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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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1:不安Ⅳ

 久々に加奈の家に来てみて思ったことは、相変わらず大きい。漫画とかでよくある、実はお金持ちのお嬢様とまではいかないが、隣の家と比べでもそれがよく分かる。けっこう庭も広い。最初に来たときにはけっこう驚いてしまったくらいである。

 表札のとなりにあるインターホンを押して、加奈に到着したことを伝える。


「いらっしゃい。でも少し来るの遅かったんじゃない?」


 ガチャと玄関から現れた加奈の第一声だ。


「ちょっと支度に手間取っちゃったから」


 冗談混じりの指摘に対し、私も同じ調子で返して許してもらう。


「そうなの? ま、とりあえず上がって」


 長い髪を後ろで二本に括っていた加奈は珍しい。優子と同じように、私服ではもう衣替えに入っていて、動きやすい格好だ。黒い袖のないシャツに、ジーンズ。   ちょっと胸元が開き過ぎな気もするけど。


「ん?どしたの?」

「え?あ、いや……その」


 お邪魔しますと家に入りながら、思ってみたことを伝えてみる。すると、優子も加奈もきょとんとした表情になった。


「そう? これくらい普通じゃないかな」

「確かにその重ね着も可愛いけど、紗希もこういうの着たらいいのに」


 優子もこういう服持ってるのかな。勧めてくる加奈は付け足して、もっとアピールしたらいいのにと言う。


「な、何?」

「ん? 言っていいの? もちろんこれだけど」

「……ひゃっ、ちょっ……だめっ……」


 いきなり自分の胸を持ち上げられてしまう。びっくりして飛び退いた。両手でガードしながら恨めしく加奈を睨む。


「ご、ごめん。冗談よ冗談」

「う~~……」

「駄目だよ加奈。紗希は免疫ないのに」

「いや、その分かってるんだけど。紗希が可愛くてつい……」


 可愛いから人の胸を触っていいことはないはずだ。多分。


「よしよーし」


 しゃがみこむ私の頭を優子が撫でてくれる。


「べ、別にそんなことされても」


 あ、でも、最近はギルに頭を掴まれて痛い思いをしていたことが多くて、こういうことされるのは久々かもしれない。


(紗希、幸せそうな顔してる……)

(あぁもう、何この可愛い生き物は。優子、このままもらっていい?)

(駄目駄目。私だって我慢してるのに)


「?」



 そんなハプニング(?)も一段落してリビングに通される。私達以外には誰もいないらしい。別に加奈の部屋でも良かったのだが、せっかくなのでリビングにお邪魔した。こっちの方が広いし、冷房も訊いている。

 加奈が言うには、飲み物も二階にいるより手っ取り早いし、何よりゲーム類がリビングにはないから都合が良いそうだ。

 それを聞くと、優子はぷぅと頬を膨らませた。どうやら遊ぶ気もけっこうあったみたいなのが容易に想像できる。まぁ正直私も遊びたかったけど。


 フルーツジュースを氷が入ったグラスに注ぐ。ストローを加えてそれを三人分用意する。


「じゃあ何からやろうか」


 カーペットの上に腰を下ろして、テーブルに勉強道具を広げる。


「まずは課題。まだ全然終わってないんだよね」


 まだこれからなのだが、疲れたように溜め息を吐く優子。


「あ、私も」


 便乗して、私も課題を薦めたいと進言する。少しは手をつけてるけど、とても提出できるまでには程遠い出来だ。

 試験の時には出さないと怒られてしまい、当然成績にも影響する。いや……その前に、提出物を集める庵藤に馬鹿にされるんだろうな。

 想像してみると少し腹が立つ。


「私は終わったんだけど」

「あ、じゃあ課題楽勝だね」


 優子が写す気満々であることがひしひしと伝わる。加奈も察知したようで要求される前に釘を刺す。


「………見せないよ?」

「えぇ?」


 よっぽど意外だったのか、優子が抗議の声があげる。


「教えるならいいけどね。丸写しは駄目。そんなんじゃテストで書けないでしょ」


 それはそうだ。課題が完璧でも、試験でなくては意味がない。


「うー……」

「仕方ないけど頑張ろ」


 優子を励まして、課題に取りかかる。加奈は私と優子より先に、一人自主勉強だ。


「加奈~ここ教えて」

「はいはい」

「あ、それ私も」


 始めてみればけっこう分からない箇所が多く、加奈の出番が自然と増える。


「優子は授業出れなかったからまぁいいとして……」

「あはは……」


 じとっと見られてしまう。つまりは私が大丈夫なのかということらしい。笑い事じゃないが笑っておこう。


 不安を覚えつつも、とにかく課題を終わらせた。そのあとは(かなり加奈に助けてもらったおかげだが)、暗記ものを加奈が口頭で問題を出してもらって覚える。


「じゃ次、衆議院が法律案を可決したあと、参議院で異なった議決の場合、法律案を可決させるにはどうすればいい?」

「話し合い?」

「ぶぶー。んーまぁそれもすることにはなるけど、それだけじゃ通らないからね。紗希は?」


 正直分からないんだけど。現代社会は苦手だ。


「……えと……た、多数決……?」

「よしよし」

「え……?」


 答えたのに加奈は、正解も不正解も答えない。ただにっこり笑って頭を撫でられる。合ってたのかなと思う。


「正解は衆議院が出席議員の三分のニ以上の多数で再可決。一応協議会は任意だから、してもしなくてもいいの」


 えぇ? 私普通に間違ってるし。


「んーと次は……最高裁判所長官は内閣に指名されて天皇に任命されるんだけど、長官以外の裁判官は誰から何をされたらなれる?」

「え? 一緒じゃなかったっけ」

「ち~が~う。まぁ優子は授業出れてなかったしね」


 そう言いながら加奈は私に視線を送る。うう……。私は授業に出たはずだから、ちゃんと答えないと。


「な、内閣に任命されて、天皇に指名される」

「うんうん」


 またもやただ撫でられるだけだ。もしかしたら今度こそ合ってたのかな。


「正解は内閣に任命されて天皇に認証されるね。じゃあ次」

「ち、ちょっと待って加奈」

「何?」


 しれっとしている。


「あのね。間違ってる時はちゃんと間違ってるって言って。間違ってるのに撫でられるのって何か惨めになる」

「そう? じゃあ遠慮なくいこうかな」


 ……あれ? もしかして怒ってる?

 止めるように優子から言われたものの、時は既に遅かったようだ。学校の先生よりも恐ろしい加奈のスパルタ授業が開始されてしまったようである。

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