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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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3:死に神Ⅵ

「いや。そんなことは言ってねぇ」

「ほら。それなら僕がやったか分からないだろ」

「……だがお前だ。此処に来てんだからな」


 リアちゃんを狙って此処に現れたのだから、その時点で決まりだとギルは言う。


「何のことかよく分からないな。その娘が此処にいるって? だから狙ってきた僕がやったって? ……ははっ、残念ながら見当外れだよ。処刑人」


 ゾクッと空気が一瞬変わる。


「その娘は僕から生き延びたんだ。別にもう殺す気はない。だから今はもう用がない。僕はそこの医者に用があるんだよ」

「……私デスか」


 やはり何を考えているのか分からない。アッシュは最初自分ではないと否定していたのに、今はもうあっさりと自分であると認めたのだ。


「この嘘つき野郎が」

「君との約束はまだだよ」


 ギルはアッシュが嘘を吐いたことに苦笑うが、アッシュは実にやんわりと返す。


「それで、私に何用で?」

「君にも興味があるからだよ。そうだねぇ。特に、"自分の家族を殺した"感想でも聞かせてくれたら嬉しいな」


 ……えっ?

 スカルさんが自分の家族を殺した?

 いったいどういうことなんだろう。確認したい気持ちでスカルさんを見る。


「……ギルさん」

「何だよ」

「……この場は譲ってもらえませんかネ」

「……。お前には荷が重いだろ」

「なぁに、心配無用デス。ちょいと、年上に対する口の訊き方を教えるだけデスヨ」


 指の間全てにメスを挟み込み、いつでも踏む込めるとスカルさんは提示した。


「へぇ、期待してますよ。医者せんせい


 ヒュンっと巧みな手の動きでアッシュはナイフを取り出す。人をくったような態度にいい加減痺れを切らし、スカルさんが先に仕掛けた。




§




 既に紗希の目には一瞬しか映らず、スカルヘッドはアッシュの眼前に迫る。だが速く感じるのは紗希だけで、ギルにはその動きが余すことなく見えていたし、アッシュも冷静に対処した。


 ただ、鉤爪のようにメスを振るうスカルヘッドは、少々冷静さには欠けていた。だがそれはまだマイナスとはならず、スカルヘッドの闘志を如実に表している。

 メスと打ち合い、アッシュが対抗したのはナイフであった。この場にいる全員が初めてアッシュの武装を目にする。ギルもスカルヘッドも、リリアと同様に、これがアッシュのメインだと考え、その特性はいかなるものかと頭を巡らせた。


「随分と鋭い。殺気が籠もってるね」

「アナタはどういうつもりデスカ? 何故、私のことを知っていル?」


 スカルヘッドは問うた。アッシュに躱す隙を与えぬよう攻撃を仕掛けながら。


「有名だからね、君は。機関の資料を見ればすぐに分かる。ただ分からないのは、どういう殺意で殺したのか。ちょうど、今のような感じかな?」

「……キサマっ!」


 スカルヘッドが声を荒げる。それはアッシュに斬られたからではない。

 いや、ある意味では斬られたというべきか。スカルヘッドの心の内を、アッシュに言葉という刃で斬られ、古い傷をさらに傷付けられた。

 その迫力は鬼気に迫る。その変わり様に、紗希は驚きギルは黙って見ている。アッシュは何を思うのか。変わらず口元を緩める。スカルヘッドが激昂すればするほど面白みを味わっているのか。


「凄いな、もうこんなにボロボロだ」


 斬り結んだアッシュのナイフは刃が欠けていた。


「……っと!」


 すかさずスカルヘッドはメスを振り抜く。横一文字に軌道を描いた斬撃は、頭を下げることでアッシュはかわす。そして瞬時に距離を取った。


「……スカルさん?」


 紗希はスカルヘッドの変わり様に目を見張った。今スカルヘッドは積極的に攻撃している。その姿は、今までの飄々とした態度とは対照的だ。それほどスカルヘッドには触れられたくない内容だったのだろう。


「危ない、危ない。危うく首を持ってかれるところだ」

「狙ったのだから当たり前デスヨ」

「……で、そうやって殺したのかい?」


 一層目を鋭くさせ、アッシュは口角をつり上げて追求した。ギリッとスカルヘッドは仮面の奥で歯を食いしばる。メスを巧みに懐へと収納すると、手には一本のメスのみを残した。


「その口の軽さは、痛い目をみないと治りそうにないデスネ」


 そう悟ったように口にしたスカルヘッドは、その手を鈍い光で一瞬包み込み、メス全体へと移す。そうして僅か数十センチしかなかったメスは、薙刀のような巨大な凶器へと変貌した。スカルヘッドはそれを変わらず片手で掴む。見掛け以上に力があるようだ。


「面白い能力だね」


 突進とも言える力強い前進で、スカルヘッドは僅かに地を跳ね、巨大なメスを振り抜く。小さいままに振るっていたときとは、リーチの差が段違いだ。だがそれは躱されたときの反動もまた大きい。

 事実、アッシュは態勢を低くして、宙にいるスカルヘッドの懐へと潜り込む。

 片手で振り回しているスカルヘッドには、もう片方空きはある。その空いた左手には仕込むようにして、メスを収縮させていた。それが、突如避けた動作を残すアッシュの頸動脈を狙って普通の大きさにまで拡大した。

 だがアッシュも執行者であり、その実力に嘘はない。左手をスカルヘッド自身の体で隠す所作は、経験を有するアッシュからすれば、逆に何かあるなと予測させていた。スカルヘッドの狙っていた仕込みも見破り、ナイフで弾いて無効化する。


「おっ?」


 呆気ないと思ったアッシュの予想を遥かに超えた。

防ぐ手立てはない。対抗する術はないように思えた。他に何か新しい能力でもあれば別であろうが、アッシュを驚かせたのは、真新しい能力を使うこともなく危機を脱したからだ。


 スカルヘッドは、咄嗟の機転を効かせた。巨大なメスを持つ腕は伸ばしきっている。メスを一瞬で収縮させたところで、腕が間に合わない。


 弾かれたが仕込んでいた手には普通の大きさのメスがある。上部に弾かれた手にあるメス。刃を上、持ち手を下にしたまま瞬間的に、また爆発的に拡張させた。伸びたメスは柱のように姿を変え、刃ではない部分が地に当たると反動でスカルヘッドを空へと押し上げた。


 弾かれていたメスを咄嗟に利用したため、真っ直ぐとはいかず、ちょうど後退するように弾き飛ぶ。おかげでアッシュの間合いの外へと避わした。

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