表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
1章 闇に蠢く住人たち
14/271

2:定まった標的Ⅳ

 少女の左に位置する空間に、穴みたいなのが出来ていた。バチバチと音を立てて、激しく発光していた。中から大きな足が見えたかと思うと、白い獣が一匹、姿を現した。

 降り立った衝撃が、よりその大きさと重さを物語っていた。ただの獣ではないことを示すのは、大きさだけではなかった。涎を垂らしながら、ガパっと口を開いて見せるが、目はなく、尾は複数あることに驚く。


「ハァ、ハァァ、グルゥゥ……」


 開いた口から見える牙は、何でも噛み砕けるように太く、また鋭かった。


「な、何だよ! こいつは!?」


 驚愕、また恐怖に満ちた表情で叫んだのは、山村君だった。私も同じような表情をしていただろう。

 白い少女は、山村君を細い横目で見て言う。冷酷な、鋭い目線だった。


「貴方、さっきから何? 邪魔」


 白い獣が少女を見上げた。目はないものの、そんな動きだ。少女もそれに気付き、にこやかに笑って言った。


「もちろん、いいに決まってるじゃない。好きなだけ……食べていいよ」

「待っ……!?」


 まさか……。制止しようと私が叫んだ時、既に白い獣は大きく飛び上がっていた。


「う、うあああぁぁぁああぁ!?」


 白い獣は覆い被さった。いとも容易く、いとも簡単に。


 グシャ……グチャ……!

 …ブシュウ……!

 グチャア……クチャ……グチャ……!

 ……ズズ……!


 反射的に両手で耳を塞いだ。目を瞑った。聞きたくなかった。見たくなかった。それでも、嫌な音が響き渡る。

 叫び声。臓器がかき出される音。血が吹き出す音。骨までもが噛み砕かれる音。

 教室には紅い血が飛び散る。普通じゃない。尋常じゃない量の血が、一面に広がった。

 

 私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私の…せいだ。


 自分が、この少女を呼び寄せた。自分がいなければ、山村君は死ななかった。恐怖と共に、負の衝動に私は襲われた。


「グルゥゥ……。ハァ……。ハァァァ……」


 振り向いた白い獣は、混じり気のない白色ではなくなっていた。体は返り血で、紅い血が染みこんでいる。特に口元は、鮮血で、黒にも見える程に。


「おいしかった?」


 この異常な状況下にも関わらず、少女は笑みを忘れない。ゆっくりと少女も降り立ち、頭を下げた獣の頭を撫でていた。


「ハァァァ……」

「そっか~。でも今度はもっと美味だと思うんだけど、どうかな?」


 少女も、獣も標的を見定める。次は、私の番だった。



「よぉ」


 前触れもなく現れた。少女や獣よりさらに後ろ、いくつもある机の一つにもたれかかっているのは、ギルだった。密室の筈だったのに。


「いったい何処から!?」


 振り撒いていた笑みを引っ込めて、少女は振り向いて問う。よっぽど驚いたのか、声が荒くなった。


「教える義理はないだろ。今からお前ら、死ぬんだからな」

「……!?」


 少女もついには身構える。獣も同様だ。


「何だ紗希。泣いてんのか?」

「な、泣いて……なんか……」


 明らかに嘘だった。涙を拭いながら何とか虚勢を張る。


「……だって、私のせいで、人が……死んじゃったんだよ……?」


 ぽんっと、誰かが私の頭に手をおいた。ギルだった。一瞬で移動したらしい。


「いちいち気にすんな。お前のせいじゃねぇよ。俺がこいつら殺して、それで終いだ」

「……ふん。舐められたものね。返り討ちにしてあげる」

「何回も聞いたがな。その台詞。吐いた奴は全員死んだぜ」


「ちょっ、ギル……。でも、あんな小さい子なのに……」


 ガシッ―


「ひぅっ……」


 ギルに頭を掴まれた。何事かと心底驚く。


「馬鹿かお前は。あいつはなぁ。外見、精神年齢はガキだが、実質年齢はお前よりずっと上なんだよ。つーか俺より上だ。わかったか」


「い、いたたたた……!?」


 キリキリと頭を締め付けられてしまう。もしかしなくても、怒ってるのか。必死に抵抗するけど、私の力では全く対抗出来なかった。ようやく解放されると、ギルは得意気に言い放つ。


「そうだろ? シルビア・ヴァネス……だっけか? お前」


「あれ、私のこと知ってたの。それなのに私と戦うつもりなんだ。生意気。シロに敵うわけないのに。シロ! 先にあいつを殺っちゃって」

「グオオォォオ!!」

「ちっ……」


 ドンッ!―

 ギルに押されて、私は倒れ込む。

 豪快な音とともに、教室のドアや窓のついた壁は吹き飛んだ。廊下ではギルは仰向けに倒れこみ、その上からシロが覆い被さっている。両腕で妨げているが、今にもその大きな口に喰われそうだった。


「ギル!」


 破られた大きな穴から私は叫んだ。


「お前は逃げろ」

「で、でも……」

「邪魔なんだよ。先にお前から殺すぞ」

「わ、分かった……」


 私はすぐさま廊下に出て、懸命に走った。


「シロ。そいつ殺しといて。私はあの娘を殺すから」

「あ、てめっ!?」

「さようなら。死ぬは貴方たちの方みたいね」


 そう言って、シルビアが私を追ってきた。だけど、シルビアは私のように走ってはいない。宙に浮いたまま追い掛けていた。それでも、追い付くには十分過ぎる程のスピードがあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ