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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
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4:脚Ⅱ

 扉の前には、優子の名前が書かれている札がある。私は取っ手に手を伸ばし、勢いよく扉を開けた。ガラリと横にスライドして、部屋の全体がすぐに見渡せる。部屋の中は暗いままだったが、廊下の明かりが入り込み、ある程度確認できる。


「キャキャキャキャキャキャキャキャキャ……!?」

「……!?」

「ちっ!」


 あまりにも当然だった。前に出た私に向かって何かが飛んだ。それを防ぐため、さらにギルが前に出て旋回するように蹴り上げて弾く。


「ケキャキャ……」


 奇声をあげるソレは、弾かれたあと両手両足で着地したようだ。部屋を照らすのは廊下の明かりのみ。ソレがいったい何なのか判断がうまくつかない。

 二つの目が一瞬光った気がしたかと思うと、すぐにソレは消えた。どうやって消えたのかはもちろん分からない。


「完全に消えやがった」


 パチっとギルが部屋の電気も点けるが、その痕跡は全くない。ギルから見ても、やはり消えたらしい。


「優子……」


 それより私はいち早くベッドに近付く。今いたのは、十中八九魔界の住人だと思う。私でも分かるくらいそれは明白で、優子の無事を確認する必要があった。


「い、いやっ……!?」

「……優子……?」


 布団を頭から被り、身を小さくしていた。後ろ手に私の手を払いのけた。


「やだ……来ないで……」


 まるで小さな子供のように、優子は身を小さくする。かたかたと震えていて、私を見てもなお、明らかに怖がっていた。


「優子。私。もう大丈夫だから」

「……ぇ、ぁ……」


 安心させるように抱きすくめると、やっと落ち着いたのか、ゆっくりと顔を上げた。


「……紗、希……?」

「うん。そうだよ」

「いま、今……何かいて。前にも、目の前にいた。夢だと思ってた。けど……けど……」


 よほど怖かったらしく、涙を流しながら私を強く抱き締めていた。良かったと安堵すると同時に、優子も狙われているのかと不安になる。

 その時、バッとギルがベッドの掛け布団を退ける。その行為に何をする気なのかと驚いたが、ギルから発せられた言葉にさらに私は驚かされた。


「……お前、掴まれたな」

「……え?」


 布団がなくなったことで見えるようになった優子の足首。それを見て愕然となった。

 真っ赤な跡だ。人の手が掴んでいたと、はっきりとした跡が。それが、いくつも重なるように存在していた。


「……な、何……これ……」


 優子は知らないらしく、その鮮やかともとれる赤い手の跡を擦る。気持ち悪くて、消そうと躍起になっているが一向に消える様子はない。


「そんなんじゃ消えねぇよ。恐らく今の奴だ。次の標的に決め込んだ証だろうよ」

「……何、言ってんの? ていうか、あんた誰!?」


 当然だけど、心に余裕がない優子は噛みつくように吠えた。ギルの血を浴びた姿は確かに敵と見ても仕方ないと思える。


「優子。大丈夫。ギルは怖くないから」

「紗希……。そんな、そんなの……。これ……どういうこと……?」


 今の優子は本当に弱々しく見えた。脅えてることが明白だ。何とかその事実をを心の奥底に押し込んで、相手に知られまいとする子犬のようだ。


「実は……」


 私がそう口にした途端、今度はガシャアン……とガラスが割れる音がした。


「ちっ。次から次へと。紗希、行くぞ」

「え……」


 何かあったのは確かだ。まだ他に人がいて、その人たちに危険があったのかもしれないし、リアちゃんやスカルヘッドさんに何かあったかもしれない。

 なら今すぐ行かなきゃいけない。けど、優子を放っておくわけにもいかない。


「優子も来て。後で説明するから」

「え……。そんな……」


 何の説明もなく、私以上に急な展開についていけないのも、困惑するのも分かる。

 けど今は優子に合わせてる暇がない。私は強く優子の手を引いて駆けた。


「紗希、ねぇ……。今すぐ説明してよ」


 私にとってはけっこうな速度で走っていて、息も切れぎれなのだけど、話をする余裕がある優子ははやはり陸上部だと言えた。


「ごめん。今はそれどころじゃないから……」

「……」


 わけが分からないのだと思うが、私がかたくなに拒否したからか。雰囲気を読んだのか。一応納得はしてくれたらしい。


 ギルが先導してゆく。わりと近く今の音は聞こえた。そう遠くないと予想したが、結果その通りだった。

 今いたのが西の三階。音の発祥は東と西を繋ぐ、三階の渡り廊下だ。


「おや、ギルさん。遅かったですネ……」


 そう言って目の前にいたのは、スカルヘッドさんだ。割れた窓を背にしていて、ボロボロの状態でいる。

 対峙して戦っているのは、さっき優子の病室にいたヤツだと思う。長い髪をした得体の知れない奴が、床に這いつくばるようにしていた。

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