表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
172/271

2:迷いⅣ

 教室の後ろで集まる皆を押し退けて、狭山を問い質す。


「何してんの?」

「あ、サキリン。今良い感じで集まってるぞ。これでサキリンが勝てばかなりの儲けだ」


 見れば庵藤の方に予想が集中しているらしく、ほとんど買われている。一方私の方は……いやこれだともはや勝負しなくてもいいんじゃないのかと思う。


「ついでにアンケートも取ってたんだ。サキリンのメイドを見たいかってのだと、男女両方とも見たいが多いぞ」

「絶対やらないから!」


 きっぱりと断る。何でそんなことを私がしないといけないのか。メイドなんて絶対嫌だ。


「これがアンケート?」

「そうだけど?」


 即出で作ったんだろう。ダンボールの素材で囲まれた小さな入れ物から、集めたアンケート用紙を回収する。本当に多いことに驚きだ。


「ん?」


 ふと気付いた。ちゃっかり記入者の名前まで書いていた用紙だが、意外な人物の名前があることに。


「あ……」

「……加奈。何これ?」


 瞬時に本人は悟ったようだが、意外な人物とは加奈のことだ。何で私をメイドに貶めたい賛成派にいるのか。


「どういうこと?」


 優子といる加奈にずいっと近付いて追及する。もちろん逃げ場など作らせない。


「……えと、私も見たかったし」

「見たかったし。じゃないよ」

「ごめん。つい。ちゃんと勉強見てあげるから」

「本当?」

「ほんとほんと」


 正直加奈に勉強をみてもらわないと、まず成績を落としかねない。加奈を仲間にするのは必須条件だった。


「でも紗希が勝ったらメイドないけど?」

「うん。確かにそれは非常に残念かな。でも紗希が困ってるなら助けたいしね」


 優子の指摘に対し、加奈は嬉しいことを言ってくれる。私は本当に良い友達を持ったと思う。


「加奈……」

「はいはい分かってるって。でも本当に頑張らないとね」

「あ、じゃあ僕も教えようか?」

「……うるさい」


 より状況を悪くさせた本人、もとい狭山を黙らせる。これでもかというくらいに冷たく言ってやった。


「……おぉ……。……おかしくね? 加奈っちだって賛成派なのに。これが男女の違いという奴か?」


 そんなことを言ってクラスの男子に同意を求めていた。むしろ普段の行いである。


 とまあそんなことがあり、私はテストにより一層打ち込む必要になった。優子や加奈から言わせれば自業自得らしいのだが、今になって言っても、後悔先に立たずというやつだ。とにかく勝つしかない。


 さっそく今日からでも勉強会が出来たら良かったのだが、何と二人に都合があるため勉強会が出来なくなった。むぅ。


「泣かない泣かない。今日は無理だけど、ちゃんと見てあげるから」

「そうだよ紗希」

「いや泣いてはないんだけど」


 無理なら仕方ない。自分一人でも家で勉強しないといけない。そう思って帰宅した。そして今……。


 実際に机にかじりついて、試験範囲の復習に専念している。いや、したいのだけど。


「何だこれ? 意味わかんねぇぞ。何て読むんだ?」

「いいから邪魔しないでよ」


 珍しく思ったのか、背後からギルが覗き込んでいる。気になる箇所を見つける度に(というかほとんどだが)、何なのか尋ねてくる。はっきり言って勉強出来ない。


「暇なんだよ」


 というのがギルの言い分だった。ならいつものように、私の部屋にある漫画でも読んどけばと思ったのだが、どうやらもう読破してしまったらしい。けっこう読むの早いなと思う。でも、だからといって邪魔されるわけにはいかない。


「ならこれでも読んどいて」

「何だこりゃ」


 渡したのは日本史の教科書。今やっているのは苦手な数学で、今はまだ使わない。それに日本史ともなれば、漫画が読めたギルにも読めるだろうし、かなり厚いから良い時間稼ぎになる。教科書が分厚くて良かったことはこれが初めてだ。


「ん~? 何かつまんねぇな」


 ベッドに仰向けに寝っ転がって、教科書を掲げて読み始めたギルの感想だ。ま、それはそうだろうなと思う。でもここで飽きられて再び邪魔されたくないため、私は一つ策を講じた。


「最後まで読んだら面白いから」

「本当か?」


 大分疑いつつも、ギルは読み進める。何か意外にも素直なとこあるよなぁと、妙なところを発見する。ちょっと可愛いかもしれない。


「まだ全然つまんねぇ」


 と度々口にする愚痴をバックミュージックに、私は数式を解き続けた。


「……う、ん、これは」


 さすがに私一人の力では限界があったか。ちょっと応用になると、もうお手上げである。早々と解答を見ても、多少省略しているのもあり、何故そういう風に展開して、こんな結果になっているのか全く持って分からない。


「はぁ」


 と少し楽な姿勢を取る。背もたれに体重を預けて、机に安置してある時計を目にした。家で勉強を始めてから、もうすぐ二時間くらい経つ。けっこうやったつもりだが、そんなに経っていなかった。


 そういえばギルはどうしたんだろう。欠かすことのないくらいの頻度で愚痴があったはずだが、いつの間にか終わっていた。


 後ろを振り返り、回転椅子を回すとギルは、何やらベッドの上で胡座あぐらをかいていた。


 背を向けているため何をしているのか、此処からでは分からない。もしかして日本史の教科書を本当にずっと読んでいるのだろうか。もしそうなら、一応騙してしまったわけだし少し悪い気もした。


「ギル。何やってんの?」


 そう尋ねながらベッドに近付く。


「ん?」


 とギルが反応した。


「ああ、つまんねぇから少しでも面白くなるようにな」

「へ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ