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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
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6:真意Ⅱ

 ギルが仕掛けようとした頃、白衣が舞った。バサッと降り立ったのは、スカルヘッドであった。


「お前、何でここにいやがる」

「せっかく巡ってきたチャンスをものにするためですヨ」


 ギルは紗季たちを残してエルゴールのあとを追った。それは、リリアとスカルヘッドなら問題ないと判断したのが理由に含まれる。なら、スカルヘッドがここにいるということは……。


「じゃあもう殺したのか?」

「まさか。処刑人じゃあるまいし、そこまで短時間には出来ませんヨ」


 スカルヘッドは悠々と答える。放ってきたのだと悪ぶれた様子もなく口にした。


「……お前」


 その態度が勘に触ったギルは僅かに矛を向ける。だが、スカルヘッドは意に介さず、さらに口にした。


「珍しいじゃないですカ。貴方がそこまで、誰かを気にするなんて」

「別にそういうわけじゃねぇよ!」

「余裕だな」

「……っ!?」


 スカルヘッドに意識を向けた隙を狙い、カゲツはギルを串刺しにした。腰を回転させ避けようとするものの間に合わない。


「……が、ぁっ!?」

「一撃で終わると思うな」


 ギルを貫いたまま、カゲツは突進を止めない。その剣には刃がないため、ギルが両の腕で抑え込むが、勢いは死ななかった。


「………がはっ!」


 病棟に叩きつけられたギルには逃げ場がない。カゲツは突きに特化した剣を二本所持している。空いたもう一本の剣がギルの心臓を狙っていた。


「さらばだ処刑人。どうやら百年も早かったのは貴様のようだ。あぁ。百年というのは、言葉のあやだったな」

「……あぁ?」


 血飛沫が上がる。卓越した突きを、掌で楯としたために傷を負ってしまった。


「見誤んなよ。つくりもんのてめぇが、俺に勝てるわけねーだろ」


 そう言ってギルは剣を破壊した。右の掌を貫く剣を握り潰して叩き折った。表情が読めずとも、カゲツの心象は暗くなる。この密着した状態で目の前の的は、腹を貫かれていても、殺気は少しも衰えがない。むしろ、より鋭く研がれている。


「……貴様っ」


 力は全く抜いていない。力の緩みは精神の緩み。にもかかわらず、ギルは腹を貫いていた剣も同様に、叩き落としていた。


「残念だったな傑作品。今のでお前は、千載一遇のチャンスを逃した」

「……」


 せっかく借りた服は、ボロボロになってしまう。ギルは紅く染まり、もう服とは呼べない布切れを上だけ脱ぎ捨てた。


「どうやら手伝いはいらなそうですネ」

「誰に言ってんだ。だいたい、最初から手伝う気なんかねぇだろお前は」


 スカルヘッドがここぞとばかりに口を挟むと、ギルが忌々しげに睨む。いや、今度は隙を生じえないよう、正確には殺気をスカルヘッドにも叩きつけた。

 が、スカルヘッドには暖簾に腕押しといったところか。意に介した様子はなく、緊迫感のない楽観的な口調で返した。


「その通りデス。いくらギルさんでもこれだけは譲れナイ。なぁそうだろう。エルゴール……」


 真っ直ぐに、スカルヘッドは見据えた。髑髏の仮面の奥から、怒りに満ちた眼で、奴を視界に留めた。ようやくだと言わんばかりに、その手にはもう、何本ものメスが握られていた。


「……ふん。まさか、お前にまた会うとは思わなかった。もしかして、この俺を捜していたのかな?」


 スカルヘッドの眼には、エルゴールしか映っていない。他の一切の事象を無視するかのように、スカルヘッドはエルゴールだけを見据えて動かない。


「ああそうダ。どれだけ探したことカ。これまでずっと、吐きそうになりながら、お前を探していタ……」

「クハはハハははハハハハハ、ははハハハハハハハハハハハ!?」


 スカルヘッドの言葉を耳にした途端、エルゴールが吹き出して嘲笑した。


「ぐははっ。面白い冗談だ。俺の耳が確かなら、君がそんな冗談を言える男とは思っていなかったよ。スカルヘッド君。まさかとは思うが、復讐のつもりか?」

「それ以外になにがあル」

「何故だ? 君は俺のおかげでその能力を手に入れた。感謝こそすれ、恨まれる筋合いなど……」


 エルゴールはそこまでで言葉を切った。自分の顔のすぐ横を何かが通り過ぎ、熱を感じたからだ。


「耳を疑うのはこっちのほうダ。何をしようとしているかと思えば、あの頃から何も変わっていなイ。お前はもう喋ってくれルナヨ」

「俺を殺すと言うのか。君は……医者だろう?」


 エルゴールはくすぐる。スカルヘッドは医者であることに誇りを持っていることを知っていた。なのに、他人を助けることを善しとするはずなのに殺すのかと突いたのである。スカルヘッドは、大した間も於かずに答えた。


「そうダ。……私は医者だ。誰かを救ウ。だからこそ、誰かを傷付けるその根源は私が絶やさねばならなイ」


 意志は堅く、エルゴールを見逃す選択があるわけもない。そして、今までずっと、この手で殺すために徘徊してきた。


「ちぃっ……やはり貴様も失敗だ」


 エルゴールはようやく悟る。スカルヘッドを懐柔することは不可能だと。こいつも同じだ。処刑人と同じく、始末に負えない、ただの障害だ。


「カゲツ! いつまで遊んでいる! 早く、こいつも始末しろ!」

「はっ!」

「おっと、行かせると思うか? 今の相手はまだ俺だろうが」


 ここぞとばかりにギルは割り込んだ。


「主が危険なのだ。無理にでも通させてもらう」


 破壊した剣が形を失い、カゲツの元に吸い込まれていった。そうしたあと、カゲツ全体が形を崩し歪んだ。またもや何かしらに形を変えるのだろう。


「ぐ……ぅっ」

「で? そんな隙だらけで、わざわざ俺が待つとでも思ったのか?」


 ケンタウロスに近しい姿を残している段階で、ギルはあっさりとカゲツの心臓を打ち抜いた。


「これで、誰も護ってくれる奴はいなくなったナ。エルゴール」

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