表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
4章 闇との境界線
161/271

プロローグ

 気分が高揚していた。わざわざ辺境な地に向かわされ、当初面倒だと思っていたのも今はない。


「クランツに聞いた通り……いやぁ、全部が全部とまではいかないか」


 処刑人と対面したのは初めてだった。もともと数少ない処刑人と顔を合わすことは珍しい。処刑人だけあって、今まででも最高クラスの殺気だった。執行者の立場だというのに、いつこっちが殺されてもおかしくなかっただろう。

 そんな消極的に考える男は、執行者であるアッシュだった。街中に溶け込めるよう、一般人と変わらない格好だ。裏路地からメインストリートへ堂々と合流しようとしていた。


「……おい」


 その瀬戸際、アッシュにだけ聞こえるように囁く声があった。


「……。テスティモか。何か用かい?」


 踏み入れかけた足を戻して、アッシュは裏路地へと戻りながら答えた。


「何でオレを呼ばなかった?」

「ん~? 言ってる意味が分からないけど」

「テメェしらばっくれんなよ。こちとら待ってたっつーのによぉ。執行者のくせに何で手を出さなかったって聞いてんだよ」

「知ってるだろ。別に僕は、魔界の住人だからと言って殺したりなんかしないさ」


 テスティモはその物言いが可笑しく聞こえた。


「ギャハハハ、善人様みたいなこと言いやがって。違うだろうが。興味があるかどうかだろ。興味が出たなら様子見。そんな価値がないなら即殺し。生殺与奪って奴だな。神でもなったつもりか。堅っ苦しいクランツより、よっぽど悪だよテメェは」

「悪ってのはないんじゃないかい? そもそも悪なんてのは不確かなもんだよ。生きるものは皆、自分tp相容れないものを悪と定義づけるんだからね」


 アッシュは歩きながら問答した。まだテスティモの姿はない。大体の位置は分かるため問題はなかった。


「ほほぅ、それで悪ではないと言いたいアッシュさんは、どうする気なんだよ?」

「当然見極めるだけだよ」


 より奥へ進むアッシュの眼前には影がちらつく。一瞬テスティモかと思ったが、すぐに違うと認識した。魔界の住人だろう。何の焦りもなく、何の憂いもなく、さらには、歩を速めることもなくアッシュはゆっくりと近付いた。

 向こうもこっちに気付いたらしい。構わずさらに近付けば、その影は襲ってきた。


「おい……どうした?」


 異変を感じ取ったテスティモが問うた。


「敵だよ」


 楽に避わしたアッシュが日常会話のように返した。


「マジか。すぐに向かってやるぜ」


 テスティモにも焦りはない。待ってましたとばかりに、嬉しそうにしているのが声から分かる。

 アッシュは視線だけを僅かに動かし、横たわる人間を見る。その出血からもう生きてはいないことは容易に分かる。アッシュは冷静に、冷徹に判断する。狭い路地である此処では、動き回るには窮屈すぎる。二撃、三撃と攻防をしたのち、魔界の住人は壁を駆け上がる。


「おっと、逃がすわけないだろ」


 仮にも執行者だ。同じくして駆け上るくらいは訳はない。そして何より、アッシュは敵を追い詰めるこの瞬間が何より好きだった。


 意外に駆け上がるスピードは持ち合わせているらしく、なかなか速い。そんなに高いわけじゃないが、アッシュが最上階、つまり屋上に到達すると、その瞬間を狙って横に何かが一閃する。


「おっと……」


 仰け反ることで一閃をかわし、さらに重心がズレて落下しそうになると、備えつけられた柵に掴まることで難を逃れる。その体捌きは一朝一夕で身につくものではない。

 ようやく敵とのご対面である。

 人型のそれは、腕が六本あった。朱い目が八つ光り、まるで蜘蛛を連想させる。こちら側のモノではないことは明らかだった。


「何だ、オマエは?」


 いきなり襲ってきたわりに口が利けることは意外だった。


 「執行者だよ。あぁ、それと後ろ、気をつけたほうがいいね」


 アッシュは敵意を見せずに笑顔で答えた。


「……ナニ?……っ」

「ギャハハハ! 蜘蛛男か。期待外れだが我慢してやるよ。オレは選り好みしない主義だからよ」


 完全な不意打ちだった。背後からの一閃。蜘蛛男は抵抗もなく、振り向いたと同時に二つに分断された。


「な……んだと。オマエ……も……魔界の……」

「ギャハハハ! それがどうした。生憎そんなめんどくせぇ境界なんか考えたこともねぇよ」


 二つにされたからだは風化していく。テスティモはそれを自分と同じ種族の死に際とは思わない。ただ、仕留めた標的。勝ち星の証程度にしか感じていない。


「助かったよ。テスティモ」

「ケッ、だからオレを置いていくなって言ってんだろうが」


 魔界の住人と組む執行者。執行者と組む魔界の住人。

彼らは、どの視点からもイレギュラーな存在であった。


「オレはこんな奴より、処刑人と戦りたいんだよ」

「分かってるさ。不思議とね、僕も同じ気分だよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ