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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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3:死に神Ⅹ

 仮面を剥ぎ取られたスカルヘッドは、顔を両手で覆い隠して吠えた。それは、紗希に接した優しい一面とも、多少おちゃらける一面とも違う。エルゴールと対峙し、感情的になった時と比べても大きく掛け離れていた。


「……どうした?」


 剥ぎ取ったアッシュも怪訝な表情を浮かべる。思わぬスカルヘッドの反応に驚くしかなかった。


「……アァア、っ、アガアガガガ、ヒハヒヒひ、ヒャハ、ヒャハハハハハハハ!」


「おいおい、こいつはとんでもねぇ隠し玉だぜ」

「ヒャは」


 顔から手を離して見据えるスカルヘッド。その素顔は前髪が長く口元しか分からなかった。いや、驚くべきはそんなことじゃない。

 裂けるかのように口元をつり上げてスカルヘッドは笑ったのだ。全ての歯が見えるかのように弧を描く。仮面で伏せられていたとはいえ、その裏でこのような表情をとっていたとは思えない。


「……っ!?」


 スカルへッドの身体が揺らいだ瞬間、アッシュの体から血が吹き出す。執行者であるアッシュでさえ、不意をつかれたとはいえ、見逃してしまった。

 何だこれは。この先程とは比べ物にならないスピードは。そしてアッシュの体を裂いたと思われる凶器。スカルヘッドが手にしていた一本の血塗られたメス。スカルヘッドはアッシュの背後にて、振り向きざまにそれを滑った舌で舐め取った。


「ヒャハ……ヒャハハハハ!」

「これが、魔の境界へと足を踏み入れた人間の成れの果てって奴か」

「ギャハハハ! いいじゃねぇか! これで漸く、本気で斬り合えるってもんだ」


 変わり果てたスカルヘッドに理性はない。かつての口裂け、テケテケと同様に暴走している。

 アッシュという標的を目の前にして、殺しにかかることに一片の躊躇もない。医者であることも、かつての過去も、今はただ忘れて血を求めていた。


 方法は何も変わらない。メスを投げ、メスで斬り込む。根本的にはスカルヘッドそのものである。

 ただその動きは全く違う。アッシュが鎌を横一文字に振る。医者であるスカルヘッドであるなら、鎌の間合いの外にまで後退してから、メスを伸ばす。だが今のスカルヘッドは後退どころか、より距離を詰めて行く。跳躍し、膝を限界まで折り曲げて一閃を避わし、アッシュの急所を狙う。


「テスティモ!」

「わぁってんよ」


 テスティモがアッシュを引っ張りスカルヘッドのメスを避ける。そして振り向きざまに鎌を振った。


「ヒヒャハ」


 スカルヘッドは同じく背中を向けている。腕だけを動かし、メスを拡張させ、デスサイズを弾く。弾かれたテスティモはそのまま一周旋回してスカルヘッドを狙う。普通なら間に合わない。

 が、アッシュの見掛けに反する腕力と、テスティモの引力がそれを可能の速さにまで引き上げる。今までに能力を使役した反動か、それとも先を読めなかったか。スカルヘッドの態勢は悪く、メスで対処するには間に合わない。


「……!?」

「消えやがった!」


 だがそう思われただけのようだ。さらなる身体能力で避けることが出来たらしい。が、消えたように見えて何処に消えたのか分からない。


「上か」


 暗がりではあるが、公園の電灯に照らされて姿を確認することは出来る。アッシュはスカルヘッドの姿を見付けたわけではない。不自然に黒い影が出来たのを確認したのだ。


「……!?」


 見上げたそこにはスカルヘッドらしき影が存在する。だが何か違う。視認するには困難な状況だ。


「ヒャハハ!」


 重力に従い落ちてくるスカルヘッド。漸く視認が可能となる距離にまで近付くと、アッシュは目を見張った。スカルヘッドはデカい注射器を下に向けている。両足を広げたなかに注射器は位置する。片手で注射器の尻を押し込む態勢だ。


「ぐっ……あっぶねっ」


 間一髪。並みの者なら上から串刺しにされているところだ。注射器の針がコンクリートを綺麗にえぐっている。無駄な破壊はなく、円を描いていた。そしてすぐにそれは、円ではなくなる。注射器の中の液体がコンクリートを溶かし始めていた。


「……おいおい」

「いったい何が入ってやがんだ」


 そう問うたところで、今のスカルヘッドが答えるわけもない。それどころか、巨大な注射器をアッシュに向けて投擲した。


「げ……」


 メスであるならば弾く。しかし注射器は下手したら破壊してしまうかもしれない。そうなれば、中にある得体の知れない液体を浴びることになる。アッシュは避けるしかない。その先にスカルヘッドが迫る。


「ちょっ……まっ……」

「ヒャハハハハ!」

「待てって言ってるのにさ」


 テスティモをスカルヘッドに向かって投げ飛ばす。スカルヘッドは巨大なメスで弾いた。やり過ごされたテスティモは、軌道を修正して追尾するものの、関係ないと言わんばかりに、スカルヘッドが目にするのはアッシュのみだ。

 テスティモを失ったアッシュは無防備ではない。それもそのはず。デスサイズを手にしていないなら、先ほどの様にナイフを用いればいいだけだ。


「マジか。全然動きが違うじゃないか」

「ヒヒャハ、ヒャハハ」


 スカルヘッドとの小競り合いに、アッシュは余裕があったはず。それが今は、凌ぐので精一杯となる。


「ギャハハハ!」


 そこにスカルヘッドを追尾したテスティモが背後から斬りかかる。ガッとぶつかる音がしたかと思えばスカルヘッドの代わりに柱が立っていた。脚力で跳躍するより速く移動する術だ。メスを瞬時に拡張させ、地面の反動で自分を飛ばす。飛ばしただけでなく、そのまま重心をずらしてメスの柱を倒す。そうすることで、再びアッシュとテスティモの渦中に飛び込むことを防いだ。着地するより早く、メスの柱はアッシュが振るテスティモに斬られたが、大した問題ではなかった。


「おいおい、トリッキー過ぎだろ」

「ギャハハハ!」

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