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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
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1:不安Ⅱ

「エルゴール以来、戦いらしい戦いはしてないみたいデスね」

「……詮索はいいんだよ。何しに来た?」

「世間話デスよ。まぁ単刀直入に言いましょうカ」


 スカルヘッドは柵に上半身の重心を預ける。今妙なことをする気はないという気概か、ギルにも所作が見える位置に移動した。もちろん手にもメスはない。


「この地に来て、何回使いましタ?」

「……覚えてねぇよ」


 何を、とは言わなかった。また何を、とは訊かなかった。互いに何を指しているかは明白であった。


 ―黒い炎。


 こちらの世界にはない。絶対的な破壊力を持つ、ギルの切り札である。


 だが、リスクも当然ある。


「……正確な数までは分かりまセンが、最近酷使しているだろうことは分かりますヨ」

「お前に言われなくても分かってんだよ。自分のことだからな」

「そうデスか。では、それを承知であえて言いますが、これ以上は危険デスよ」

「……」


 ギルは至って冷静だ。黒い炎を使えば使うほど、より大きな爆弾を抱えるだろうことは、既に分かっていた。それが、今更言われたところで反応に変化はない。


「今はまだ大丈夫でしょうが、いずれその炎に、貴方自身が喰われることになりマス」

「はっ、俺の心配するくらいなら、てめぇの爆弾の心配でもしてろ」

「……。私のほうは大丈夫デス。余裕もまだありマスし。けれど貴方には余裕がまるっきりナイ。これからも使わざるを得ないでしょう。紗希さんを狙った魔界の住人だけでなく、あの執行者も油断なりませんからネ」


 アッシュのことを指すスカルヘッド。その執行者に対する警戒心には、私情も絡んでいるように思えたギルだが、指摘することはなかった。


「用はそれだけか?」


 代わりに邪険にするギル。だがスカルヘッドも引くことはなかった。


「私には分かりませんネ。貴方が一人の人間に拘っている理由が……」


 何も紗希を見捨てろというわけじゃない。スカルヘッドも、ギルが紗希のそばにいることには賛成だった。元人間であるスカルヘッドにとって、紗希が殺されるのは忍びない。ただ純粋に気になった。ギルにどういう心境の変化があったのか。それが訊きたかった。


「別に。狙ってくる奴らを返り討ちしたほうが手っ取り早いだけだ」


 ギルは淀みなく答える。迷うはずがない。それしかないのだから。それ以外に何があるというのか。

 だが、スカルヘッドが感じたことは全く別のものだ。淀みなく、迷うことなくスッと答えを出したギルに、違和感は残ったままだ。それは本当なのか。それはまるで……。


「言い方が悪かったみたいデス。何故彼女なんデスか? 他にも魔界の住人と遭遇しつつも、たまたま生き永らえた人もいたのではないのデスか?」

「さぁな。たまたま紗希のときに思いついただけだろ」


 ギルは他人事のように返した。淀みがない返答だったのは先程と変わらない。スカルヘッドは「そうデスか」とだけ言って去った。納得出来たとは言えなかっただろう。

 とはいえ、スカルヘッド自身が過去を詮索されたくないように、ギルにだけ追求するのは無粋だと感じたからかもしれない。

 だが間違いなく、スカルヘッドには違和感が残っていた。


「狙ってくる奴らを返り討ちしたほうが手っ取り早いだけだ」


 その淀みのない返答はまるで……。


「自分にも言い聞かせているんじゃないデスか?」


 スカルヘッドが去ったあとも、ギルは変わらずそこに留まっていた。


「で? お前も何か用か?」


 そう呟くと、金髪を揺らすリリアが現れた。


「盗み聞きか?」

「何のこと? 今来たとこなんだけど」


 ギルにはそれが本当か否か判断が付かない。


「あの医者、まだいたんだ」


 ギルは何も返さない。独り言だとみなした。


「頼みがあるの」

「……は?」


 柵を乗り越え、ギルの横にトンッと着地したリリアが、膝を曲げてそんなことを言う。あまりにも意外なリリアの申し出にギルはつい聞き返していた。


「だから、頼みがある」

「……一応聞いてやる」


 いったい何のつもりか興味はあった。その内容はやはり、ギルの予想を裏切っていた。

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