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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
133/271

4:脚

「今の、どういうこと?」


 酷い血の臭いが鼻を刺激する。気分を悪くさせるこの臭いは嫌いだ。けど、今はそうも言ってられない。


「何がだ?」


 紅い血にまみれたギルが半身だけ振り向いた状態で訊き返してきた。


「今の人、自分は人間だって言ってた。なのに……」

「……殺したんだ、か?」


 私が言うより早く、ギルはその意図を察知して先に口にした。けれど、その表情は変わらず冷静そのもので、後悔はやはり見られない。過失だったとも思えなかった。


「確かに今の奴は、元は人間だった。だが今は違った。それだけだ」


 実に簡単に言いのける。


「……それって」

「魔界の奴らの中には、人間を喰うより、手駒として使う奴らもいる。メリーみたいにな。だが、ただの人間じゃ勝手が悪いんだ。数を増やしでもしないと使えない。だから肉体を改造するなり、何かを埋め込むなりして魔界の連中に近くするんだよ」

「………じ、じゃあ今の人も?」

「当たり前だろうが。心臓抜かれて生きている人間がいるわけねぇだろ」


 それはそうだ。確かに容貌だけでも、人間とは似て非なるものだった。あんなに変えられてしまうなんて。

ただ殺されるだけじゃない。魔界の住人に対して改めて恐怖が募った。と同時に、ある予測が発生した。


「なら、もしかして此処の病院の人も皆……」


 人間が魔界の住人と同じように変えられてしまう。なら、今此処にいる人達も。


「いや、その点は問題ねぇよ。何も全員変えられるわけじゃない。大抵の奴は肉体が耐えられなくてそのまま死んでしまう筈だ。それに何室か確認しただろ」


 看護士の見回りを避難するために、何回か病室にもお邪魔した。確かに皆すやすやと寝入っていたようだった。


「だがあと何人かはいるかもしんねぇから気を付けろ」

「う、うん」


 少し、ギルを疑ってしまった自分が恥ずかしくなった。ギルは、理由もなく人間を襲ったりしない。他の魔界の住人とは違う。もちろんリアちゃんもだ。疑うなんてどうかしてる。そんな迷い事は頭から追い出した。それより、早く何とかして人間が大勢死んでしまうという策略を止めないといけない。そう、頭を切り換えるようとした時だ。


 人間は魔界の住人のように変えられる。


 此処にいる人も、何人かは変えられているかもしれない。


 此処にいる人。病院にいる人は……。入院している人……。



「あ、ぁ……」

「おいどうした?」

「優子……。友達が……入院してて……」


 優子は無事?

 それとも……?

 口に出すことなんてとても出来ない。でもどうしても考えてしまう。僅かでも頭によぎってしまえば、拭うことは不可能になる。最初に無事かどうかを確認するべきだった。


「……。何処だ?」

「え……?」

「病室は何処だって訊いてんだ」

「……こ、こっちのはず……」


 理由は分からないが、電気が点いたことで大体の道が分かる。上の方に備えてある案内表示がいつも以上に有り難い。自分はまだ東館の一階にいるから随分と遠かった。優子の病室は、西館の三階だ。

 足が震える。怖いせいだろうけど、止まっていられなかった。ギルがすぐ隣まで速度を合わせている。前方の危険を感知してくれているのだと思う。渡り廊下を一気に駆け抜ける。障害のものは何もない。早くに西側の建物に到達する。エレベーターも使えるようだが、待っている心の余裕はない。階段へと足を伸ばす。

「紗希、掴まってろ」

「……え? なんっ……」


 フワリッと足への重みが突然なくなって私は慌てる羽目になる。気付いたときには、ギルに抱き上げられていて、ギルの人間離れした跳躍力で一気に上へと目指していた。


「……ちょ、ちょっと、もういいから……」

「暴れんな。こっちの方が速いんだよ」

「う……」


 三階にまでわずか三秒くらいで登ったあとも、ギルは私を下ろそうとしない。いつの間にか、お嬢様だっこみたいになっている。こんなときとはいえ恥ずかしいのだけど、こっちの方が迅速なのは確かで、それを言われてしまえば、私は何も言えなくなってしまう。


「止まって」


 優子の病室が見えてきたところで私はギルにお願いする。ギルは、私がギリギリ視認出来るくらいのスピードにもかかわらず、衝撃もなく制止を成功させた。


「此処か」

「うん」

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