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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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3:死に神Ⅷ

「分からない? 本当に分かんねぇのか? 分からねぇわけねぇだろうが! 俺様には分かってんだぜ。テメェは本性を隠してる。それこそ上手く隠してるつもりだろうが、俺様には筒抜けなんだよ!」


 これ以上ないくらい頭蓋骨の中にある光は強く輝き、またカタカタカタカタと激しく震えていた。それはまさに歓喜に打ち震えている様を体現している。


「全く、アナタ方には言葉もナイ。人の素性に口を出す。勝手な解釈で人を決め付けル。……早々に終わらせるとしましょウ。二度と私の前に姿を見せる気が起きないように」

「おぉ、おぉ、殺る気十分じゃないかよ? 行くぜアッシュ」

「あぁ。テスティモの心眼はなかなか正確でね。それも含めて、あんたの底を見極めてやるよ」


 テスティモを手にするアッシュ。一振りの鎌を手にしただけだというのに、その雰囲気は打って変わる。プレッシャーが強くなった。殺気が強くなった。それは当然の範疇ではあるが、全く質を異なるものへと変貌したと言っていい。テスティモを手にし、アッシュは本性を見せたのだ。死に神と謳われるに相応しい本性を。だが、それはまだまだ氷山の一角に過ぎない。


 死に神は嘲う。命を刈るに値するか否か、確かめたいのだ。リリアが止められなかったその刃が今、スカルヘッドに向けられた。


「……!?」


 意外にも驚いたのはアッシュの方だ。片手で鎌を振り回すアッシュの攻撃を、スカルヘッドは少し大きくしただけのメスで受け止めた。直接刃を受け止めることはしない。鎌の刃のすぐ下の棒部分で受け止め距離を保ち、肩口に襲いかかろうとするテスティモを下がらせる。


「さっすが!」


 ググッとなお力が入るため、スカルヘッドは気が抜けない。


「いいのか? テスティモばかり見てて」

「……!?」


 本当に驚くべきは、テスティモの刃がスカルヘッドを狩ろうと、いまだ力を入れ続けている。なのに、アッシュはテスティモを手から離し、フリーの状態で次の一手を打つ。

 テスティモは鎌であり武器である。何よりの利点は意志を持っているということ。単純に斬り刻もうと躍起になるくらいなら、テスティモ単体で可能である。自立した動きを見せ、それの対処に戸惑うスカルヘッドに、アッシュが力強い蹴りを入れた。


「そらぁ!」


 スカルヘッドはテスティモをいなして距離を取る。掠めた程度で済んだのは幸いだ。


「おいおいアッシュ。逃げられちまってるじゃねぇか」

「そう急かすなって。いつも言ってるだろ。戦いはじっくりやるって」


 悪態をつくテスティモだが、責めているわけではない。ならば今度は逃げられないように工夫すればよく、戦いを楽しむテスティモにはむしろスカルヘッドの動きは喜ばしいことだ。


「デタラメ……デスネ」

「そうか? テメェの能力の方がよっぽどデタラメだぜ」


 テスティモは、この世の法則を無視したスカルヘッドの能力を指すが、スカルヘッド本人はさして気にするはずもない。何も望んで手に入れたわけではないのだから。


「コレデスか」


 そう尋ねながらスカルヘッドはメスを伸ばす。もちろんアッシュ、テスティモの間合いの外からだ。アッシュはナイフからデスサイズへと持ち替え、間合いは格段に広がった。だが伸縮の能力を有するスカルヘッドは、間合いなど比べるまでもない優位性を有する。鎌を振り回して瞬時に伸びるメスを弾いた。


「ち、これじゃあ近付けねぇ。斬り合わせろよ」

「あぁ全く、面倒な戦い方だ。それじゃまぁ行ってこいよテスティモ」

「あいよ」


 アッシュはテスティモを投げる。ギュルギュルとまるで大きなマルノコのように回転して襲う。それは威圧感こそあるものの、単純な投擲だ。避けるのは容易い。


「こんなもの」


 スカルヘッドは半身ずらした最小限の動きで避ける。


「馬鹿野郎! ギリで避けんな!」


 ギルが叫ぶ。スカルヘッドがそれに反応したものの、動きに移すまでには届かない。


「遅ぇよ!」


 ただの武器。ただの投擲。それならばスカルヘッドに問題はない。しかしテスティモは意思を持つ。自力で動くことも出来る。軌道を修正するくらい他愛もないことだった。


「グぁ…!」


 反応だけでもしたのが功を為した。それでも腕が裂けたのだが、傷はまだ浅い。テスティモはそのままブーメランのように旋回し、アッシュの元へと戻る。パシッと慣れた手付きでテスティモを掴み取ると、アッシュは少し残念がる。


「まだまだこんなもんじゃないだろ? 猫の娘はもっと奮闘してくれたよ。それとも、過去のことがよぎるってところか」

「……黙ってもらえませんカ」

「同情はするよ。まさか自分の家族を手にかけるなんて……」


 挑発だ。そんなことは百も承知。だが聞き逃すことが出来るほど、スカルヘッドの気は長くない。これまでより数倍の速度でメスを伸ばしアッシュの言葉を遮る。いや、遮ったのは結果だけだ。本来アッシュの心臓を狙ったのだ。


「……さて、ようやく本気になってくれたかな」

「さすがに限界がありますヨ。私にモ」


 耐え抜いていたアッシュの言葉に、スカルヘッドは完全に憤怒を表す。


 やはり過去はトラウマのようだ。一方アッシュは冷静にそう考えたあと、じきにそんな余裕もなくなる。スカルヘッドがようやく本気になった。


 実のところスカルヘッドが得意なのは近距離戦で、メスの怒涛の攻めにアッシュは防戦一方となる。先程アッシュがナイフを用いていたときと似ているが、違う。正確にメスを受け止めることが出来た先程とは違い、鎌では受け止めることは難しい。距離を取り、躱し、メスを鎌で弾く。


「チョコマカと」

「まだだろ。まだ本気じゃねぇだろ?」


 激しく競り合いのなか、テスティモはさらにその先を見ていた。

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