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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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3:死に神Ⅸ

「ギル」

「何だ?」


 メスと鎌の攻防が目の前で繰り返される中、紗希は乾いた口を開いた。


「スカルさんが自分の家族を殺したって……」

「あぁ。らしいな」

「らしいなって。そんな……」


 特に興味なさげにギルは返す。


「本当なの?」

「……知らねぇよ」


 ギルはスカルヘッドとアッシュの戦いに目をやったままだ。それは本当に興味を示していない。そんな風にも取れる。

 だがそれはギルにとって、既に旧知の事実であるから、紗希に話す気がないからとも取れる。紗希が感じたのは、後者だった。正確には、本当は何か知っているんじゃないか。スカルヘッドが家族を殺したという事実。それが本当か否かまで紗希には分からないが、核心めいたことを話そうとしない今までのギルに、紗希はそう捉えてしまった。

 しかし、だからといって追及することは出来ない。疑問を繰り返したところでギルが話すとは思えないし、紗希にこれ以上追及する術はなかった。


「動きが悪くなってるぞ」

「気のせいでしょウ」


 テスティモに指摘される。否定はしたが図星である。斬り合う中、均衡と辛うじて呼べただろうが、今はもうとてもじゃないが差が生じてしまっている。


「どうしたんだ医者せんせい。まだまだこんなもんじゃないだろ」

「グッ……ゥ」


 不適に笑うアッシュ。容赦なく襲う鎌が、スカルヘッドの身体を斬り刻んでいく。致命傷は何とか避けているものの、その数は無数と言える。致命傷ではないにしろ、血は流れ過ぎた。

 医者のトレードマークとも言える、スカルヘッドの白衣は真っ赤に染まりつつあった。


「ギル、止めてよ。このままじゃスカルさん、死んじゃうよ」


 紗希はギルに訴えた。見るからに戦況は明らかであった。何も珍しいものはない。スカルヘッドの能力は確かに稀有ではある。

 だが、戦闘に関してはせいぜい凶器の間合いを変え、制する程度だ。執行者であるアッシュには大した障害ではなく、じきに慣れてしまったようにスカルヘッドをあしらい始めたのが、今結果となって現れている。

 とてもスカルヘッドに逆転は見込めそうにない。紗希の言う通り、このままではアッシュに殺されてもおかしくない。がしかし。


「俺に助ける義理があると思うか?」


 ギルの返答は助ける気は一切ないというものだ。これに紗希は、一瞬言葉を失う。


「何でっ……。スカルさんがギルの命を狙ってるから? でもそれは……っ……」


 スカルヘッドが自分の命を狙ってるから。だから助ける義理なんかないと言ったのか。そうじゃない。本当はそんなことないと。昼間スカルヘッドから教えてもらったことを言いそうになった。

 それを、スカルヘッドが内緒するようにと言った言葉が、紗希の訴えを遮った。その続きは何なのか。不自然に言葉を切った紗希に、ギルが尋ねそうなものだがそれもなかった。


「……っ。もういい。なら私が……」


 代わりに出た言葉は酷く無謀なもの。無力さは痛感しているはずだが、紗希はだからといって何もしないままでいるなんてことが出来るほど、賢くはない。


「ちょっと待て馬鹿。紗希に何が出来るってんだ」


 駆け出すところを簡単にギルに手を掴まれて止められる。


「離してよ! 私じゃ……無理かもしれないけど、でも、止めなきゃ……!」

「だから助ける義理はねぇっつってんだろ。それに、まだこっからだ」

「え?」


「全、然ダメだねこりゃ。猫の娘の方がいくらかマシだったよ」

「……ハァ、ハ……っ」


 ついには膝をついてしまうスカルヘッドをアッシュは見下していた。


「ほら。紗希ちゃんにも心配されてみたいだしねぇ」


 テスティモの重心を肩におき、アッシュは顔だけ振り向いて言う。


「家族を殺したことが引っかかるのかい?」

「……キサマっ」


 挑発めいたことを口にしても、スカルヘッドは立ち上がれない。


「本当に終わりっぽいな。テスティモ、君の心眼も珍しく外れたな」

「っかしいな。ぜってぇまだ隠してると思うがな」

「まぁいいよ。全然ダメだったってことで、殺すことに……」

「おいどうした?」


 何かを思いついたらしく、アッシュは振り上げかけた鎌を止めた。テスティモの質問に対してアッシュは、口元をつり上げて返した。


「いやぁ、大したことじゃないよ。ただ、髑髏の下はどうなってるのかと、ふとね」

「なっ……!」

「そういやぁそうだな。言われてみたらかなり気になっちまう」


 これから仮面を矧ぐ。そう言われたスカルヘッドは驚愕に満ちたあと、何とか力を振り絞って距離を取る。


「どうやら取られたくないみたいだけど、そんな動きじゃ逃げられないよ」

「ギャハハハ! 抵抗するか! せいぜい逃げ回れ!」

「くっ……」


 鎌を避わすだけで精一杯だ。今までもまだ力を抑えていたようで、アッシュの底が見えない。


「チ、あの馬鹿」


 舌打つギル。観戦の姿勢を崩さなかったギルも、仮面に注目が集まると悪態をつき始める。


「いいか、絶対に近付くなよ」

「う、うん……」


 紗希に再三の注意を入れる。紗希からすれば、ギルが行ってくれるなら問題はない。だが遅すぎた。その間に、スカルヘッドがアッシュから逃げることなど出来ず、ついには捉えられる。片手で悠々と振り回すデスサイズ。振りが大きい割に、アッシュが使えば怒涛の攻めに早変わりする。スカルヘッドの拡張させたメスを吹き飛ばし、スカルヘッドの次の一手より早く、髑髏の仮面をデスサイズで刈り取る。


「さぁ、どんな顔かな」

「う、く、ぁ……あぁぁ、ア、アァアアァア!」

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