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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
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4:脚Ⅶ

 ギルの伸ばした右腕が、床を貫いてえぐる。もしそれが肉体だったなら、並の敵はそれだけでも機能を停止させられる。だが当たらなければ意味がないのは必然だ。 テケテケは脚のない状態で、移動には腕で這うしかない。が、その移動速度が異常だった。少なくとも人間よりは速い。

 人間ではないギルからすれば捉えられる速度だとは思うが、テケテケのトリッキーな動きは予想を上回る動きだった。


「キャキャ……」


 それに加え、テケテケの腕力は異常だ。脚がない分を腕が代替する。旋回するギルの脚を軽々と受け止める。テケテケは腕に一層力を込め、ギルの脚を引き千切ろうとした。


「あああぁ!」

「……っ……」


 危険をいち早く察知したギルは、受け止められた右足に続くように、左足で蹴りを入れた。

 最初の右足での蹴りが、踵を向けたものだっため、そのまま旋回して左足を使えたと言える。引き千切られるのだけは回避出来たが、その際、ほとんど無理矢理右足をテケテケの手中から引いたため、足首が少し裂ける結果となった。


「そう容易く獲れるわけねぇだろ」

「……」


 ギルの重い蹴りが入って数メートルは飛んだテケテケだが、大したダメージはなかった。腕だけで再び地に着き、ニヤァと口元をつり上げて笑みを見せる。


「……!?」

「また消えた?」


 紗希の言葉通り、テケテケは姿を消した。床に沈んでいったようにも映る。


「スカルヘッド!」

「分かってますヨ」


 ギルがスカルヘッドを呼ぶ。それは、まだこの辺りに潜んでいることを察知したからだ。警戒しろと。紗希とその友人を狙って出てきた場合は対処しろとの合図に他ならない。


「……」


 緊張が続く。近くにいると予測出来るが、何処から出てくるのか分からない。ギルもスカルヘッドも、周囲に気を配る必要があった。もしかしたらこの膠着時間は長くなるだろうかと紗希が思った頃、テケテケがついに動いた。


「は、狙いが単調だな」


 出てきたのはギルの足元。あくまでも脚を奪おうと躍起になっているのかもしれない。ギルも、懸念程度に予測出来ていたようだ。

 測ったタイミングで跳び、悠々とテケテケの腕を避ける。回避のために、そしてすぐに攻撃に転じれるように、軽く跳躍したギルは後退した位置に着地して、姿を見せたテケテケに向かった。


「キャキャキャキャキャキャ!」


 だがすぐにテケテケは姿を消してみせる。ブンッとギルの振る腕は空を切るだけに終わる。再び同じ状況となる。仕切り直しだ。


「……!?」

「……え?」


 今度は時間をかけず、さらには紗希の足元から現れる。


「やっ…!」


 突然過ぎる。さっき時間をかけたことにより、紗希は少なからず先入観を持っていた。

 いや、たとえ先入観なく警戒したとしても人間の反応速度で対応出来るわけがない。


「キャキャキャキャキャキャ」


 テケテケが狙いをつけたのは正確には紗希じゃない。足首に印をつけられた優子だ。それを紗希が反射的に庇おうと動いた。


「ぐっ……!」


 そしてさらにスカルヘッドが動く。危険が迫る紗希を突き飛ばそうと伸ばした腕に、テケテケの手腕が襲った。


「キャキャキャキャキャキャ!?」

「嗚呼あぁあぁァ!」

「スカルさん!」


 テケテケがまるで歓喜に震えるように叫ぶ。スカルヘッドが痛みに吠える。スカルヘッドの腕はテケテケに潰され、引き千切られた。


「スカルさん! 腕が!」


 紗希はその顔を真っ青にさせる。大量に広がる血に反応した以上に、責を感じていた。溢れ出る血を何とか止めようとするが、思うように止められない。


「っ……うっ……」


 一瞬、両手が余すところなく染まる血に脅えたものの、必死に留めようとする。だが混乱しているのか、手で抑えて躍起になっているだけに過ぎない。


「ぐうぅ…ぅぅぅ…」


 痛みに震えるスカルヘッドは、ただ耐えるだけだった。スカルヘッドの腕はまだ、テケテケが所持している。それをギルが奪い獲った。

「それは脚じゃなくて腕だろうが。返しやがれ」

「……キキ」


 テケテケはたいした抵抗も出来ず、すぐに腕はギルの手中に収まる。ギルはそれをスカルヘッドに放り投げた。


「……感謝しますヨ」

「いいから早く治せ」

「紗希さんも。もう大丈夫デスヨ」

「え……?」


 空を舞う自身の腕を掴み取り、スカルヘッドは息を切らせながら紗希に優しく呼びかける。


「こいつなら切り離された腕を繋げることくらい造作もねぇよ」


 そう助言するギルに気を取られているうちに、スカルヘッドはもう腕を繋げていた。

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