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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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2:迷い

 翌日は雨が降っていた。じめじめとした湿気の多い日だった。

 傘を畳んで傘置きに立て掛ける。どうしても靴は濡れてしまい気持ちが悪い。

 上履きに履き替えたあとは教室に向かう。その間、誰かとすれ違うことはない。遅刻してきたからではなくその逆で、早過ぎるのだ。

 自分でも珍しいと思う。いつもは遅刻ぎりぎりに登校するというのに、今日はやけに眠りが浅かった。

 ガラリと教室に入ると、朝早い日直二人が業務をしていた。業務といっても、黒板を綺麗にしたり、花の水を替える程度だ。


「あれ?」

「神崎さん? 何? 何かの前触れ?」

「……お・は・よ・う。別に。たまたまだしね」


 驚き過ぎなくらいに驚かれてる。そんなに早く来てるのが珍しいからって……確かに珍しいけど。

 私はとにかく苦笑いで挨拶を済ませた。二人も「おはよう」と言って業務に戻った。


 自分の椅子に腰をかける。テスト前なのだから勉強しないといけないのだが、そういう気分にはなれない。肘をついて窓の外を眺めた。外の景色は薄暗い印象を覚える。ザァと降り続ける雨は、今日一日は止みそうになかった。



「今回は来なくていい」


 昨日のことだ。

 豆腐ハンバーグでも特に気にせず食べていたギル。大人しくしているならそれが一番良い。たまっていた食器を洗っていた私にギルがそう言った。


「……え、何?」


 あまりにも突然で、何のことを言われたのか一瞬分からなくなる。けど、ギルの言葉で思い立つことが出来た。


「アッシュだっけか? あの執行者との戦いだ。わざわざ指定までしてきたし、魔界の住人が相手でもないんだ。お前を連れて行く必要性はねぇからな」


「……うん」


 言われればその通りだと思う。私が同行したところで意味はない。むしろ邪魔になる可能性すらある。それなら……。

 理屈ではそう考える。もともと囮役なんて嫌だったのだから好都合である。


「……ん?」


 カチャと食器を洗いながら考えていた。でも、ちょっと待ったと思った。


「……え、ギル? 戦うの?」

「は?」


 食べ終わりゆっくり過ごすギルは、ただただ驚いて聞き返す。


「いやだって……別に、戦わなくても。魔界の住人じゃないんだから襲ってくることもないし、それに戦う理由も……」

「あるんだよ。あそこまで挑発されて戦わねぇわけあるか」

「な、何言って……。執行者っていっても人間なんだし殺すなんて。てかそんなことでわざわざ戦わなくても」


 ぅ……。ギラリと睨まれる。

 そうなるとどうしても怯んでしまう。


「……だから紗希は置いてくんだよ。またいちいち邪魔されたら面倒だ」

「ちょっ……」


 それきりギルは席を立つ。待ってよと止めてもギルには無視されてしまった。


「……何よそれ」


 つまりは邪魔だからということだ。勝手なときは無理矢理にでも連れ出すくせに、今回は逆に来るなという。随分と勝手な物言いだ。


 そのあとギルは、両親が帰る頃にはもう家から姿を消していた。


「ちゃんと見張りはしてやる」


 そう言っていたから、外の近くにはいるのだろう。私だけギルの居所が不明確なのはあまり気分が良いものじゃない。けどテストが近いからそんなことも言ってられず、ご飯を食べてお風呂を出たあとは、眠くなるまで勉強することにした。


「やっぱり、勝手な奴……」


 昨日を思い返してみても、そうとしか考えられない。

いやでも、と頭をぎるのは、この方が良かったのだろうかということ。私は元々狙われたくない。それは当然だし、わざわざ戦いに巻き込まれたくもない。ならこの方が良かったのではないか。でも、何処か納得していない自分ががいるのも確かだった。


 一度考えると、頭から離れない。本当にこれでいいのか、結局分からなくなる。


「紗希。誰が勝手なの?」

「へ? ……はわっ!」


 呼び掛けられて我に返れば、目の前に優子がいて、またあまりにも近くて驚いてしまう。危うく後ろに転びそうになった。


「そんな人の顔見て驚かなくても」


 私の席の前に座っていた優子は、むぅと不満気だ。そうは言っても考え事してたし、いきなり目の前に来られたら驚くのも仕方がない。


「あはは……ごめん」

「で、誰が勝手なの?」


 独り言を聞かれてしまったらしく、優子は質問してくる。何も知らない優子は純粋に気になるだけのようで、他意はなさそうだ。と言っても、ギルのことだからおいそれとは話せない。


「何でもないよ」

「そう? 誰かに意地悪されてたら言ってね。私は紗希の味方だからね」

「うん。ありがと」


 意地悪なんてレベルの話じゃないけど、そう言ってもらえるのは本当に嬉しい。昨日は優子も本当は不安でしょうがなかったであろうことを垣間見たが、少なくとも今は元気そうには見えるから良かった。ただ、心の中ではどれほどの不安に駆られているのか見当がつきそうにない。


 首をぶんぶんと振って自分の考えを戒める。駄目だ駄目だ。昨日も優子に釘刺されたのに。何も説明出来ないなら、せめてもう大丈夫だと安心させてあげないといけない。私は昨日のことを思い出して、今はギルやリアちゃんのことを顔に出さないように努めた。

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