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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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1:不安Ⅲ

 一旦家に帰って準備した後、加奈の家に集合という段取りを組む。加奈はそのまま家にいればいいし、優子は私よりも家が近い。要は、私が一番急いで支度しないといけなかった。


「えっと、課題って何が出てたっけ?」


 今更課題の確認をしているあたり、我ながら呑気なものだと思ってしまう。とりあえず英語と数学と……あ、日本史と世界史と、古典もプリント出てたのか。むぅ、まずい。思ってたよりやることがいっぱいで、憂鬱になる。


「はぁ」


 帰ってきたときに家を見て回ったが、ギルもリアちゃんもいなかった。ギルは多分大丈夫だろう。相変わらず早いくらいに傷も癒えたようだ。ギルのことだから、強がってる気もするけど。

 ただどちらかといえば、病院での一件からリアちゃんのほうが気になる。


「……ごめん」


 目覚めたあと、リアちゃんは開口一番そう言った。酷く、落ち込んでいたのが分かる。何故と問う私に、護り切れなかったからだと謝られてしまった。

 そんなことはない。今もこうして無事なのは、リアちゃんのおかげでもあるのに。それを伝えても、リアちゃんは納得をすることはなかった。


 そうして、あれからあまり家にも来てくれなくて。


「……っと、いけない。早く行かないと」


 大丈夫だと自分に言い聞かせる。きっとまた来てくれると今は信じるしかなかった。、



§




「意外だな」

「……」


 リリアは頼みがあるという。その事実が既に意外ではあったが、また内容も同様だった。その内容とは、紗希を護ってほしいというものだ。恐らくは、自分の代わりに……。


「どういう心境の変化だ?」

「……別に」


 含みのある言い方だった。


「そうかよ。まぁそれを話そうが話すまいが俺にはそんな義理はねぇ。だから断る」

「……どうしても?」


 ある程度予測できた返答。だというのに、リリアはギルの言葉に苦い表情を浮かべる。僅かな可能性に賭けたというのに。リリアが、自身のプライドを殺して優先した結果は、実らなかったと言えた。


「たりめーだ。俺がそんな大層な理由で戦えるかよ。大体、そんなもん自分が出来ないから他人に任せるってだけの押し付けだ。誰が請け負うかよ」


 ギルは立ち去る。いや、正確には屋上から飛び降りてしまった。残されたリリアは、ぎゅぅっと握り拳を作る。


「……そんなこと」


 分かっている。それでも、リリアは押し付けだろうと何だろうと、紗希を護るためなら……。


―強くなりたい。


 そう願う少女の心の内には、今なお囁く声が聞こえていた。



「力が欲しくなったら帰って来い。

いつでも……好きなときに来ればいい」


「……」


 少女は揺らぐ。最終的にどちらに傾くのか、それは少女自身にもまだ分からない。

 

 あれから敵もない。強大な敵は止んでいた。だが、それも長くは続かない。それが崩れた時、本当に手に負えなくなった時、自分には何が出来るだろうか。

 答えはない。見つからない。訪れるとも分からない。或いは訪れても、分からないかもしれない。


 安息などない。

 敵がいない今も、少女は戦い続けていた。




§




 よくよく考えれば、加奈の家に行くのは久々だった気がする。一旦優子と合流して一緒に行くことになる。

 その合流地点に選んだのは、近くの公園だ。此処は前にも来たことがある。前にリアちゃんと逃げ込んだ場所であり、初めてクランツと会った場所でもある。ここで、執行者という存在を初めて知ったんだ。

 ふと、クランツの後任だというアッシュの言葉を思い出す。


「クランツなら本部に戻ったよ。片腕を失ったんだから、戦力も半減だ。だから代わりに僕が派遣されたんだよ」


 仕方ないのかもしれない。でも……。私はクランツの誘いを断り、ギルと戦って片腕を失ってしまったというのに、メリーの時には助けてもらった。

 急にいなくなってしまうと、心配とまではいかないかもしれないけど、気にはなってしまう。ベンチに座って

待ちながら考えていると、思わぬ珍客が現れた。


「ニャー」

「あ……」


 猫の鳴き声が聞こえて、リアちゃんかと思った。いや違う。確かに同じように黒い猫だが、首輪をしているし、うっすら模様みたいなものが入っている。何処からか逃げ出してきたのかもしれない。


「何処から来たの?」


 近付いて猫に尋ねるものの、答えは当然返ってこない。そればかりか、撫でようと手を伸ばすと、ひらりと避わされてしまう。そのまま、茂みの奥へと消えてしまった。


「あはは……」


 嫌われたみたいだ。まぁ外に出たことがなくて、あまり慣れてないのかもしれない。そう思うことにした。


「紗希、お待たせ」


 そうしているうちに優子が駆けてくる。暑くなってきた影響か、随分涼しい格好だった。

 半袖の白いTシャツを上に着ている。首まわりは大きく開けていて、そこから、中に水色のタンクトップを着ているのが分かる。下はかなり短いジーンズの半ズボンだ。肩からかけているバッグに必要な勉強道具を入れているのだろう。


「ん? 何してたの?」

「今ね。猫がいたんだけど、逃げられちゃった」

「え? ほんとに? 私も見たかったな」

「茂みに逃げられちゃったから、今はもういないんじゃないかな」

「そっか、残念。んじゃ行こっか」

「うん」


 私が今こうしてられるのも、優子と一緒にいられるのも、皆のおかげだ。そこには当然、リアちゃんも含まれている。


「……ごめん」


 リアちゃんが謝る姿を思い浮かべた。どれだけ頑張ったのか分かるくらいボロボロの姿で、今にも泣きそうな悲痛な表情だった。


 私がリアちゃんにどれだけ感謝しているか。きっとまだ分かってもらえてない。次に戻ってきたとき、もう一度感謝の言葉を伝えようと思った。


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