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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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2:迷いⅦ

「そう。ならそうさせてもらう」


 挑発にはアッシュの思ったよりは乗らない。元々気分が良かったわけじゃないし、リリアはただ平静に努めただけだ。


「……っ!」


 リリアによる斬撃が増えた。右腕の一刀だけだと思っていたが、何のことはない。左腕にも同様に風を纏ったのである。


「油断したよ。二刀流とはね」

「油断? 実力の違いでしょ」


 攻防は逆転する。リリアが一刀を振るい、アッシュはナイフで受け止める。リリアはすかさず二刀目を斬り込む。ナイフは一本しか所持していないのか、他に何も持ち出さない。一刀目を弾いて二刀目を何とか受け止める。だがそれで終わらない。リリアは旋回してさらに剣撃を繰り出す。


「おっと……」


 その動きは段々と速くなる。風を呼び、風に乗り、小さな竜巻のように反撃の隙を与えない。リリアの丸く握った拳、刃の突きを避わしたアッシュは距離を取った。一気に戦況が悪くなったため、仕切り直すための離脱だ。


「危ない、危ない」


 全く調子は変わらず、本気で危険を感じているとは思えない。


「でも悲しいかな。それくらいじゃあまだ……」


 アッシュは言葉を切った。攻撃を受け止めていたナイフが綺麗に真っ二つとなったからだ。落下した破片は河原の石で弾かれ無残な姿となる。アッシュの手にあるのは、刃が削がれたナイフの持ち手だけだ。


「それくらいじゃあ、何?」


 リリアは笑みを見せない。得意気になってもおかしくないが、アッシュの不可解さに警戒していた故だ。


「……ふぅん?」


 手にするナイフの持ち手。地に転がる刃を交互に見た後、アッシュはリリアとは対照的に不適に笑みを浮かべた。


「なかなかけっこうやるもんだね」


 アッシュはあっさりと、武器になり得ないナイフを無下に捨てた。この一つの行動でも、リリアはアッシュに違和感を感じていた。


 従来、執行者は各々武器を扱う。対魔界の住人用に精製された、各々が極めた武器を。クランツなら二丁拳銃に当たるだろう。だがアッシュは……目の前の執行者はどうだ?


 あっさりと武器を捨ててしまったのは……。


「……いいの? 捨ててしまって」

「刃が二センチほどしかなくなれば使えないさ。僕はそんな凶器を扱えるほど、器用じゃないんでね。だから、次を使わせてもらうさ」


 そう言ってアッシュは腰に手をやって次のナイフを取り出す。銀色ぎんしょくなのは変わらないが、捨てたものより禍々しい形だ。


「そしてさらに、僕も二刀流」


 得意気にもう一本取り出す。対を為すナイフなのか、装飾は同じだ。恐らく新たに出したナイフがアッシュの本当の武器なのだろう。リリアはそう睨む。だとすれば、ただのナイフではないはずだ。何か特性があるはずだがそれはまだ分からない。


「ほらいくよ」

「……くっ」


 だが待ったはない。アッシュもリリアがまだどれだけの奥の手を隠しているか分からないはずだが、それに構うことなく接近する。咄嗟にカマイタチを撃った。


「良い技だけど、単純すぎて見切られやすいな」


 初めて見せたはずだが、まるで知っていたかのように、僅かに右に動くことで避わしてみせる。再び近距離戦に持ち込まれていしまう。

 仕方なく、風で刃を創造して対抗する。風に乗り、流れるように斬り結ぶが、アッシュもそれに追いついてみせる。


「どうしたのさ。次はどんな能力を見せてくれるか、こっちは楽しみなんだよ」

「えらく舌が回るみたいだけど、集中しないと噛むんじゃない?」

「忠告どうも。それより、自分の身を心配したらどうだい? そろそろスピード上げるよ」

「なっ……」


 キィン……キィン……。


 両者は互角に斬り合う。均衡したものだったが、徐々に崩れ始める。リリアが右腕を出せば、アッシュが弾く。

 軽い質量のため、一瞬弾かれたリリアはアッシュの左手のナイフを逃れる術はない。だがその弾かれた勢いを逆に利用して空中で旋回し、咄嗟に見切って、ナイフの側面を蹴り上げた。

 リリアの蹴りで態勢が浮いてしまったアッシュは隙だらけだ。リリアがその隙を逃すはずがなく、空中のまま左斬撃を繰り出す。


「……っ」


 が、態勢が崩れたアッシュは、右手のナイフを背中から回して左方から投擲した。全く警戒できていなかったリリアに、まともに刃が襲う。


「終わりだね」


 怯んだ隙にアッシュは態勢を立て直し、残ったナイフでリリアに刃を向けた。


「飛べっ」


 腹部に刺さったナイフを握りながら、リリアは殺気を込めて風を爆発させた。


「ぐ……ぅっ 」


 リリアを中心に外へと突風が派生する。無数の風の刃とともに巻き起こり、アッシュは踏ん張ることもできずに飛ばされた。


 数十メートル先まで着地は許されず、ようやく自力で足で踏みしめたのは、地についてからもズザザッと滑り続けた後のことだ。


「凄い突風だ。とてもその場では耐えられないよ。ここまで出来るなら、もう少し上を見せようか?」

「何言って……」


 アッシュの口振りは、まだ本気ではないというようだ。冗談ではない。リリアは風を利用してスピードを上乗せしていた。スピードだけなら本気に近かった。これ以上のものとなると……。


「あぁ、そんなに身構えないでいいよ。執行者が用があるのは一つとは言ったけど、まだ殺す気にはなってないから。軽くいこうよ、軽~く。あ、でも必死になってもらわないと殺すかもしれないんだっけ。やっぱり頑張ってもらおうか」

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