表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
171/271

2:迷いⅢ

 このままではまずい。ホームルームが終わり、一限が始まる前に何とかしようと私は決心した。


「サキリンっ!」

「……っ!?」


 いったい何事か。急に飛び込んでくるように教室の扉を開けたのは狭山だった。


「お前遅刻だぞ。今日どうした?」

「あ、ノリ先。ちょっと待ち合わせを」


 ちょうど先生が教室を出ようとしていたところで、当然狭山は目をつけられる。ちなみにノリ先とは、先生の名前の赤城克典あかぎかつのりからとったあだ名である。狭山が名付けた。


「ノリ先って呼ぶなと言ってるだろうが。センベイみたいだろ。だいたい待ち合わせにしては遅すぎだ。放課後ちゃんと残れよ」

「分かってますよ」


 割とあっさりと会話は終了し、ノリ先は教室をあとにする。そして狭山はといえば。


「あ、サキリン」

「サキリンって呼ぶな!」


 真っ先に私のところに来た。


「今日どうしたんだ? えらく早くね?」

「たまたま」

「そっかー、せっかく今日雨だったから一緒に相合い傘して登校しようと思ってたのに」


 とは何か、先程言ってた待ち合わせの相手は私か。待ち合わせって言わないと思う。私は待ってないのだ。


「いいんだよ。僕が待ちたかったんだから。じゃあ代わりに帰るときに相合い傘しない?」

「や・だ。……何でそんな恥ずかしいことしなきゃ……」

「照れてるサキリン可愛いよ?」

「うるさいなもう!」


 私はこれ以上構ってられないとばかりに去る。今は狭山の相手なんかしてる場合じゃない。


「庵藤。ちょっといい?」

「何だ?」


 真面目に教科書を開いてテスト勉強していた庵藤の席の前に立つ。


「勝負の件なんだけど」

「今更放棄したいとかか? まぁ俺はそれでもいいし謝れば許してやるぞ。私はアホでした。アホの分際ですいませんでしたってな。罰ゲームは受けてもらうけどな」


 ……くっ、殴っていいかな。身の危険を感じたわけじゃないが、さすがに我慢出来そうにない。


「ムカつく。今まで以上にムカつく! 私が謝る? そんなこと誰がするもんか! 絶対に私が勝ってやるから!」

「あ、そう」


 こっちは必死になってるのに、庵藤は至って冷静だった。


「く……」


 これ以上何か言われる前にさっさと立ち去った。


「紗希いいの?」


 席に戻ると、優子が訊いてきた。


「何が?」

「撤回するじゃなかったの? あんなこと言って」

「いいの! 絶対に負けないから」


 撤回するなんて言うもんか。これを機に見返してやる。


「加奈……」

「う……ん。少し様子見てみようか」


 二人はほんとに大丈夫なのかと言いたげな様子に見えた。心配しなくても大丈夫。私だってやる時はやれる。


「なぁどういうこと?」


 とよく分かっていない狭山が優子に教えてもらっているのが見える。

 そんなことをしているだけで休憩時間が終了してしまった。



「…………」


 …………え……と。

 もしかしなくても、もしかして……私、やっちゃった?

 段々とそんな風に思い始めたのは授業中。両手を組んだあと額に添えて肘で支える。勢いのまま勝つと宣告してしまった手前、撤回は出来ない。

 先程大丈夫? と訊いてきた優子を思い出す。今なら少しは冷静になって言える。全然大丈夫じゃないと。頭の中でぐるぐると考えるが、考えれば考えるほど混乱してくる。その状態のまま、やはり良い打開策も思い浮かぶことなく、呆気なく授業は終わってしまう。


 授業が終わると同時に現れたのは狭山である。


「勝負するんだって? 僕とも勝負しない?」

「……何で?」

「罰ゲームとしてメイドとかやってほしいから」


 臆面もなく言いのけた。


「絶対にしない」

「え~? 俊樹だけずるいなぁ。じゃあもしあいつが買ったらサキリンにはメイドになるよう頼むか」

「ちょっ……待っ……」


 不吉なことを言い残して、止める暇もなく狭山はさっさと居なくなってしまった。


「…………」

「え、と紗希?」

「……はい」

「だ、大丈夫……じゃないよね」


 振り向いた私の顔を見て優子はそう判断したらしい。いったいどんな表情なのか。予想より酷いかもしれない。


「い、いやいや、紗希だって私より成績良いし、勝つのだってけっこう……」

「そ、そうかな」

「いや無理だと思うけど」


 ちょっと勝てるかもなんて希望を見出したのだが、あっさりと加奈が斬る。


「もう加奈。何でそんなこと言うのさ」

「庵藤の成績というか、前の順位知ってる?」

「いや?」


 優子と二人で首を振る。


「学年で四位よ。三百四十六人中でね」

「…………」

「……紗希は?」

「…………えっと、百くらい……」

「…………」


 空気が重い。


「ほ、ほら私より全然良いし」


 ああ、優子はそれでも頑張って励ましてくれる。本当に良い娘ですよこの娘は。


「あ、ところで昨日見たテレビなんだけど」

「えぇ?」


 一方加奈は話題を急変させた。あまりにも不自然過ぎる。


「ちょ……加奈」

「だってその……もう紗希はメイド決定じゃないかなぁ」

「やだよ。そんな罰ゲーム。てか目を反らさないでよ」

「いやその。何かもう撤回は出来ないし。ほらあれ」


 いったい何なのかと見れば、狭山が何やら宣伝していた。……ん?


「さぁさ! 俊樹VSサキリン。勝つのはどっち? サキリンが負けたらメイドになってくれるぞ! 勝つと思うほうを買っていこう」


 ちょ……。何あれ。


「……賭事みたいね。堂々と告知してるし、皆買ってるっぽいし。もう退けないかも……」

「や、止めさせてくる」

「あ、いやもう遅いんじゃ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ