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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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2:迷いⅡ

 優子が来ているとなると、見れば登校の時間になっていたようだ。ちらほらとクラスメートたちが姿を見せ始める。


「あれ? 神崎さん。今日早いんだね」

「あ、うん」


 というやり取りも何回交わしただろうか。登校してくるクラスメートにはけっこう尋ねられてしまう。むぅ……。


「やっぱり紗希が早いと皆意外そうだね」


 優子がそんなことを口にする。それは確かにそうかもしれないけど、優子も割と遅刻する方なのだ。でも何故か優子は珍しがられることはない。


「優子もよく遅刻するのに」


 恨めしそうに言ってみる。


「そう? でも何だかんだで走ってギリギリ間に合ってるし。それに紗希は庵藤君とよく言い合ってるから、そのイメージが強いんだよね」

「そんな言い合ってないと思うけど。それにそもそも、庵藤のほうが突っかかってくるからで……」

「俺が何だって?」


 タイミング良く本人が現れる。鞄を担いで席に向かおうと隣を通ったあたり、今来たところのようだ。


「あれ? 委員の仕事は?」


 いつも朝では校門前に立っていたから訊いてみた。


「当番制だからもう当分俺はやらなくていいんだ。それに、今は試験前だから生徒はやらなくていいし」


 代わりに先生が立っているらしい。というか、当番制だったのか。何かいつもいたから、てっきりずっとやるもんだと思ってた。


「……お前、当番制だってことも知らなかっただろ?」

「……え? いや、そんなことはないよ…?」


 何とか誤魔化そうとしたところ、何とも不自然な形になってしまった。


「まぁいい。で、俺が何だって?」

「紗希とよく言い合ってるよねって話」

「まぁそうだな。神崎がアホだから仕方ない」

「ちょ……私の何処がアホだって?」


 あまりのストレートな物言いに聞き捨てならない。


「何処が?」


 ユラリと庵藤の周りが不穏な空気に変わった気がする。むっ……と少したじろいだ。


「何回遅刻しても一向に回数が減ることもなく学習能力がない。事件があったって病院に朝からわざわざ出向く思考。そういやこの前も、バケツに水汲んで何もないとこで転んでたか」

「……って何でバケツのことまで」


 掃除の時間に水を汲みに行った時のことだ。廊下を水浸しにしてしまったけど、転んだところは誰にも見られてないと思ってたのに。


「たまたまだ。ん? そういや前向いてなくて柱に頭ぶつけてたこともあったな。何かよく分からん声を発し……」

「わぁぁ! もういいよ!」


 かなり具体的な例を挙げられてしまい、とても反論出来そうにない。悔しいが勝てそうになかった。


「まぁそういうわけで、神崎はアホだったことが分かる」

「よく見てるね?」

「……たまたまだ」


 優子の指摘にぶっきらぼうに答える。


「で、でもアホじゃないもん! 大体、庵藤だってこの前、頭に眼鏡乗っけて眼鏡が何処か知らないかって訊いてたでしょ」


 言った。言ってやった。あれには笑わせてもらったのを覚えている。


「確かに」

「そういやそんなことあったね」


 と、周りも関心を持ったのか同意してくれている。


「何だと?」

「な、何よ」


 言われたから言い返しただけというのに、庵藤は頭に来たみたいだ。けど私が今まで色々言われ続けたことに比べれば軽い。私は悪くない。はずだ。


「何騒いでんの?」


 そう言いながら近付いてきたのは、加奈だ。今学校に着いたらしい。


「うーん、紗希はアホだったのか、そうじゃないのか。論争してるところ」


 うまく説明しようと悩んでから優子が答える。

「……何それ」


 加奈が呆れるのも無理はない。私自身何でこんなことになったのか分からない状態だ。


「何だかよく分からないけど、試験近いんだしそれで決めれば?」

「え?」

「いいなそれ。負けたら罰ゲームだからな」

「……え? ちょっ……」


 賛同するように庵藤が勝負を申し込んできた。ついでに罰ゲームを入れ込んでいるあたり、勝つ気満々のようだ。


「おお。何か面白そうだな」

「いいじゃん? その方が分かりやすいし」


 な、何か皆勝手なこと言ってない?

 そして、何で少し盛り上がっているのか。


「ちょ、ちょっと待って。私は……」

「何騒いでんだ? 席につけよー」


 そこで都合悪く先生が教室に入ってきた。


「どっちが勝つと思う?」

「やっぱり庵藤君じゃない?」


 皆そんなことを話しながら席に戻ってゆく。


「試験楽しみにしとくからな」


 そんな捨て台詞を残していく庵藤に、私は何も言えないでいた。え、何この展開?


「……優子。もしかして私のせい?」

「……え、いや加奈のせいではないと思う。多分。紗希の運が悪いとしか……。紗希大丈夫?」


 優子が席に戻る前に気にかけて尋ねる。


「大丈夫じゃないよ。何これ、私が珍しく早く来たから? もしかして撤回出来ないの? やだよ、罰ゲーム。絶対酷いことされるよ」

「お、落ち着いて紗希」


 優子に助けを求める。肩を掴んでどうにかしてと揺らした。


「神崎静かにしろよー」

「あ、は、はい……」


 しかし、ホームルームが進まないと困った顔で注意されてしまう。クラスの皆にからも注目を浴びる中、仕方なく今は大人しくすることにした。

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