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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
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6:真意Ⅴ

 遠くじゃないところで叫び声が聞こえた。声からしてギルじゃないのは確かで、スカルさんのものでもないと思う。気にならないわけじゃないけれど、気を失っている優子とリアちゃんを残していくわけにもいかない。私はただ、ギルが無事に戻ることを祈った。

 それから、たいした時間も経たない内に、ギルと、そしてスカルさんが戻ってきた。


「紗希!」

「え……」


 何やら慌ててるような感じでギルの声が聞こえた。無事だった。そう思えたのが嬉しくなって振り向く。


「無事か?」


 そう言ってくれたギルは上半身裸の上に、何重も包帯を巻いていて、短い間に酷い傷を追ったのが分かる。


「私は。でもリアちゃんが。それにギルだって……」

「俺はこんぐらい何でもねぇよ。……スカルヘッド!」

「分かってますヨ」


 追い付いたスカルさんが、リアちゃんのもとへ駆け寄る。桔梗さんが手当てしてくれたけど、気を失ってしまったリアちゃんは心配だった。私には医療のことなんか、全く分からなかったから。


 本当に、私は何も出来ないんだなと思う。



 片膝をついてしばし止まったスカルさんが、ぼそっと口を開いた。


「……これは、いったい誰が……」

「桔梗さんが……、あの、看護士さんが……」

「……そう、ですカ。あの人が……。とても、手際が良い。優秀な方だったんですネ」

「それじゃあリアちゃんは……」

「このままでも大丈夫ですネ」

「……あ、はい」


 私はそれだけしか言えなかった。違うのに。言いたいことがあるはずなのに。




「どうかしたか?」


 そんな風に考えていたからか、ギルが気にかけていた。


「あ、エルゴール……は?」


 それだけ思い付いて尋ねる。


「……ちゃんと殺した。あいつがな」


 ギルは私がいつもと少し違うと感じたのか、訝しげな表情だった。それでも追求はなく質問に答えてくれる。ギルはその本人を親指で示した。

 スカルさんはギルと違って表情が読めず、何を思っているのか黒い空を見上げて座り込んでいた。

 ……あの時の、楽観的な態度はどうしたのか。


「おい?」


 ギルが気にかけるのも無視して、私はスカルさんのもとへ向かう。


「紗希さん? どうしましタ?」


 スカルさんが私に気付いて見上げる。妙に精巧な髑髏は、やっぱり気が引ける。でも、今の私にはそんなこと気にならないほどだった。


「……スカルさん。訊きたいことがあります」

「何ですカ? 何でも答えますヨ。好きなもの、嫌いなもの、好きなタイプからスリーサイズまで、何でも答えれますヨ。あ、でもやっぱりこの仮面の理由はちょっと答えられ……」

「真面目に聞いてください!」


 声を張った。スカルさんの態度に正直腹が立った。いきなり私が大声を上げたために、スカルさんは驚いていた。ギルも何事かと思ったことだろう。


「……分かりましタ。いったい何でショウ」


 スカルさんの態度が改まったのを確認して、私はようやく口にした。


「あの時、どうしてギルを追ったんですか?」


 どう言おうか迷ったはずだが、いざ口にしてみれば言葉足らずの質問になったと気付く。でも、スカルさんには伝わってくれたようだ。


「……私が向かったから、リリアさんでしたか。あの娘が瀕死になったと、そういうことデスカ。私を責めるのもどうかと思いますが、エルゴールを確実に仕留めるため、ですヨ」


 スカルさんは大した間も措かずに答える。


「それは、ギルが行ってくれて……」

「エルゴールはかなり狡猾でしタ。ギルさんだけでは逃がしてしまうかもしれナイ。念のために私も向かっタ。これでは納得できませんカ?」

「……でも……あの時リアちゃんと協力しようって言ったのに……」

「あれは暴走していた彼女の気を引くためですヨ」

「……っ。でも私、は……」


 違う。そうじゃなくて。違うのに。そんなの。でも、私にはこれ以上何も言えそうになくて、どうしようもなく、涙が邪魔をする。


「いいよ紗希」


 ふわりとギルが頭に手を置いた。それが余計に涙を誘う。言いたいことも言えない。自分の弱さがとても悔しい。


「うぁっ、っあ……」

「……泣かせるつもりはなかったのデスガ」

「だろうな。紗希はこういう奴なんだよ」

「……はぁ、そうですカ」


 スカルさんは呆れたように言う。


「紗希の言ってることも分かるけどな」

「それはどういうことデスか」

「大体俺が逃がすかもしれねぇと思ったってのが気に喰わねぇよ」

「……」

「本心は嘘なんだろ。自覚してねぇのかもしれねぇが本音は違う。追ってきたのは自分で復讐したかったから。自分で言ってただろうが、ようやくこの手で殺せるってよ」

「……! 聞いてたんデスか。あの状況で。ホント大した人デスね」

「……気が晴れたか?」

「……分かりませン。別に失った人が戻ってくるわけもナイ。出来ることなら、エルゴールがいない昔に戻りたいデスね」

「無理だな」

「……デスね。紗希さん」


「ぁ、はぃ……」


 少しは落ち着いた。涙は拭って少しだけ調子を取り戻す。


「すみません。本当は、あなたの言うとおりだっタ。私は、エルゴールへの復讐心を第一にしました。あなたとあの娘を無視して。医者であるのに、助けることより自分の欲を優先しましタ。本当に恥ずかしい」

「あ……いえ」


 まだ涙声のまま私は答えた。ただどうしてなのか言っておきたかっただけで、謝られてしまったらそれはそれで困ってしまう。


「まぁ、逃がすかもと思ったのも確かなんデスが……っイタイっ!」


 ポカリとギルがスカルさんを殴っていた。


「代わりと言っては何ですが、聞いてもらえますカ? 私の話」

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