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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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3:死に神

 静かなものだった。隅っこに追いやられているこの部屋は、音が入ってくることもない。またこの場所に戻ってくることになるのは意外だったが、誰かに見付かることもなさそうだ。


「……リアちゃん」


 私は病院に来ていた。先日エルゴールとの一件があった病院だ。此処はちょうど、エルゴールが隠れ蓑にしていた秘密部屋に当たる。

 朝早く、といっても学校に行く直前に、スカルさんがやってきた。そしてリアちゃんの容態を伝えてもらったのだ。あまりに突然すぎて、最初は頭が回らなかった。とりあえず、屋根の上にいたギルに頼んで、全速力で病院まで運んでもらって今に至る。


「呼んでしまったわけデスがその……学校はいいんデスか」


 スカルさんが尋ねてきた。


「いいわけじゃないですけど、心配だったんで」


 いつ、何処で見つけたのか。スカルさんによると、昨夜猫の姿で河原の橋の下に倒れていたらしい。


「……本当に大丈夫なんですか?」


 容態を訊いた。既に訊いたことではあったけど、実際に目で見える範囲ではとても大丈夫とは思えない。


「傷は酷いデスが命に別状はないデスし、後遺症も出ないでしょう。安静は必要デスが」


「……そう、ですか」


 とりあえずは安心していいようだ。ただ、どうしてリアちゃんがこんな状態なのか気になる。


「どんな奴がやったか分かるか?」


 この部屋には二台のベッドがある。前来たときは一台しか安置されてなかったので、おそらくスカルさんが別の部屋からこっそり持ってきたのだろう。小さな診療所のように多少改装されている。リアちゃんが寝ているベッドとは、別のベッドに腰をかけるギルが言った。


「……いえ。大きな刃でやられたとしか。でも私には、あの執行者しか考えられませんがネ……」

「まぁ、あいつだろうな」


 確証があるように二人は納得している。


「そんなっ、執行者なのに何でっ……」

「何でも何も、執行者だからだろ」

「あ……」


 そういえばそうだ。執行者なんだから、魔界の住人を狙うのは当たり前のはず。でも私は、それで納得が出来るはずがなかった。


「ギル」

「あ?」

「あの執行者のところに連れて行って」

「はぁ?」


 この上なく呆れたように返されてしまう。けど、そこに反応している余裕はなかった。


「説得しないと。またリアちゃんが狙われるかもしれない」

「どっちかっていうと、紗希のほうが魔界の連中に狙われてんだけどな」


 うっ……。もっともなことを言われてしまった。


「でも、今は私よりリアちゃんが危ないってことだよね。なら何とかしたいし。お願い」


 ギルが私の言うことなんて聞かないことはよく分かってる。それを承知で、私は頭を下げて頼み込む。


「ギルさん。私からも頼みますヨ」


 スカルさんもそう言ってくれる。それがよっぽど意外だったのか、ギルはスカルさんに対して警戒した。


「紗希は何も考えてないだろうからいいとして、お前……何企んでやがる」

「何も考えてないって、私が馬鹿って言われてるみたいなんだけど」

「お前に何のメリットがある?」

「別に何も企んでませんヨ。今はこの娘が私の患者デスから、死なせるわけにはいかない。ただそれだけデスヨ」


 私の抗議は普通にスルーされて話が進んでいた。


「信じられませんカ?」

最初はなから信用してないからな」

「カッカッカ……そうでしたネ。なら私を見張ってもらっても構いませんヨ。どうせ一緒でしょうカラ」


 一緒ってどういう意味だろう。スカルさんの言葉に疑問を抱いている私に、ギルがようやく声をかける。


「紗希。会わせてやるよ」

「本当?」

「あぁ。結局一石二鳥なのは確かだし、待つのは苦手だからな。早めに戦うほうがいい」

「いやそうじゃなくって、戦うのはダメだからね。話をするだけでいいんだから」


 わざわざ戦う必要はないはずだ。そう思って言った私に、胡座あぐらをかいて膝の上で肘をつくギルは、突き詰めるように言葉を口にした。


「なら、話し合って解決しなけりゃどうすんだ?」

「そ、そんなこと……」

「あいつは執行者だ。色んな奴がいるが、基本的に奴らは魔界の連中は殺すつもりだ。話し合いなんか成立するわけねぇよ」


 冷たく言い放つ。私がやろうとしていることは、そもそも話し合おうなんてことは無駄だと言う。


「そんなの、やってみなきゃわかんないでしょ」

「あー、はいはい。そうですね」

「な、何よ。その言いぐさ。ギルの馬鹿」


 馬鹿にしたように返されてしまう。


「とにかく、執行者も魔界の住人に合わせて動くのは夜デスから、それまで待つ必要がありますネ」


 ということらしいので、ひとまず夜にならないとならないらしい。なら完全に、遅刻の罰である反省文は確定だろうけど、今からでも学校に行こうかと思った。

 学校を終えてからになると、少し遅くなるかもしれない。そのことをギルに伝えると、詳細を追求してきたので、だいたいの時間を告げると、遅すぎだと怒られてしまった。

 他に妥協案を考えたが全て却下されてしまった。


「変に動いたら魔界の住人にまで目をつけられるだろうが」

「あ、なるほど」


 そういうわけで、今日のところは学校には行かないことにした。生まれて初めてのサボリになるわけで、そう考えると何だかどきどきしてきた。

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