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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
1章 闇に蠢く住人たち
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2:定まった標的Ⅷ

「……迅走しんそう・十九閃」


 ギルが小さく呟いたのを、聞き取れた者は皆無だった。声量の問題……というよりも、次の瞬間に衝撃が走ったからだ。


「ガァアアアァァアアァァ!!」



「あ……、そ、そんな……」


 逃げる隙間もないくらいに、多く飛び交っていた火球も光線も消え失せていた。シロは多量の血を吹き出して倒れる。シルビアは倒れはしなかったが、シロと同様に血を吹き出していた。


 瞬間的に変貌した光景に、紗希は戸惑う。何が起こったのかと驚愕し、そして紗希なりに考えた。火球や光線をかき消し、両者に攻撃をしたんだ。

 そしてギルは、一気に駆け抜けたのか。今、シルビアたちを中心に逆の立ち位置にいる。

 これだけの動作をしたのに、生じた音は一回だけだったように聞こえた。

 あまりにも短い刹那、紗希に限らず、常人なら同じ様に感じた筈である。


 実際には、刹那の内に十九もの連撃を与えたのだ。あまりにも速いその動きは、素手とはいえ、風をも生じさせる。元々の攻撃の力に加えて、刃にも近い現象を生み出したのだ。


 自分がどの様に殺られたかも見えないまま、シロは崩れる。流砂となって、そして……消えていった。






「……ふ、ふふ。さすが黒き処刑人ってとこかしらね……」

「知ってたのか」

「貴方を知らない方が、少ないと思うけどね。……あ~あ、心臓をシロに預けたのは、逆に墓穴を掘っちゃったもね。まさか、シロに勝っちゃうなんてね……」


 仰向けにシルビアは倒れているけど、清々しいともとれる顔をしていた。シロが殺られたから体はもう動かないのか。どうあっても負けたと、彼女は思い知らされたのか。いずれにせよ、澄んだ表情とは引き換えに、シルビアの体は徐々に崩壊を始めていた。


「……神崎紗希さん」

「え! あ、はい」


 まさかこっちに振ると思ってなかった私は虚をつかれた。


「私は負けちゃったけど、まだまだ私みたいなのが狙ってくる。基本的に私たち魔界の住人はしつこいから。ほんと、うんざりするくらいね……」


 そう言い残して消えた。私の身を案じての助言なんかじゃ、決してなかったと思う。最後まで目を細め、薄笑いを浮かべていた。まるで……いや、多分実際そうなのだと思う。面白がっていたんだ。私の行く末を。


「…!?」


 突如違和感が生じる。まわりの情景が歪み始めていた。


「此処も崩れるんだろうな」

「だ、大丈夫なの?」

「……さぁな」

「ちょっ……!」


 他人事のように、あっさりと言いのけるギルに追及した時だ。そこで、私の意識は途切れた。気付いた時には、私は残っていた教室にいた。


「お前って悪運は強いな」


 そう言ってきたギルにようやく気付く。


「あ、手当て……しようか?」


 右肩から滲み出てる血を見て私は言った。返り血をべったりと浴びているその姿は、痛々しく映る。ギル自身も負傷しているはずだった。保健室に行けば、何かしら出来ることがあるだろうと思ったのだ。


「あぁ。別にこれくらい……大丈夫だ。明日には治る」

「え、でも……」

「いいって言ってんだろうが。さっさと帰り支度でもしろ」

「うん。そだね」


 言葉自体は荒っぽいが、怒ってるわけではないみたいだ。こちらに背を見せているので、表情からの推察は出来ない。けど、声の調子からそれだけは分かった。


「……え!?」


 何だろう。ようやく気付いたが、明らかにおかしい。空間に引きずり込まれる前と今とでは、決定的に違う。


 教室は、確かに血の海が広がっていた筈なのに。でも今は、ギルから垂れる数滴以外には、血など広がっていない。忽然と、消えてしまっていた。


 山村君は……殺された。それは、紛れもない事実の筈で……でも……その跡は全く無くて……。


「ねぇ、ギル……」


 どういうことなのか訊きたかった。消えていなかったとしても、怖い。正直、死体なんて見たくない。知人なら、尚更だ。けど、有るはずのものが消えたということは、ますます不可思議で……気味が悪くて……理解できなくて……。


 だから、答えが欲しかった。納得させて欲しかった。でも、呼び掛けたギルの返答は無く、振り返ってみるとギルもまた、いなくなっていた。


 さっきまで、有ったものとはまた違う恐怖が膨らむ。早く帰ろう。そう思い立ち、帰り支度を急いだ。


 ふと、時計を見る。


「……え……?」


 時計は全く、進んでいなかった。止まっていたわけでもなく、ただ、進んでいない。そんなはずは……。


 そうだ。やっぱり夢なんだ。どこからが現実で、どこまでが夢なのかは分からないけど、きっと夢なんだ。白い少女も、白い獣も、もしかしたらギルだって、私が狙われるなんてことも。


 そんなことを考えて、自分に言い聞かせて、教室を後にしようとする。


「……!?」


 そして、すぐに痛感させられる。これは、夢なんかじゃない。紛れもない現実なんだと。私は、教室に開けられた大きな穴を目にして、思い知らされてしまった。



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