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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
148/271

5:名前Ⅶ

 視認するのも難しいスピードで彼女が距離を詰める。対してリリアがさらに縮めた。加減を忘れている攻撃なら、リリアは受け止められない。守りを固めず、攻め込むことをリリアは選んだようだ。いくらタガが外れ、攻撃、スピードが増幅したとはいえ、スピードにおいてはリリアに分がある。催眠に陥ったときとは比べるまでもない。

 ただそれでも、差を見せつけたのは彼女のほうだった。


「っく……」


 それはリーチの差だった。ただ単に腕や、脚の長さによるものだったなら対処は出来た。それくらいの能力はリリアは有している。それが出来なかったほどの予想外の出来事。リリアの横腹をかすめたのは髪だった。

 彼女の肩より長い髪がさらに伸び、硬質化して槍のように牙を向いた。誰がこんな攻撃を予想出来るものか。


「リアちゃん!」

「大丈夫。かすっただけ」

「あぁぁあ!」


 怯むリリアを見て、我を忘れた彼女はさらにたたみかける。


「あんまり調子に乗るな」


 髪を操る能力がある。種が分かれば対処出来る。リリアは先程と同じく伸びた刃のように鋭い髪をあっさりと避わして間合いに入る。


「痛い目に遭うのは覚悟して」


 即座にリリアは手のひらを向けた。彼女の腹部に密着させ、これ以上ない近距離を作る。


「っぐ……あぁぁあ!」


 リリアは風掌壁を打ち込んだ。元々相手との間合いを保つために使うが、近距離であればあるほど威力は高まる。

 紗希や優子を守りながら戦うには、いささか場所は狭い。リリアの数少ない対抗手段である。


「今の彼女には効いていませんネ」

「え? そんな……」


 スカルヘッドが冷静に判断した。荒れ狂うように吹き飛ぶ結果を目にした紗希には驚くべき内容だった。


「アァアァァア!」


 だが、スカルヘッドの判断は正しい。さらに付け加えるならば、彼女は理性をなくしただけでなく、痛覚を失っていた。だから、今腕から血を流すほどの傷は理解出来ていなかった。


「仕方ナイ。右から攻めてもらえませんカ? 私は左から行きますカラ」


 と、スカルヘッドが提案する。


「なっ……」


 リリアは協力して抑えるという、スカルヘッドの言葉に反応する。まさかスカルヘッドからそんな言葉が出るとは意外だという感じである。

 それ以上にスカルヘッドと組むのは躊躇いがあった。リリアはギルのようにスカルヘッドと直接会ったことはない。ないが、実際会ってみて思ったのはやはり、胡散臭いという信頼からは程遠いものだ。


「手っ取り早く済ませるにはこれが一番ですヨ」


 確かにそれが一番有効であることは間違いない。紗希を危険から守るにはそれが最適のはずだ。

 リリアが敵の手に落ちる前、自分しかいなかったとはいえ、一人でいけると多少思ったことは事実だった。


「……分かった」


 敵を倒すのはあくまでも手段ある。目的は、紗希を護ること。リリアは本質を悟り、渋々だが承諾する。


「それじゃあ行きますヨ」


 二人が動けば髪を操る彼女もまた対応する。もしかすれば髪は無限なのか、さらに伸びた髪が二人を正確に狙う。

 くるくると巻きついた髪は鋭い槍だ。先にリリアが仕掛ける。仕掛けると言っても攻撃をするわけじゃない。攻撃しないつもりだが、接近する相手をほっとくわけにもいかず、彼女はリリアを攻撃するしかない。

 本能のみで戦う今の彼女にはなおさらそうするしかない。リリアはただ避けることだけに集中した。余計なことを考えなければさらに容易い。そのあとにスカルヘッドが接近する。絶妙なタイミングでちょうど、彼女はリリアとスカルヘッドを同時に注視しなくてはいけない。 スカルヘッドに向けて髪が襲うが、そこでようやくリリアが動く。手前で風を使い、髪を弾いてスカルヘッドの道を作った。もちろん自分への髪による攻撃も対処している。一瞬だが、敵は完全に無防備になる。他の髪を用いる頃には、スカルヘッドがもう攻撃に移れる。

 リリアが手前にいるとはいえ、直接迫り来る攻撃を多くいなす必要がある分、スカルヘッドのほうが早い。


「あぁぁあ!」


 彼女もまずいと感じただろう。だが、おかしい。何故スカルヘッドは戦闘にいつも使役していたメスをその手に収めていないのか。

 リリアがその違和感を気付いたときには、スカルヘッドは飛び上がっていた。


「……!?」


 飛び上がる必要は何処にもない。空中から仕留めるつもりなのか。その可能性もなくはないが、著しく可能性としては低く、事実そうではなかった。その跳躍はあまりに高く、リリアも髪を張り巡らす彼女も飛び越えた。


「カカカカ。ありがとうございまス。それじゃあ、あとはお願いしますヨ」


 そして悠々と着地すると、そんなことを言って立ち去っていく。


「……え?」


 紗希さえも呆気に取られる。スカルヘッドが唐突に消えたことに全員が戸惑った。そして誰より早く感情が動いたリリアは、この上なく怒りが込み上がっていた。それを具現化するかのように、リリアを中心に強風が吹く。


「……あの医者。やっぱり気にくわない」


 口にした言葉はまだ冷静かもしれないが、実際にはかなりキテいた。


「……リ、リアちゃん?」


 おそるおそる尋ねる紗希にも分かるほど怒りを露わにしている。


「紗希」

「は、はい」

「三分くらい待ってて」

「あの……リアちゃん?」

「あぁぁああぁあ!」


 口裂けの彼女も、消え去ったスカルヘッドよりも、残っているリリアや紗希、そして優子を狙うことにしたらしい。


「すぐに終わらせるから」

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