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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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3:死に神Ⅶ

 そのままスカルヘッドは流れるように着地し、またそれまでに両手のメスは通常に戻した。


「そんな避け方があるとは恐れ入ったな。まだまだ冷静のようだし、けっこうやるから驚いたよ」

「……」


 アッシュはそう言うが、何も今まで冷静さを失わせるために、挑発を繰り返していたわけではない。やる気にさせただけだ。

 今は単純に、スカルヘッドの冷静な対処を称賛した。またスカルヘッドは何も答えなかったが、アッシュの人間離れした戦闘能力を改めて危険だと認識し、多少挑発に乗ってしまったため、冷静になろうと躍起になっていた。


「だんまり? それって失礼じゃないかな? ……あぁ、それとも、昔のことを思い出しちゃったとか?」

「……っ」


 が、アッシュの言葉のナイフは、止まることを知らない。冷静になろうと躍起になったところで出来るはずがない。


「アナタは……」


 スカルヘッドが何かを問い掛けた時、その声は上がった。


「だぁぁぁ!? もう待てねぇぞ!」

「……!?」


 その声は嫌に甲高く、闇の中で轟いた。だがその主が何処にいるのか分からない。暗いから、視界が悪いから紗希だけ分からないわけではない。夜目に慣れているスカルヘッドもギルも、その所在は掴めていなかった。


「な、何?」

「離れんなよ」


 いきなり不意打ちを喰らう可能性もある。紗希は不安にかられ、ギルが対処に余念を残さない。


「まだ早いって。テスティモ」

「アァ? おいおいおい! テメェだけ楽しんでるじゃないかよ。俺様はもう待つだけなのは限界だ! いい加減出るぞ!」


 アッシュの答えを待たず、テスティモは姿を現す。表現としては微妙だ。何故なら、テスティモは翠に光る眼光しか見せていない。

 だが確かに、アッシュの背後に現れているであろうことは、紗希にも分かったことだ。


「……誰だそいつは」



 単刀直入にギルは尋ねた。


「僕の相棒だよ」

「そういうこった、黒の処刑人さんよ」

「彼も我慢出来そうにないんだが、それともニ対一は卑怯って言うかい?」


 アッシュはそう言って刃こぼれしたナイフを懐にしまう。そして前に出てより照らされた姿は、同時にテスティモをも明るみに晒した。


「……なっ!?」


 執行者と戦ってきたギルも、博識あるスカルヘッドも、今までに見たことがない例を今目の前にしていた。 紗希に至っては、常識を覆された気分だろう。いやそれは、ギル、スカルヘッドも同様だったか。


 目にしたテスティモ。二人一組の執行者かと思えたが、そうではない。こいつは間違いなく魔界の住人だ。紗希も、見た目通りその姿から人間ではないことが分かる。


「そういう相棒かよ」


 執行者と魔界の住人が何故組んでいるのか。そんな例は見たことがない。そんな胸中は後から来た。

 それよりもさらに常識を覆す光景。テスティモの姿それ自体が、異例であった。



―テスティモのその姿は、鎌だった。




「そう鎌だよ。僕の相棒だ」

「ギャハハハ! 驚いたか。テメェら! 人間だと思ったか?そ れともどんな魔界の住人なんだと思ったか?」


 さっきまでの不満は何処にいったのか。大きな刃の付け根にある獣の頭蓋骨が、翠の眼光を灯しながら、カタカタと悦に浸りながら震えていた。


「ギルさん、魔界にはこんなのがいるのデスか?」

「知るか。俺だってこんなん初めて見たぜ。だが驚くことはねぇだろ。ただしゃべる鎌ってだけだ」

「簡単に言いますネ」


 脱力したように言ったが、申言して場を譲ってもらったスカルヘッドが相手することは変わらない。また、アッシュが今もスカルヘッドに目を向けていることはよく分かっていた。


「それとも代わってほしいか?」

「いいえ。これで引き下がってはさらにつけあがるでしょうから。大人の尊厳も見せておかないとなりませんヨ」


 アッシュが相棒と口にしている以上、アッシュの得意なスタイルはナイフを用いた接近戦ではなく、あのテスティモとの連携、もとい鎌を用いた中距離戦だということは分かる。

 だが、先程の攻防以上に手間取りそうだというだけで、引き下がることは出来なかった。ギルも、スカルヘッドが交代を断るであろうことは見越していた。


「え……、スカルさん一人で? だって相手はふた……」

「ありゃあ一人みたいなもんだ。それに、二人になったところで、あいつは退かねぇよ」


 紗希の合理的な解釈は最もだ。だが、スカルヘッドにも退くわけにはいかない意地はある。

 スカルヘッドを信頼していないギルも、その瞬間は理解していた。そう言われてしまえば、紗希は黙るしかない。もとより、紗希にどうこう出来ることではなかった。


「ギャハハハハハハ! 良い、展開だ! 出てきた甲斐があるってもんだ。処刑人とも戦ってみたいが、俺様はテメェとも戦ってみたかった!」


 弾けるように嬉々としているテスティモは、スカルヘッドを指していた。


「私と? それはどういうことデス?」


 アッシュとテスティモの意思は別にある。アッシュは興味があると言った。それこそ、スカルヘッドの勘に触る理由だったが、全く同じというわけでもなさそうだ。


「俺様はこいつとは違うぞ。テメェの過去も素性もどうでもいい。ただ楽しく戦えればそれでいいんだ。だからこそ、俺様はテメェと戦いたかった」

「意味が分かりませんガ」


 何を言っているのか。戦いを楽しむというものが紗希に分かるはずもないが、そこでスカルさんと戦う理由になんかなっていない。紗希は胸中、スカルヘッドと同様に否定していた。

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