した動きを取るには(空にいるため)あまりにも間に合わない。スカルヘッドはメスで対抗するも、関係なく刈り取る。腕だけを犠牲に抑えるだけで精一杯だった。

 勝負はついただろう。少なくとも、もはやスカルヘッドに勝ち目はない。アッシュはそう感じた。が、飛ばされた腕と同様に着地したスカルヘッドは退くことを知らない。


「ヒャハハハハハ!」

「まだやろうってか……いいね」

「ギャハハハハ! 狂ってやがる! かなめの腕をなくしても、まだ殺気は一片の淀みもねぇ! 大好きだぜテメェみたいな馬鹿野郎は!」


 左腕を飛ばされたスカルヘッドに痛みを感じる様子はなく、腕を気にする様子もない。攻撃の手を補うため、メスを口にくわえて歯を剥き出しにして嘲う。

 殺気は衰えず、突き進むスカルヘッドに躊躇はない。

デスサイズを右の手に持つ巨大なメスで反撃する。今まで打ち合ってきて純粋に力はアッシュが上だと、今の状態のスカルヘッドでも理解している。メスで打ち勝たなくてもいい。

 ただ一瞬、デスサイズの軌跡に障害物を挟み込み、少しでも隙を稼げればそれで良い。

 スカルヘッドの能力。"マジックハンド"の名前。手で触れていないと発動出来そうにない名だが、実際にはスカルヘッドの身体に触れてさえ良く、口にくわえたメスをも拡大縮小することが出来る。


「……っ!?」


 一瞬の差。デスサイズの刃が届くよりも僅かに、口から伸ばされたメスの刃がアッシュの体を射抜いた。首を傾け、無理矢理に刃を向けたのだ。

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