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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
1章 闇に蠢く住人たち
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2:定まった標的Ⅵ

 いつの間に発生したのか。空間を裂いた穴が生まれていた。バチバチと、火花にも似た閃光が穴から溢れていた。

 まるでブラックホールだ。空間の穴は、突然吸引を始める。ギルも、シロも。


 まだ完全に絶命はしていないだろうが、こんな瀕死の状態で能力を使っているのか。ギルの疑念に答える者はいない。とにかく、吸い込まれるわけにはいかない。


「ちっ…!」


 すぐさまギルは場を離れようと試みる。しかし、始まった吸引は全てを吸い込むかのように凄まじい威力だ。ギルはあっさりと取り込まれてしまった。ただ、全てを吸い込むかのような穴は、ギルと、シロのみを吸い込んだのだ。


 気が付くと、ギルは不思議な空間にいた。上も下も、周囲が灰色に渦巻く空間だ。暗く感じることはなかったが、どれだけの広さがあるのか、距離感は掴めなかった。

 何もない空間に思えたが、何のことはなかった。意外なことに、へたり込んでいる紗希がいたのだ


「紗希?」

「ギル!」


 紗希も、シルビアによって作られた穴に引き釣り込まれたと言う。紗希にとっても、気付けばこの空間に辿り着いていて、ギルを見付けたというわけだ。


「何だ生きてたのか。てっきり、もう殺されているかと思ってたがな」


 再会の第一声がそれか。紗希は本当に死ぬ思いをしたというのにと、ムッとする。だがそれを言ってもギルは意に介した様子はなかった。仕方なく、思ったままの疑問を口にする。


「……で、此処は何処なの?」


 周りには景色というものがない。広い場所ではあるけど、どこまで広がっているか目測をつけるものが何もない。ギル以上に、紗希には戸惑ってしまう場所に違いない。


「知らねーよ。あいつの能力だろ? で、此処の管理者はどこ行ったんだ?」


 逆に紗希は質問されてしまう。ギルとしては、さっきまでシルビアといたのは紗希の方だからだ。しかし、紗希に分かるはずもない。


「え、えと……分かんない」


 すると、ギルはわざとらしく大きな溜め息をついた。髪をかきあげながら言う。


「あぁ、使えねぇ。もっかい囮として連れて来い」


 そんな無茶な。囮なんて御免被りたいのに。紗希の抗議を、当然ギルは無視した。一向に動かず、地面(?)にへたり込んだままの紗希を見て、ギルは紗希の目線の高さに合わせる。


「行きたくねぇの?」


 コクコク。紗希は首を縦に振ることで答えた。目で殺気を放っているギルに対しての、紗希の精一杯の意思表示だった。


「どうしてもか?」


 コクコク。紗希の頬に冷や汗が垂れる。けど此処で引いちゃ駄目だと紗希は必死だった。


「グル……」


 その時、唸りとともに、シロが何処からともなく出てきた。紗希は不本意ながら、少しホッとしてしまう。


「ちっ……。やっぱ復活してやがったか」


 二つの頭を持ち、それぞれの首には繋ぎ目のような跡が見られる。多少見てくれは変わったが、紛れもなくシロである。そして、傍らではシルビアが浮いていた。


「私が作り出した世界の中なら、すぐにでも再生出来るの。……もう、終わりにしてあげる」

「……そうか。なら、こいつの相手はしなくていいな?」

「…!?」


 自信に満ちた表情で、ギルはシルビアを見据えた。何を言っているのか。一瞬、シルビアに疑問を抱かせる。だが、すぐにギルの真意ははっきりした。


「お前を殺せばいいんだからな」


 シロを無視してギルは翔ぶ。数十メートルは離れていたシルビアの目の前へ、ギルは瞬時に赴いた。そして、戸惑う素振りなど一片も見せない。少なくとも、外見は幼い少女の肉体を、右腕で貫いた。


「かはっ……」


 正確には、心臓を狙ったのだ。

 血が噴き出る。止まることなど知らず、有限とは思わせない程の量だった。


「お前……」


 血に染まる右腕を引き抜き、ギルは地に降り立つ。


「ふ……ふふ。あははははははははは……!!」


 少女は笑っていた。血だらけの体なのに、笑っている。異常な光景だった。少なくとも、紗希にはただならぬ雰囲気を感じさせた。


「あははは! 私は死なないの! 絶対に!」

「……そういうことか」


 ギルは一人で、何かを納得している様子だった。


「グルルゥ」

「……!?」


 廊下で紗希を取り囲んでいた獣の群れが、どこからか現れる。今はそれ以上の数だ。


「この数なら、あなたの身体能力だけじゃ、どうにもならないでしょ?」


 これで詰みだ。これで終いだ。シルビアは自信に溢れて問いを投げ掛ける。


 対して冷笑を浮かべ、ギルは返した。


「いいや。お前は三つ、勘違いしてる」


 ギルは三本の指を見せつけた。シルビアの顔は強張る。いかにも気に入らないと、聞き返した。


「……何を」


「まず一つ。お前は俺が身体能力だけだと思っていること。二つ。たとえ身体能力だけでも、俺にとってこいつら相手には十分だということ。そして三つ……いまだに俺に勝てると思っていることだ。ここまでくると、惨めなもんだな」


 ギルは淡々と述べる。数を指で示しながら。


「……黙れ」


 ギルの自信ある見解に圧されたのか、シルビアからは笑みが消えていた。必死の形相である。そして、シルビアの牽制する一言で、獣たちが一斉に襲いかかる。ただ、シロを除いてだ。


「やれるものなら、やってみろ!」


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